第4話
――翌日、ハインツは新たなパーティメンバーを加えて再び迷宮に挑んだ
ハインツ達は現在、迷宮の第二階層を進んでいた
「ハインツ・・・お前は何処からあんな冒険者2人を紹介されたんだ?」
カーリンが、貌を引きつらせながら尋ねてきた
その声は慄きが混じっていた
「 『冒険者ギルド』から紹介されたんだよ」
ハインツは嫌な汗を流しながら淡々と答えた
この迷宮の一層は、苦労するような魔物は殆どいない
せいぜいが低級の小鬼属、動物属、昆虫属、不死属といった
雑魚だけだ
強い敵に遭遇せず、奇襲を受けずに経験を積み、ひとつ
成長出来れば一階の探索は安定する
別の迷宮では、一層から強力な魔物が徘徊している場合もあるらしいが、
ここではそういった心配はない
故に、新米の冒険者はここで腕試しをする事が多い
逆に言えば、その程度の敵で苦労するような有様では他の迷宮に
挑むのは自殺行為に等しい
例え新米の冒険者が腕試しをする事が多くても、二層からは少し
毛色が変わり状態異常を与えてくる魔物が姿を現しはじめる
神経を麻痺させてくる歩く植物と言った曲者や、ハインツ達が苦戦した
貌が蛙で身体が人間という生物、さらには、見た目だけは可愛いが
毒持ちの小鳥やら見た目だけで判断できないような怪物が現れるようになる
地下二階を通り抜けたいなら、十分に準備して臨む必要がある
だが、ハインツ達の目的は今回は別にあった
今回の目的は、パーティメンバーに新しく加わった2人の実力を確かめ、
迷宮探索に慣れさせる事だった
結果的に言えば――――2人の冒険者は想像絶する実力の持ち主だった
前衛を務める虎の着ぐるみを着込んだローザは、『拳闘土』だけあり、
素手で戦闘を行った
武器を使わず、体術を駆使して貌が蛙で身体が人間という魔物の集団や
棍棒を持って襲い来る
トロールの集団を体術を駆使して戦う姿はまるで舞っている
ようであった
蛙貌魔物の攻撃を右に左に躱し、時には受け流し、カウンター気味に
強烈な一撃を繰り出す
また、その攻撃は相手の急所を正確に打ち抜くだけでなく、動きを
止めるために関節部を狙っている
ローザの格闘技術はかなり高いレベルにあり、ハインツの目から見ても
見惚れるほどのものだった
トロールが容赦なく棍棒で滅多打ちにしようとするが、虎の着ぐるみを
着たローザはその全てを回避していた
「す・・凄い・・・」
タルコットも呟いた
ローザの華麗な身のこなしと無駄のない洗練された動作は、 それは見る者を
魅了するには十分すぎた
ただ、虎の着ぐるみを除いてだが
「・・・・『冒険者ギルド』からの紹介って・・・お前は何とも
思わなかったのか?」
カーリンは呆れたようにハインツに尋ねる
「言いたいことはわかるが、あれでも新人なんだぞ?
しかも女性だ
俺だって最初は戸惑ったさ それに、俺は彼女のことを
よく知らない
まぁ、これから知っていけばいいだろ?」
ハインツは苦笑しながら答えた
「・・・では、あの筋骨隆々の巨漢で強面も新人か?」
カーリンは信じられない表情を浮かべつつ尋ねた
外見とは違いテレンスは、『回復士』としては超一流の実力を持っていた
それは、戦闘中の彼の立ち振る舞いを見ていればすぐに分かることだった
まず、彼は戦闘中は一歩引いて戦況を見極めると同時に仲間の状態を
把握していた
そして、仲間の危機には即座に対応した
特に治癒魔法に関しては、他の『回復士』とは比べ物にならないレベルだった
ハインツが知っている限りの治癒魔法は傷口に手を翳していたが、巨漢で
強面のテレンスは自身を中心に緑の光を放つ治癒空間を展開した
しかもただの治癒空間ではなく状態異常回復効果のあるものだ
テレンスの扱う治癒魔法は、通常のものとは根本的に違うものなのかもしれない
そう感じさせる程、テレンスの使うものは特殊だった
その展開範囲は迷宮の壁や天井にまで及んでいて、迷宮全体を包み込むような
広さがあった
展開空間内では、治癒の速度が尋常ではなく一瞬で全ての傷が癒えてしまった
その展開範囲は半径100メートルは優にあった
また魔物に至ってはその展開空間には侵入する事も出来ず、逆に傷を
負う始末だった
テレンスは治癒魔法だけではなく、聖属性系魔法や神聖魔法の扱いにも
長けていた
それもかなり高度な魔法をだ
テレンスが後方から主力攻撃として扱っていたのは、恐らく
神聖魔法の光の玉を飛ばす攻撃だった
追尾性能が非常に高く、しかも長射程
魔法球一発の威力も高く、そして必ず命中していた
だが、テレンスの攻撃手段はされだけではなかった
詠唱破棄で発動させた、テレンスを中心とする聖属性ダメージを
魔物に与え続ける巨大な神聖空間を展開だ
魔物達はその領域内に足を踏み入れば、一瞬で塵へと変わった
ハインツの知る限りでは最強の攻撃方法だ
しかし、その代償なのかはわからないが・・・いや、治癒空間を展開する時もそうなのだが、
魔法発動中テレンスは強面の両眼から血涙を流し、左右の手足から血を
溢れさせていた
ハインツは絶句したが、テレンス本人はそんな事など気にも留めていない
様子だった
まるでそれが当たり前であるかのように、淡々と治療を続けていた
この2人だけで一個旅団並の力を持っているのではないかと思った
ハインツだったが、それを口に出せば、 間違いなく2人は否定するだろうと
と考えた
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