第3話

 ―――4層まで予定していた迷宮攻略はハインツ一行だったが、3層途中

 までしか進めなかった

 原因はタルコットの奇行行為でフランカが精神的に

 まいってしまったためだ

 ハインツはタルコットを戦力として計算していたが、その考えを

 改めざるを得なかった

 彼は、確かに強力な攻撃魔法を持っているが、それ以外では

 役に立たないと判断したのだ



 タルコットは自分が役に立ていないとわかると、ますます

 奇行行為を激しくさせた

 拳から血を流すほど迷宮の壁を殴ったり、貌を血だらけにしつつひたすら

 額を壁に打ち続けた

 その姿を見たハインツは慌てて止めさせたのだが、それでも

 タルコットの行動に変化はなかった


 そこで、ハインツは一旦地上に戻る事にした

 これ以上、タルコットを連れて予定している階層まで行くことは、すでに

 精神的に参っていたフランカの負担になると考えた

 それに、ハインツ自身も疲れを感じていた

 ハインツは苦渋の決断として、精神的に参っていたフランカを

 外すことにした

『冒険者ギルド』へ戻ったハインツは、『冒険者ギルド』のパーティ

 人員募集掲示板に再び急募の張り紙を出した




 それから、ハインツ達は3日間休息を取った

 その間の事件と言えば精神的に参っていたフランカが、『冒険者を引退して

 故郷に帰ります  今までありがとう』

 という置手紙を残してを消した事ぐらいだ

 3日目の朝に、ハインツが『冒険者ギルド』からパーティ人員募集に

 関しての呼び出しを受けた

 ハインツは募集に応じてくれた、冒険者がいたのかと期待しながら

 受付に向かった

 そこに居たのは微妙な表情を浮かべている受付嬢と、奇妙な

 2人組の姿があった

 1人は寸劇イベントで使われるを着ている

 謎の冒険者

 もう1人は筋骨隆々の、杖を持ち外套を着込んでいた

 ハインツは思わず眉をひそめてしまった

 警戒心を露にしつつ、ハインツが近づいてくると揃って頭を下げた


「えー・・・ひょっとして?」

 ハインツは微妙な表情を浮かべている受付嬢に尋ねる

「はい。実はハインツさんが、募集の張り紙を出された後で、この

 方達が来られまして」

 受付嬢が言うと、2人の冒険者はハインツの前に歩み寄った

「初めまして、私は『回復士』のテレンスです」

 筋骨隆々の巨漢で強面の冒険者が名乗ると、ハインツは驚いた

 見た眼とは裏腹に丁寧な口調で、物腰が柔らかかったからだ

 ハインツは内心で驚きつつ、軽く会釈をして挨拶を返した

 続いて隣にいるをした人物が一歩前に出て名乗り始めた

「『拳闘土』のローザと言います」

 その声を聞いてハインツは更に驚くことになった

 声の主はどうやら女性だったようだ

 2人の冒険者は、見た眼とのギャップが激しかった


「お2人とも、最近冒険者に成られたばかりですよ」

 受付嬢が微妙な表情を浮かべながら説明してくれた

 ハインツはそれで納得するしかなかった

 おそらく、見た目だけで判断したのだろう

 だから、2人が登録した際に担当したのが彼女だったに違いない

 そう思うと、少し可哀想に思えた

 そんな事を考えつつ、ハインツが話を切り出した

「・・・早速なのですが、自分達のパーティと共に迷宮探索を

 お願いしたいのですが、 如何でしょうか?」


 ハインツが2人の冒険者に視線を向けつつ尋ねる

「構いませんよ。ただ、自分は見ての通り前衛職ではないので、そちらの方は

 大丈夫ですか?」

 テレンスが応えた

 ハインツは、それを聞いて『いや、どう見てもにしか見えないんですけど』と 突っ込みを入れたかったが、ぐっと堪えた

 そして、隣のローザに視線を向ける


 虎の着ぐるみを着込んでいるため、どんな体躯をしていいるのかはわからないが、身長は高く 筋肉質である事は間違いない

 何より気になったのは、着ぐるみの背中にあるチャックだった

 あれはどうやって開閉させているんだろう?

 そんな疑問を抱いたが、とりあえず無視することにした

「問題はないです、見ての通り前衛職なので」

 虎の着ぐるみを着込んでいるローザが答えた

『いや、どう見てもんだけど』ハインツはまたしても

 突っ込みそうになったが、今度も我慢した

 だが、どうしても聞いておきたいことがあった

 ハインツは意を決して質問した


「えーと・・・ローザでいいのかな? 何故虎の着ぐるみを着込んでるんだい?」

 ハインツの言葉を聞いた途端、ローザの動きがピタリと止まった

 それから、ゆっくりとハインツに貌を向けた

 着ぐるみの中の素顔は、どんなのかはわからない

 ハインツは自分の失敗に気づいた

 ローザにその事を尋ねてはいけないと直感的に感じ取った

 また、冒険者には暗黙の了解として詮索してはいけない部分がある


 それは、過去の経歴であったり、家族構成であったり様々だ

 中には、あえて語らない者もいる

 特に女性の場合はそうだ

 過去を語るということは、自身の弱点を晒すということでもあるからだ

「・・・」

 ローザは、何かを言おうとしていた

「すまない、聞かなかったことにしてくれ」

 ハインツは即座に謝罪すると、慌てて取り繕うように

 話題を変える事にした

「詮索好きは嫌われますよ? ハインツさん

 所で、タルコットさんはどうでしたか」

 話題を変えるための手助けか、受付嬢が助け舟を出してくれた

 ハインツはその意図を理解して感謝し、 会話に乗った



「彼は良い人ですね」

 ハインツは笑顔で答える

 だが、内心は色々と聞きたい事で一杯だった

 例え尋ねても、『冒険者ギルド』側は応える事は恐らくないだろう

 だからこそ、ハインツは知りたかった

 タルコットという人物を『冒険者ギルト』側はどう見ているのかと・・・

 それは、紹介された2人の冒険者についても同じことが言える

 余りにも見た眼とのギャップが違いすぎるのだ

 ハインツは気になって仕方がなかったが、ハインツは2人を仲間に

 加えることに決めて迷宮に向かうことに 意識を集中させた




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