第12話

 そんな会話が「冒険者ギルド」で交わされているとは露知らない

ハインツ一行は、中級者冒険者向け迷宮の一階層の探索を進めていた

 冒険者登録した新人冒険者を加えて、中級者向けの迷宮に挑むなど普通であれば

 正気の沙汰ではない

 しかし、新人冒険者が常識を覆すほどの実力を持っているとなれば話は別だ

 今も昆虫属と動物属の魔物の大群相手に、先手必勝は戦術の常道と

言わんばかりに

 前衛を務める「拳闘士」のローザが躊躇うことなく突っ込んでいく



 その後を遠距離攻撃が出来る「闇狩人」のアトリーサが追いかける

 そして、その2人をフォローするように「迷宮道士」の カルローラが続く

 その更に後方では、治療空間を展開し全体を見渡すように全体を俯瞰する

 役目を担う「回復士」のテレンスが控えていた

 戦闘が始まった直後、真っ先に動いたのは、やはり虎の着ぐるみを

 着たローザだった

 右に左に、ユラリ――ユラリと動き、身体能力の高さで瞬く間に

 大群の真ん中まで入り込む

 すると、そこにいる全ての昆虫属と動物属の魔物が一斉に

 彼女に襲い掛かって来た

 だが、それはローザの思う壺であった

 ローザは腕をグルングルン回すと拳を硬く握り、襲い来る魔物達に向けて左、

 右と規則正しく拳を突き出していく

 拳を食らった昆虫属達は、次々に弾け飛んでいった

 拳を繰り出しながら、まるでダンスでも踊るかのように軽やかなステップを

 踏むローザの姿は、まさに舞っているようだった


 次々と拳を打ち付けられていくが、それでも数体の昆虫属達がローザに

 向かって突進してくる

 だが、それも計算の内だと言わんばかりに相手の一挙手一投足を見逃さず、正確に

 見極めた後に大きくジャンプして拳を繰り出す


 その拳をモロに食らうと、相手は破裂音と共に吹き飛ばされた

 ローザが狙っていたのは、こちらの懐に入り込ませる事だ

 そして、それを確実に実行出来るだけの技量が、彼女にあったのだ

 その姿を後方から見ていたハインツは、、思わず感嘆の声を漏らす

 虎の着ぐるみという奇抜な格好をしているローザだが、その

 戦闘技術はとても 高い水準に達している


 しかも、その見た目とは裏腹にしっかりと仲間の動きを見ていて、 それに

 合わせて最適な行動を取っている

 前衛の彼女の指示通りについて行けば、間違い無く安全だとハインツは

 これまでの戦闘を目の当りにして確信していた

 それでも昆虫属と動物属の魔物は、ローザの周囲を厳重に固め肉薄攻撃を

 止めようとしなかった

 いままさにローザに飛び掛かろうとした昆虫属と動物属の魔物群に、無数の

 杭が降りかかった

 魔物達が気付いた時にはもう遅すぎた

 串刺しにされた魔物達は悲鳴を上げる暇もなく絶命していく その光景を目の

 当たりにする昆虫属と 動物属の魔物群は、明らかに怯んでいた




 しかし、それでもまだ戦意を失っていないのか、ローザを取り囲むようにして

 包囲する

 だが、既にローザはその包囲網を抜け出し、後方にいる

 敵目掛けて駆け出していた

 一瞬で背後を取られた事に驚愕する魔物達に、閃光の様なローザの

 攻勢は容赦がなかった

 魔物達の眼球、頸椎、喉元、心臓、頭部を的確に打ち抜いていく

 その凄まじさに、さすがのハインツも目を疑うほどだった

 それでもなお昆虫属と動物属の魔物達はローザに襲い掛かろうとするが、

 その途端に再び無数の杭が降り注ぐ



 今度は先程よりも広範囲に、それでいてピンポイントに狙い撃ちされていた

 しかも、その杭の雨はローザを避けるように周囲の魔物だけ集中的に降っていた

 無数の杭の雨を降らしているのは、「闇狩人」のアトリーサだ

 どの様な仕組みなのかは不明だが、アトリーサが扱っているハンドクロスボウから

 杭を射出している

 2人の連携プレーにより、僅か数分の間に魔物の数は

 半分以下に減っていた

 その光景をハインツは信じられない表情で見つめていた

 この2人の連携プレーにより、僅か数分の間に魔物の数は

 半分以下に減っていた



 その光景をハインツは信じられない表情で見つめていた

 連携プレーが、余りにも初めて組んだ冒険者同士とは思えないほど、見事

 だったからだ

 しかも、驚くのはお互いの動きを理解した上での行動だ

 最初の戦闘での連携プレーは何処かぎこちない部分があったが、それ以降は

 完全に息の合った動きになっている


 それは、お互いに互いの動きを完全に理解し合っている事の証明でもあった

 それだけではない

 昆虫属と動物属の魔物の集団を相手に前衛を務めるローザが敵を

 惹きつけている間に、後衛のアトリーサが精密射撃を行う

 その間も、ローザの拳が昆虫属と動物属の魔物達を次々と屠っていくのだが、

 ローザの拳を掻い潜った魔物も当然存在する




 だが、その度にアトリーサの正確な狙撃によって倒されていく

 ローザは敵の攻撃を紙一重のところで避けながら、相手の急所を

 的確に突いていく

 その正確無比な一撃は、まるで相手の弱点が手に取る様に解っているかのような

 感じであった

 ローザの攻撃を避けきれなかった魔物は、例外なく絶命していった

(これで新人冒険者だとは、到底信じられない)

 それの光景を見て、そんな事を考えていたハインツは慌てて自分も戦いに

 参加しようと前に出た

 その時、ハインツの前に大きな影が立ち塞がり彼の行く手を阻んだ

 ハインツはその正体を確かめるべく視線を上げると、そこには3メートルを

 超える体躯の熊がいた




 それも牙獣属の種類の中でも、通常種よりも巨大で体毛および両腕の甲殻が

 真っ赤な禍々しい姿の魔物だ

 戦闘能力も高く、通常個体よりも凶暴で狂暴な亜種と呼ばれる種類である

 ハインツは相手が格が違う事は一目見て分かった

 だからといって臆して引き下がる訳にはいかない

 それにここは自分が頑張らなければ、パーティのリーダーとして面目が立たない

 意を決したハインツは、剣を抜くと目の前にいる敵に対して構えを取った

 しかし、その直後巨大な熊の魔物は天井から降りてきた回転ノコギリによって

 両断された

 一瞬の出来事に、何が起きたのか分からず呆然と立ち尽くした

ハインツだったが、それが アトリーサの仕業だという事にすぐに気付いた






 彼女はハインツに背を向けると、ハンドクロスボウを構えて再び狙いを

 定め始めた

 どうやら、あの魔物を倒すのが目的ではなく、あくまでも魔物を

 引き付けるのが目的のようだ

「危なかったな」

 ハインツは、声がした方に視線を向けるとカーリンがこちらに向かって歩いてきた

 カーリンの後ろには、タルコットとテレンスもいた

 2人も目立った怪我などはしていなかった

「ああ」

 ハインツは頷いた

 確かにあのまま戦っていれば、いずれ負けていただろう

 それほどまでに、相手との実力差があったのだ

 もし、アトリーサが助けてくれなかったらと思うとゾッとした

 ハインツは改めて、前衛の2人の隔絶した強さに驚かされると同時に自分の

 未熟さを痛感させられた

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