16th 因縁
廊下を走りながら、渡羽は無表情で背中のアスカに問いかけた。
「アスカ、訊いてもいいですか? カリンさんの言っていたこと……」
「……やっぱり、気になる? よね……」
「聞かない方がいいことなら、訊きません。でも、話せるのなら知りたいです」
しばらく沈黙が落ちた。ややあってアスカは小さくため息をついた。
「分かった。話すわ。本当は人間界の住人に、魔法界と人間界の関係を話しちゃいけないんだけど……もう巻き込んじゃったし、隠しておけないから」
目を閉じ、アスカは一度深呼吸した。真剣な顔つきでおもむろに話し始めた。
「カリン……本名はカデリーン。あたしの一つ下の妹で……マーティン――リーフェミアルを憎んでる」
渡羽の隣を飛んでいたティアラが悲しそうに表情を暗くした。渡羽は表情を変えず、何も言わなかった。
「マーティンは魔法界の言葉で『人間』を表していて、リーフェ人とシェーシア人をまとめてそう呼ぶの」
惑星シェーシア――リーフェと同じ宇宙に存在するもう一つの惑星の名だ。シェーシアには様々な種族がいると言う。
シェーシアとは数十年前から世界的な交流が始まっており、シェーシア人がリーフェに移住するケースも見られている。
事実、渡羽の幼学生時代の同級生にシェーシア人がいた。
「リーフェミアルはリーフェの住人って意味で、渡羽はマーティンでありリーフェミアル。あたしたち魔法界の住民はテュレーゼミアルよ。
そして、カリンがリーフェミアルを憎んでいる理由、それは…………
リーフェミアルがテュレーゼミアルを狩って、リーフェから追い出したから」
ピタ、と渡羽は足を止めた。アスカは静かな声で続ける。
「テュレーゼミアルは元々、リーフェに住んでたの。住んでたって言っても、ホントの最初は別の世界で…リーフェに移り住むことになったんだって。
その頃、リーフェにはもうリーフェミアル…人間が住んでて、初めは不思議な力を持ってたテュレーゼミアルを警戒してたんだけどね、少しずつ打ち解けていったんだって。
――あ、この頃はテュレーゼミアルじゃなくて、ジョアロトって呼ばれてたんだけど」
渡羽は何も言わない。それでもアスカは語る。昔々から言い伝えられてきた歴史を。
「でもね、何十年か経って…ある人間がジョアロトのひとりを瀕死の状態にしちゃったの。
ジョアロトは魔法が使えるから、すぐに回復したけど…そのジョアロトは自分を傷つけた人間を恨んで、魔法を使って死なせてしまった」
魔法で命を奪うのは禁じられている。だからそのジョアロトは、その後重い罰を受けたのだけれど。
「それがきっかけだった。ジョアロトに反感を抱いていた人間たちが、ジョアロトを襲うようになったの。
全部の人間がそうだったわけじゃないけど、怒りが連鎖して、ジョアロト狩りが始まった」
ぴく、と渡羽が反応した。けれど何も言わない。
「当然、ジョアロトは身を守るために戦ったわ。でも、『魔法使いは人間を魔法で傷つけない』って誓約を結んでいたから、魔法を使わずに戦った。普段魔法に頼ってるだけに、ジョアロトが不利だった」
多くの命が散った。ジョアロトも、リーフェミアルも。
「狩りはそのうち規模が拡大し、全面戦争に発展した。ジョアロトとリーフェミアルの軍、そして中立軍。中立軍は両者の和解を求め、戦場に立った。
でも、もう取り返しがつかなくて、どうしようもなくて……中立軍のリーダーが、ある提案をしたの」
『このまま戦争を続けていても互いに被害が増すばかり。だから我々ジョアロトは、この世界とは別の世界に移住するのはどうだろう』
「リーフェミアルたちは喜んで提案を受け入れたけど、ジョアロトは猛反対した。でも、最後には中立軍の必死の説得に、ジョアロトは泣く泣くリーフェを去ることになったわ。
その記憶は魂と歴史に深く刻み込まれた。魂に残っている先祖の記憶と歴史が、カリンに憎しみを刷り込ませてるのよ」
「……カリンさんは、自分の意思で俺たちリーフェミアルを憎んでいるわけではない、ということですか?」
ずっと無言だった渡羽がようやく口を開いた。アスカは「……うん」と頷いた。渡羽は長く息を吐き出し、
「それならよかったです」
と笑った。アスカもティアラも目を瞠った。今の話を聞いて、笑うなんて。
「渡羽?」
「それってつまりは、周りの人から『この料理はおいしくないよ』と言われて、自分では食べたことないけど、ああそうなのかって思いこんでいるのと同じことですよね」
「え? あー、うーん……そういうこと…になるのかな? どうなの、ティアラ」
突然、話を振られて、ティアラはまごついた。
「えっ! ええと…………たぶん」
「なら、大丈夫ですよ!」
にこにこ笑い、渡羽はまた走り出した。アスカは困惑して渡羽を上から覗き込んだ。
「だ、大丈夫って何が? イヤじゃない? 怒ってない? …悲しく、ないの?」
「そうですねぇ、正直に言えばちょっと悲しいですけど、嫌ではないですし、怒ってもいませんよ。だってそれは大昔のことなんでしょう?」
「うん、千年以上も前の話」
「だったら、そんな昔のことで怒っても仕方ないじゃないですか。それに、俺一人が怒ったところで意味ありませんし」
……渡羽の言う通りかもしれない。今さら怒ったところで、魔法界と人間界の関係が変わるとは思えない。
「だからアスカ。気にしなくて“大丈夫”ですよ」
「!」
その言葉だけで、アスカの瞳から涙があふれた。アスカは渡羽の背中に顔をつけた。くぐもった声で言う。
「……ごめん」
「いいえ」
「ごめんね、渡羽。イヤなこといっぱい聞かせて」
「俺の方こそすみません。つらいことを話させてしまいました」
ふるふると首を横に振るアスカ。
「ほんとはね、怖かった。このこと話したら…渡羽があたしのこと、嫌いになるんじゃないかって…っ」
「嫌いになんかなりませんよ。どんなことがあっても」
「…っほんと?」
「はい。何があっても俺はアスカが好きですよ」
にっこりと笑う渡羽。
「……なんかさっきから渡羽、いつもと違う」
渡羽が『好き』だと言ってくれることなど滅多にないので、アスカは珍しく赤面した。
「あはは……なんだか魔法界に来てからいろいろと吹っ切れました。あれこれ言われて」
「さらにかっこよくなったかも」
「そ、そうですか?」
「えへへ。大好きだよ、渡羽!」
顔を上げ、アスカは渡羽の首に抱きついた。
「わわっ」
よろめきながら、渡羽は謁見間へ走り続けた。
渡羽の背中から手を伸ばし、アスカは扉に触れる。
りぃーん。
甲高い澄んだ音が響き、扉が開く。
「母様!」
先ほど出て行ったばかりの娘たちが飛び込んできて、マジカリア国女王・イリアタルテは軽く目を瞠った。
「どうしたの、アスフェリカ。そんなに慌てて」
「大変なの!」
「……そうね、大変仲がよろしいようね」
「え? あ!」
面食らっている女王の言わんとしていることに気づいて、アスカは顔を真っ赤にした。渡羽の背中の乗り心地がよくて、いまだにアスカは渡羽の背中に乗っていた。
国王が二人を見て「若いなぁ」とうれしそうに頬をゆるめている。
「あーっ、えっと、これはその! と、渡羽! もう下ろしていいからっ」
「もう大丈夫なんですか?」
アスカはこくこくこくと何度も頷いた。背中から下ろしてもらうと、アスカはこほん、と一つ咳ばらいをした。
「あのね、カリンが…カリンが
「「!!」」
ガタン、と国王は玉座から立ち上がった。女王は苦々しげに目を細める。
「……カデリーン……なんでまたそんなバカなことを……」
「さっき、カリンと鉢合わせしちゃって、渡羽のことを知ったカリンが怒ったの。それで、人間界をメチャクチャにしてやるって……
母様! 母様なら時空移動魔法使えるでしょ!? 今すぐあたしたちをリーフェに送って! あたしがカリンを止めるわ!」
「……そうね、分かったわ。頼んだわよ、アスフェリカ」
謹厳に頷くアスカ。女王は玉座から立ち上がると、不安に顔をゆがめている国王の腕を軽く叩き、
「大丈夫よ。アスフェリカに任せましょう」
そう微笑んで、ぐっと厳しい顔つきになる。
「ファイディーラ=ボツ=ジェイシーエルク・リ=ラーチ=タカヴァ=ツージャガ=フォカスト=レレッキーチャメロネルク」
白い光の円がアスカたちの足元に現れ、次の瞬間には、アスカたちはその場からかき消えた。
時空移動により、アスカたちは人間界へと戻ってきた。途端に凍えるような寒さが襲ってきた。
「うわっ、寒っ」
「ぎゃーっ、そうだった! こっちは冬だったんだぁっ」
時間の流れが違うため、魔法界は真夏でも人間界は真冬。アスカが服変換の魔法を解くと、人間界を出発した時の服装に戻った。
「う~、こういう時は時間の流れが違うと困るわね。さて、とカリンは一体どこに…」
と、アスカが首を巡らせた時だった。一足先に辺りを確認しに行っていたティアラが大慌てで戻ってきた。
「ひ、姫様ぁー! たたっ、大変ですーっ!」
「ティアラ!? どうしたの!?」
「ま、街が大変なことに…とにかくこちらに来て下さい!」
ひゅん、とティアラが商店街の方へと飛んでいく。アスカと渡羽は顔を見合わせ、ティアラの後を追った。
商店街に近づくにつれ、何やら騒がしくなってきた。道を曲がり、二人は飛び込んできた光景に絶句した。
巨大化した車やアリが、そこら中で暴れ回り、それらから逃げ惑う人々。
道のあちらこちらには、奇怪なオブジェが並び、兵隊よろしく、行進している雪だるまが練り歩いている。
「……なんですか……これは……」
渡羽が目を丸くして呟いた。アスカはため息をついてうなだれた。
「はぁ~……やってくれたわね、カリン……
あの子、やる時は容赦ないし、このまま放っておくと、さらにすごいことが……」
「のんびりしてないで、なんとかして下さい、姫様! そのために戻ってきたのでしょう!?」
「そうね、これをどうにかできるのはあたしぐらいしかいないもんね。渡羽、少し離れてて」
「はい。頑張って下さい、アスカ」
「まっかせて」
得意げにウインクをし、アスカは商店街に向けて両手を向けた。
「ヴィアオ=コキヒエッジア=ニンターエルク・パザンカ=バパジャ=ゴアラ=ヤイシフィエルク!」
アスカの手から放たれた光が、一枚の布のようになり、商店街を覆った。光の中で雪だるまやオブジェなどが消えてゆく。
「やった、成功!?」
思わずガッツポーズをするアスカ。だがしかし。
ボンッ、と煙が商店街を覆ったかと思うと、商店街が鬱蒼としたジャングルに変わった。人々の混乱倍増。
アスカはガッツポーズしたまま目を点にする。
「……あれ?」
「姫様ーっ、状況を悪化させてどーするんですかーっ!!」
「うるさいなぁ。できなかったものは仕方ないでしょー? うだうだ文句言わないでよ」
むっとした顔で言い返すアスカ。その時、頭上から笑い声が降ってきた。
「あっははは! 相変わらず魔法使うの下手なんだね、姉さん」
「カリン!」
アスカたちが頭上を見上げると、カリンが宙に浮いた金色の雲に腰掛けていた。
あれは
移動速度も自在に変えられるが、さほど速くはなく、ゆったりと空を散歩する時などによく使われる。
カリンは足を組んでアスカたちを見下ろし、斜に構える。
「そんなに魔法使うの下手なんて、女王候補失格なんじゃないのー?」
「むむむ」
「それくらいアタシだってできるし、なんで姉さんが選ばれたのかわっかんないわ。ホント、なんで姉さんなんだろ。いつも」
笑みを消し、カリンはアスカを睨み見る。
「候補とはいえ、姉さんを選ぶなんてパーガウェクオも見る目ないね。他の候補者はもっとうまく魔法使えるよ。最低でも
「う、うるさいわね! そんなに自信たっぷりなカデリーン様なら、この状況をなんとかできるんでしょ? 早く元に戻しなさい」
見返すアスカを、カリンは鼻で笑った。
「ヤダね。言っただろ? 人間界をメチャクチャにしてやるって。こんなのまだ序の口だよ」
「そう。やめる気はないのね。なら、力ずくでもあんたを止めてみせるわ!」
「おもしろいじゃん。姉さんの魔法でアタシを止めるっての? やれるもんならやってみな!」
「姫様! カリン様! おやめ下さい、姉妹で争うなんて…」
「カリンの邪魔はさせないぜ、ティアラ」
慌てて二人の後を追おうとしたティアラの前に、クラウンが立ち塞がる。ティアラは一瞬、怯えたように肩を震わせたが、今回ばかりは表情を厳しくした。
「クラウン! どうしてカリン様の行いを見過ごしているんですか!?
「分かってるさ。でも、カリンの気持ちはオレだって分かる。オレもリーフェミアルは嫌いだ」
下方の渡羽をちらっと見て言った。クラウンはすぐに視線をティアラに戻し、
「それに……カリンは、オレの恩人だから」
ティアラははっと息を呑んだ。
「お前も知ってるだろ? 昔、オレが森に入った時に妖獣に襲われたのを、カリンが助けてくれたこと」
「……もちろん知ってます。クラウンが無事に帰ってきて、うれしかったです。村のみんなも喜んでいましたね。
クラウンを助けてくれたのがカリン様だって聞かされた時は驚きました。カリン様には感謝しています。
でも、それとこれとは別です! 恩があるなら…恩があるからこそ、主が道を外しそうになった時、その道を正すのが側付です!」
「ダメなんだよ!」
つらそうに顔をゆがませ、クラウンは叫んだ。
「オレにはカリンを止められない。カリンの敵に回れない!
ここでカリンのやることを否定したら、今度こそカリンは一人ぼっちになっちまう! オレはカリンが悲しむのは見たくないんだ!」
何かを訴えるようにクラウンは言う。ティアラはその様子が痛々しく思えて口をつぐんだ。
ただいたずらにカリンはこんなことをしているわけじゃない。理由があるんだと、そんなふうに言っているかのようで。
「オレは……オレだけは、カリンの味方でいてやりたいんだ。カリンはオレの主で、恩人で……友達なんだ。解ってくれよ……ティアラ……」
そう言うクラウンの声はいつもと違ってか弱く、泣きそうだった。ティアラは何も返せず、困惑した風情でクラウンの顔を見つめた。
二人の会話を地上で聞いていた渡羽は、カリンの言動に引っかかるものを感じていた。
カリンがリーフェミアルを――
だが、それが気にかかっている。カリンはアスカを嫌うというよりも、別の感情を抱いているような気がする。それがなんなのか気にかかる。
その理由こそが、この行動の鍵を握っているように思えるのだ。二人を止めるにも、その理由を突き止めなければ。
渡羽は今までの言葉を思い返した。
『姉さんはズルい』
『いいよね、姉さんは! そんなに強い力があって! 好き勝手もできて、誰からも必要とされてさ!』
『姉さんがそう望んだからっ! ワガママ言っても、姉さんなら許される』
『なんでいつも姉さんばっかり!』
『なんで姉さんなんだろ。いつも』
『ここでカリンのやることを否定したら、今度こそカリンは一人ぼっちになっちまう!』
クラウンの言葉を思い出し、渡羽は気づいた。もしかしてカリンさんは……
「グラム=ユァイユ=ゴーゼエルク・リ=パナト=フィーロ=ケナ=ヌールシューベルク!」
カリンが攻撃呪文を唱える。左腕のリストバンドについている青い宝石が光り、一本の水の矢がアスカへと放たれる。アスカは防御魔法の呪文を唱えた。
「ルンウェ=デヴァイデン=ゴーゼエルク・リ=ワノッサ=ケナミパ=リ=エクスチャエルク!」
大気が壁となり、矢を打ち消した。
「まだまだ! グラム=スト=ユァイユ=ゴーゼエルク・リ=パナト=フィーロ=ケナ=ヌールシューベルク!」
またも宝石が光り、今度は複数の水の矢が飛んできた。アスカは魔法力を高め、盾の防御力を上げる。
「うーっ、狙いは正確ね! 威力も高いし…防ぐので精いっぱいだわ」
「ホラホラ、どーしたの、姉さん!? 力ずくでアタシを止めるんじゃなかったの?」
うぐぐ、とアスカは歯を食いしばった。勢いで力ずくで止めるなんて言ったが、手も足も出ない。
カリンは魔宝具を使って魔法力を増幅させている。せめて魔宝具を奪うか破壊できれば…!
「カリンさん!」
「!」
「もうやめて下さい、カリンさん!」
渡羽が空中の二人を見上げ叫ぶ。アスカは動きを止めて渡羽を見る。カリンも声に反応して渡羽に顔を向け……
「うるさい! なれなれしく愛称で呼ぶな、リーフェミアルが!!」
「ええっ!? すすすみません、カデリーンさ……」
「気安く名前を呼ぶなぁ! 地味眼鏡!!」
「ええぇぇぇぇ!?」
理不尽だ。せっかく説得の糸口を見つけたかもしれないのに、なんだか話を聞いてくれなさそうだ……
カリンの言い草にアスカはむかっ腹を立て、怒鳴った。
「ちょっとカリン! 確かに渡羽は、眼鏡で地味で園芸が趣味の勉強バカだけど、そこまで言うことないでしょー!?」
「姫様……そこまでは言ってませんよ」
さりげなくティアラがツッコミを入れる。
「フンッ、誰がやめるか。リーフェミアルの命令なんか聞かない!」
「いえ、別に命令では…」
「うるさいっ、邪魔するな! 行けっ、
紅い種を地面へと投げ落とすカリン。アスカは「しまったっ」と顔色を変えた。
種は地面に落ちると芽を出し、急速に成長していく。蔓が幾つにも枝分かれし、まるで森のようになっていく。
「うわわわっ」
「渡羽!」
ぎゅん、とアスカは渡羽のもとへ急降下。太く巨大な蔓が渡羽に迫る。
「わあああっ!」
「渡羽! 早く後ろに乗って!」
「アスカ!」
渡羽がブロッサムにまたがると、アスカは急上昇。間一髪のところで蔓に捕まらずに済んだ。蔓は成長を続け、空から見ると巨大な森が町のど真ん中にあるようだ。
「しょ、商店街が……」
「まずいことになったわ。あれは
成長する森の中で巨大な紅いカボチャが実っていく。カボチャは人の頭の二倍ほどあり、実ったカボチャから体が生え、手足が生え、人型になった。
「!! カ、カボチャが…いえそれよりも人型に!? あああっ、カボチャ人形が動きだした!?」
カボチャ人形たちは手当たり次第に人を襲い始めた。逃げ惑う人々の悲鳴がこんなところまで聞こえる。
「なんてことを……! このままじゃ本当にリーフェがメチャクチャになるわ!」
歯噛みするアスカ。これ以上やったら、いくら王家でも減刑できなくなる。重罰は免れない。
(そんなのダメ! 止めなきゃ! 助けなきゃ、カリンを!)
いくら生意気でも自分を嫌っていても、妹なのだ。たった一人の妹。大切な家族だ。助けてあげたい。
(でも、どうやって? どうすればいいの!? こんな時、どうしたら……っ)
悔しげにブロッサムの柄を握る手に力を入れる。その時、肩にぬくもりを感じた。振り向くと、渡羽が微笑んでいた、
「大丈夫です。落ち着いて下さい」
「渡羽……」
「カデリーンさんを――助けたいんでしょう? 俺もです。だから、俺にまかせて下さい」
穏やかに笑う渡羽。アスカはその笑顔に、涙が出そうになった。不安が消えていく。
渡羽ならカリンを任せられる。信じられる。
「うん……! 分かった、渡羽。お願い、カリンを助けて!」
「はい。できるだけのことはします」
アスカは渡羽の指示通り、いったん地上の無事な場所へ降りた。カリンが気づいて、意識をこちらに向けてきた。
「何? まだ邪魔する気?」
カリンの蔑視にひるむことなく、渡羽は語りかけた。
「もう一度言います。こんなことはもうやめて下さい」
「しつこいな、オマエも。あんまりしつこくすんなら一発、魔法をぶち込んで……」
「これ以上続けても、君の本当の想いは届きませんよ」
「――!!」
目を瞠るカリン。アスカもティアラも困惑した様子で渡羽を見る。
「カリン様の……」
「本当の想い……?」
「…………」
クラウンは黙って事の成り行きを見守る。渡羽は少し哀しそうに、カリンを見つめた。
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