第9話
この世界の数多の種族の瞳を夢と希望で曇らせ呑み込む、数多くの迷宮の正確な
図面や情報などは いまだ完全ではない
地図職人や、迷宮内の構造に詳しい専門家達によって、迷宮の構造は
日々変化している
だが、迷宮の全体像を把握している者は誰もいないだろう
そもそも、この世界に迷宮がどれほど存在するかも分かっていないのだ
それでも人々は、己の命を賭けて迷宮に挑む事をやめない
しかし、大半の種族は未知なる領域への好奇心から、冒険者となる事を
選んだ者達なのだ
未知なる迷宮の1つ1つの階層の広さは、1つの城塞都市の二倍とも三倍
とも言われている
あくまで噂の域を出ないが、中級冒険者向けの迷宮以上に至っては
1つ1つの階層が一つの国が丸ごと入る大きさだという
それが地下幾層もあると言われているため、その全容を知る者はいない
初級冒険者向けである中級迷宮ですら、まだ全体の一割程度しか
攻略されていないらしい
だが、冒険者という職業に就いている者の多くは、そんな事は気にしない
むしろ、自分が今いる場所が、どんなところなのかすら分かっていなければ、
すぐに死んでしまうような世界だ
だが、それでも冒険者になる事を志した者達は、冒険者ギルドへ登録し、
初級冒険者として活動を開始する
それは何故か? 理由は単純明快
―――未だ誰も見たことがない様な財貨、武器、防具、魔法道具が手に
入るかもしれないからだ
それを手に入れる事ができれば、一生遊んで暮らせるほどの
金を稼ぐ事ができる
冒険者になる事を志す者達は、皆それを狙っているのだ
ハインツもまた、そんな冒険者の一人だ
もちろん、冒険者になったからといって、誰もが簡単に稼げるわけではない
上級冒険者になれば、国によっては貴族として迎え入れられ、王族の側近に
取り立てられる事もある
しかし、下級冒険者で生涯を終える者が大半だ
そして、中級冒険者以上の冒険者に上がれるのはほんの一握りだけ
上級冒険者になれる者もごく僅かしかいない
上級冒険者の中でも更に上の実力者になると、もはや伝説級の存在と化す
そして、上級冒険者の中にも様々な派閥が存在する
中には、冒険者ギルドの依頼を受けるだけでなく、独自の組織を
作る者も少なくない
その全てを合わせても、冒険者ギルドに登録している人数は百万人近くに
及ぶと言われている
冒険者ギルドに加入していない者や、冒険者になりたての者でも、冒険者ギルドが
指定する迷宮や他の街にある迷宮に潜る事はできるが、ギルドに申請して
発行される
許可証がなければギルドが指定した以外の迷宮に潜り、冒険者として
活動する事は出来ない
また、冒険者ギルドから発行された許可証を持つ者以外は、他の街の迷宮に
足を踏み入れる事はできない
これは、冒険者の安全を守るためでもある
もちろん迷宮だけではなく、この世界には魔境と呼ばれる
未開拓の土地が数多く存在し、そこにも強力な魔物達が闊歩する
それらの魔物を討伐する事で得られる素材は貴重な物が多い
特に魔物達の体内に存在する魔力の結晶体たる魔石は、高価な
値段で取引される事が多い
さらに、希少な金属や宝石類も多く出土するため、それらを
狙う野心家の冒険者も多い
しかし、それらの土地に生息する魔物達は、中級冒険者では
太刀打ちできない程の強敵ばかりだ
そこで、冒険者ギルドが冒険者のために用意したのが、上級冒険者の
発行する許可証だ
上級冒険者の同行者がいれば、例え中級迷宮であっても、安全に探索する事が
可能であり、多くの冒険者がそれを欲する
しかし、上級冒険者になるためには、並々ならぬ努力が必要とされ、挫折する者も
後を絶たない
――冒険者ギルドの応接室で2人の新人冒険者を加える事を決断した
ハインツだったが、やはり幾つか聞きたい事があったため、受付嬢には
残ってもらっていた
「応えられる範囲でいいです。 ご紹介してもらったあの2人は
本当に新人なのですか?」
ハインツが質問する
「……そうですね、あの2人は確かに初心者です」
受付嬢は少し困った表情を浮かべたが、何かを思い出したのか口を開いた
「今現在パーティにいるタルコット ローザ テレンスについて、こちらの
『冒険者ギルド』で 何か聞いていたりしますか?」
冒険者ギルドの受付嬢は、冒険者ギルドに所属する全ての冒険者に対して
公平でなければならない
その原則があるため、あまり特定の冒険者を贔屓するような発言は
控えなければならない
そのため、先ほどまでの表情とは打って変わって真剣な貌つきになっていた
「それに関しては私は何も聞いておりませんし、そもそも
冒険者ギルドに所属している冒険者であれば、 どの方に対しても
平等に接するように心掛けておりますので……」
受付嬢が申し訳なさそうな顔をする
「 『冒険者ギルド』の規則で、、冒険者ギルドの職員が冒険者同士の
会話に介入するのは禁止されている事は知っていますが、それでも
あの3人が 何故あんなに強いのか気になってしまって…」
ハインツが俯きながら呟く
「……そうですか。
いえ、私から言える事はこれ以上ありません。
後は、本人達から直接お話を伺って下さい」
受付嬢は笑顔を見せると、それ以上は何も言わなかった
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