7th 游泳池
かくして、渡羽、アスカ、美鳥の三人はデパートにやってきた。ここに来てようやくアスカも意味を理解し、俄然はしゃぎだした。
水着売り場に着くと、美鳥は主導権を握って、渡羽に指示を出した。
「それじゃあ私はアスカちゃんの水着選んでくるから、飛鳥は自分のを選んできなさい。
いいのが見つかったら持ってきて見せるのよ。自分だけで決めるのはなし。さあ、いざ戦いの場へ!」
「おーっ!」
意気揚々と、女性の水着売り場へ突撃していく美鳥とアスカ。
渡羽は小さくため息をついて、男性の水着売り場へと重い足を引きずって行った。
さまざまな水着を見て、アスカは目を丸くした。水着というのは、水の中で着る服のことらしい。
魔法界では、魔法で風の膜を張って水中に潜るため、わざわざ服を着替えたりしない。
一口に水着と言っても様々な種類があるものだ。アスカが目移りしていると、美鳥がいくつか持ってきてくれた。
「これが一番オーソドックスなタイプね。スクール水着もこの形だし。あとは…これなんかどう?
同じワンピースタイプなんだけど、下がスカートになってるのよ。でもアスカちゃん、いつもスカートばかりはいてるから、たまにはこういう……」
美鳥は別の水着を見せて「ショートパンツタイプもいいかも」とアスカの体にあてる。
「わぁ、種類がいっぱいあるのね。……ん、なんか不思議な触り心地。すべすべしてるって言うか、妙な弾力がある」
「水中でも動きやすくできてるからよ。あー、あとね、タンキニタイプとか、ビキニなんて言うのもあるのよー」
手にとってはアスカにあててみる美鳥。アスカも、渡羽と出かけられる、恋人らしいことができる、とあってとても楽しそうだ。
二人を遠目に見ながら、渡羽はたらたらと水着を選んでいた。
別にアスカと出かけるのが嫌なわけではないし、むしろうれしいのだが、気が乗らない。
その理由は、行き先がプールだからだ。つい先日、恋人同士になったばかりで、いくら一つ屋根の下に住んでいるとはいえ、初デートがプールだなんて。
(プールと言ったら、水着を着るわけですよね。裸も同然の水着を。
そんな露出の高いものを着ているアスカと二人なんて……恥ずかしすぎますよ~っ!)
渡羽は赤くなったり青くなったりと、かなり動揺していた。周りの客たちが不審な目で見ている。
「飛鳥! ちょっと来て!」
挙動不審な渡羽の腕を、美鳥がぐいっと引っ張った。
「わっ、母さん、なんですか! そ、そっちは女性用ですよーっ」
「今ねぇ、アスカちゃんが水着を試着してるのよ~。飛鳥にも見てもらおうと思って。一緒に歩くんだから、好きな水着の方がいいでしょ?」
「べ、別になんでもいいですよっ。放して下さい~っ!」
「アスカちゃーん、もういいかしら?」
「え……あ、うん……」
いつもと違い、気弱なアスカの声が、試着室のカーテンの向こうから聞こえる。
逃げようと渡羽はバタバタともがくが、美鳥は頓着せずにカーテンを開ける。
「はーい、じゃあ開けるわよぉ」
シャッとカーテンが開かれる。アスカはワンピースタイプで花柄の水着を着ていた。
着慣れないものを着ているせいか、アスカは気恥ずかしそうに俯き加減だ。
一瞬にして、渡羽は目を奪われた。ほけっとアスカの水着姿を見つめる。
「まぁ、かわいい。見慣れてるせいか、スカートだとよく似合うわねー」
「あ、ありがと、美鳥母様」
照れ笑いを浮かべたアスカは、渡羽の視線に気づいて、かあっと頬を朱く染めた。
「そんなにじっと見つめないでよ、渡羽。結構恥ずかしいんだからねっ」
「え? あっ! すっ、すみません! あわわ、うう後ろ向いてますから!」
「もう、それじゃあ意味がないでしょ? どう? 似合ってるわよね、飛鳥?」
「は、はい。似合って……ます」
赤面しながら、渡羽はアスカに背を向けてこっくり頷いた。
美鳥は満足げに頷くと、アスカにOKサインを出した。アスカはホッと笑って、カーテンを閉めた。まだ胸のドキドキが治まらない。
渡羽もアスカも、互いの姿が見えなくなって、ようやく一息ついた。
しかし、そんなことは気にも留めず、美鳥は試着室のアスカに話しかけた。
「じゃあアスカちゃん、次の水着も着てみてね。すぐ近くにいるから、終わったら呼んでちょうだいな」
「う、うん」
「えっ、まだ試着するんですか!?」
「当然よ。一着だけじゃあ、何がアスカちゃんに合うか分からないじゃない? いろいろ試してみて、一番いいものを選ばなくちゃ。飛鳥の方はどうなの? いいの見つかった?」
「……選ぶ前に母さんが無理やり連れてきたんじゃないですか」
「あらっ、そうだったの? ごめんなさいねぇ。後で一緒に選んであげるわ。
あ、ねぇねぇ、飛鳥。あれ、アスカちゃんにどうかしら」
そう言って、美鳥が指さした水着を見て、渡羽は顔を真っ赤にした。
「絶っ対ダメですっ!!!」
マネキンが身につけている紐ビキニに、渡羽は泣きたくなった。
数十分後、渡羽はぐったりとした様子で、水着売り場から出てきた。結局、あれから何度もアスカの水着ショーを見せられ、心臓が壊れるかと思った。
渡羽の水着も選ぶことになったのだが、よりにもよってあの母親が一番に持ってきた水着は……最悪だった。
どーんと目の前に突き出されたのは、真っ赤な海水パンツ。鮮やかすぎる赤。ものすごく目立ちそうだ。
それだけならまだしも、渡羽が何気なく後ろにひっくり返してみると、『漢』と野太い字ででかでかと書かれていた。しかもなぜか周りには桜吹雪。
もちろん、渡羽は「絶っっ対に嫌ですっ!!」と突き返した。「え~? かっこいいのにぃ」と美鳥は不満げだったが。
その後、渡羽が自分で選んだ。普通の無地の海パンを。不満げな美鳥を会計に押しやり、今に至る。
アスカは「もう少し見ていたい」と売り場の中を散策している。
売り場近くのベンチに座り、渡羽は小さくため息をついた。息抜きのはずなのに、なんだか気が重い。
「渡羽くん?」
名を呼ばれ、渡羽は顔を上げた。
声のした方に顔を向けると、クラスメートの
「……高尾……さん?」
制服姿しか見たことがなかったので、私服姿だと、一瞬誰だか分からなかった。
「えっと……こんにちは」
「あ、はい。こんにちは」
渡羽は慌てて立ち上がり、ぺこりと頭を下げた。
「奇遇……だね。こんなところで会うなんて」
「そうですね」
「渡羽くんも買い物?」
「あ、ええ。母さんに無理やり連れ出されまして」
「もしかして荷物持ちに?」
「えーと、まあ……そんなところです」
そこで会話は途切れた。二人の間に沈黙が落ちる。
(ど、どうしよう、こんなところで渡羽くんに会うなんて思ってなかったよう)
明衣子は内心、うれしさ半分、恥ずかしさ半分だった。
(こんなことならもっとかわいい服着てくればよかった。う~、会話が続かないっ。なんか話題話題……そ、そうだ!)
明衣子はさっきくじ引きでもらったチケットを思い出した。
「あの、渡羽くん! 明日空いてるかな? よ、よかったら一緒に……」
明衣子は買い物袋からチケットを取り出しかけ――
「あ、すみません。明日は先約がありまして」
ぴしっと固まった。
「と言ってもさっき決まったんですけどね。他の日ならまあ、いいんですが……って、高尾さん?」
呆然と固まっている明衣子に気づいて、渡羽は首を傾げた。
「高尾さん? 聞いてます?」
「……あはは、そうだよね。わたしなんかと一緒に出かける暇なんてないよね」
ふ……と燃え尽きたような遠い目で、明衣子は乾いた笑みを浮かべた。なんだか目がやばい。渡羽は冷や汗をかいた。
「あ、あの、高尾さん?」
「渡羽くんはマジメだから、受験生の身でありながら遊びに行こうとするわたしにつき合うなんてことしないよね……」
「いえ、そんなことは……」
「ううん、いいの。わたしが悪かったの。急に誘ったりしてごめんね。さよならっ渡羽くん―――――っ」
「高尾さ―――んっ!?」
涙ながらに駆け去る明衣子に、渡羽は唖然とした。
今日の高尾さんはどうしたんだろう。受験勉強で疲れているんだろうか。
鈍感な渡羽は明衣子の言動をまったく理解できていなかった。
「渡ー羽! どうしたの? ぼーっとして」
会計が終わった美鳥と、売り場の散策に飽きたアスカが戻ってきても、渡羽はしばらく唖然としたままだった。
そして翌日、渡羽とアスカは予定通りプールに来ていた。さまざまな種類のプールが一つの公園の中にあり、一日中楽しめるというレジャープールだ。
電車に乗って約三十分。プールはできて日が浅いこともあり、だいぶ混雑している。入場券を買い、入場した二人は更衣室前で別れた。
ティアラは家で留守番のため、更衣室など入ったことがないアスカを一人にさせるのは心配だが、ついていくわけにもいかないので、簡単な説明だけしておいた。
とりあえず昨日買った水着に着替え、渡羽は更衣室を出た。プールに入るので眼鏡は外している。
渡羽の眼鏡は度の入っていない伊達眼鏡なので、眼鏡を外しても普通に見える。
ただ、眼鏡を外すと、眼鏡をかけている時には視えないモノが視えるので、少々難ありなのだが……
「…………」
渡羽はちらりと入場ゲートの外側を見た。
ゲートの正面で、小学生ぐらいの半袖シャツに半ズボンを着た男の子が、こちらを向いて立っている。きょとんとした顔で、ただひたすら微動だにせず。
誰も気づいていない。それどころか、男の子がいる場所を素知らぬ顔で通り過ぎる。あの子は普通の人には視えない。触れることもない。渡羽にだけ視えている。
視えるからといって、渡羽は何もしない。ああいうモノには下手に近寄らない方が身のためだ。
他にも三角帽子をかぶった、ファンタジー小説やゲームに出てきそうな小人が、二人ほど視える。
小人たちはビーチボールや、水中ゴーグルなどを売っている店の周りをうろうろしていて、物珍しそうに売り物を見ている。
眼鏡を外すと、なぜかああいった人外のモノが視える。渡羽が眼鏡をかけているのは、それらを視ないためだ。
関わり合いにならない方がいいモノもいるし、あっちから寄ってきたりもする。そうすると面倒事に巻き込まれるので、視えなくなるならその方がいい。
眼鏡を外している時なら、ティアラもはっきり見える。
眼鏡をかけていてもティアラがうっすらと見えるのは、それだけティアラの魔法力が強いからか、この世界とは違う魔法界の住人だからか。どちらにしても、人外のモノが視えるということに変わりはない。
そしてもう一つ、渡羽が眼鏡を外すと変わることがある。それは口調と性格だ。
眼鏡をかけている時の渡羽は、誰に対してでも敬語を崩さず、引っ込み思案なのだが、眼鏡を外すと敬語ではなくなるし、多少積極的になる。
本来はこっちの方が地である。眼鏡を外すとなぜ地が出るのか、それは本人もよく分かっていない。
「へぇ、本当にいろいろあるんだな。ウォータースライダーや流れるプールは定番だけど、渦潮プールに渓流下り……ってなんだ?」
案内図を見ながら、渡羽は首を傾げた。
「あっ、渡羽~!」
アスカの声に、渡羽は条件反射で振り返った。そして、ぱっと赤面する。
小走りで駆け寄ってきたアスカは、昨日最初に見た花柄ワンピースの水着だった。最終的に何を買ったのかは知らなかったが、あれに決まったのか。
改めて見るとやはり気恥ずかしい。アスカも渡羽の水着姿を見て、はにかむように笑った。
「えっと、お待たせ」
「……あ、うん。いや……」
互いに照れくさくて黙り込む二人。アスカはちらっと上目遣いで渡羽を見やった。
渡羽は顔を逸らし、前髪を掻き上げていた。眼鏡を外している渡羽はやっぱりかっこいい。視線を足元に戻し、アスカは微笑んだ。
しばらく目を合わせず俯いていたが、先に口火を切ったのは渡羽だった。
「じゃあ、行こうか」
すっと出された手に、アスカは普段の渡羽なら絶対にできなそうな行動だったので、一瞬面食らった。
しかし、眼鏡を外した渡羽は、眼鏡をかけている時と性格が違うことを思い出し、「うん!」とうれしそうに笑って、その手を握り返した。
「ところでさ、アスカって泳げるの?」
プールサイドにある、休憩用のパラソルの下にタオルなどを置いて、渡羽が訊いた。
考えてみれば、肝心のそれを訊いていなかった。渡羽は問題なく泳げる。けれどもアスカはどうなのだろう。
「んー、よく城を抜け出して潜ったりはしてたよ。でも、魔法で風の膜を作ってその中に入るだけだから、泳ぐとは違うのかなぁ」
「試しに泳いでみたら? そこの二十五メートルプールで」
というわけで、泳いでみました。その結果。
「あはは、やっぱりダメだったね」
準備運動をし、いざ泳いでみたアスカだったが、魔法を使わずに泳いだのが初めてだったため、呼吸の仕方や、どう体を動かせばいいのか分からず、すぐに沈んだ。
慌てて渡羽が助けに行き、アスカは笑顔でそう言った。仕方がないので、アスカは浮き輪を使うことにした。
渡羽は練習しようと言ったのだが、めんどくさいからいい、と突っぱねた。
その後、二人は流れるプールに向かった。水に入ると、途端に体が流れていく。
「わっ、体が勝手に動く~。渡羽っ、これおもしろーい」
浮き輪でぷかぷかと流れながら、後方の渡羽に手を振るアスカ。水深が結構あるので、渡羽は半分泳ぎながらアスカの後をついていく。流れも結構速い。
この流れるプールは園内を一周しているので、流れていくだけで他のプールの様子が見られる。
プールサイドからも見えたチューブ型ウォータースライダーの下を通り、子供用プールを横目に、しばらく流れに身を任せていたアスカだったが、ふと妙案を思いつき、浮き輪から身を乗り出した。
「ねぇ、渡羽! 渡羽は泳げるんでしょ? ここならあたしが溺れることないし、追いかけっこしよう!」
「……は?」
渡羽はアスカの提案に目を点にした。
「渡羽、泳げるのに泳がないなんてつまらないでしょ? だから泳いでいいよ! よーし、じゃあ行くよー」
「えっ、ちょっ、待――」
渡羽の言葉を聞かず、アスカはバタ足で人の合間を縫って流れていく。
アスカとしては言葉通りだったのだが、渡羽としてはアスカの言動の意図が読めず、困惑するばかりだ。
あっという間に見えなくなったアスカに、呆けていた渡羽ははっと我に返って、急いで追いかけた。
一方、アスカは勢いに乗ってゆらゆらと流れていた。偶然にも前にあまり人がおらず、すんなりと流れていくことができた。
浮き輪に背中を預け、眩しい夏の太陽を目を細めて見上げ、アスカはのんびりと流れていく。
「んー、気持ちいー。プールって楽しいなぁ。ティアラも連れてきてあげたかったけど、ティアラは体が小さいから危険だし、魔法で大きくなっても、普通の人間には視えないから、どっちにしろ無理ね。あーあ。ティアラ、今頃何してるかなー」
いつも一緒だったティアラがいないと少しさみしい。家で留守番をしているであろうティアラを思い、アスカは少し表情を曇らせた。
思えば、ティアラと長く離れることなど、魔法界にいた頃にはなかった。どこに行ってもティアラが一緒で、どんな時もそばにいた。
口うるさい時もあるし、すぐ泣いたりするけれど、喜びや怒りや悲しみを、本当の意味で分かち合えるのはティアラだけだった。
ふう、とため息をついたアスカは後方を向いていたので、進行方向にゴムボートがあることに気づいていなかった。
ぼむ、と頭がボートにぶつかり、アスカは驚いて振り返った。
「!? !?」
「あ、ごめんなさい!」
ゴムボートに乗っていた水着姿の少女が、アスカを上から覗き込んだ。
「大丈夫ですか?」
「あ、うん。あたしもよそ見してたから……」
フェミニンショートのダークブラウンの髪。目元にある小さなほくろが特徴的な彼女は、ゴムボートの横を一緒に流れていた連れに向き直った。
「ほら! やっぱり他の人の邪魔になるじゃない。だから貸しゴムボートなんていいって言ったのに!」
「そうは言っても、おまえ泳げないんだろ? それに、最初はおまえだってキャーキャー言って楽しんでたじゃねーか」
「それはっ、人が少なかったからで……今はこんなに人が多いんだから迷惑になるでしょ」
「他にもゴムボート乗ってる奴いんじゃん。気にすんなって」
「実際に迷惑かけてるでしょ! もう、わたし降りるっ」
「オイ、あぶねーって!」
連れの人はゴムボートの向こうにいるのでアスカからは見えないが、男の子らしい。自分たちと同じで恋人同士で来たのだろうか。
ゴムボートにせき止められる形で、アスカがぷかぷか浮いていると、ようやく渡羽が追いついて来た。
「ア、アスカ……やっと追いついた」
「あれー、追いついちゃった? 追いかけっこは渡羽の勝ちだね」
「もう追いかけっこはやめてくれ。そもそも、流れるプールは追いかけっこをするところじゃないし……」
「えへへ。ゴメン」
疲れたようにため息をつく渡羽に、アスカはぺろっと小さく舌を出した。
渡羽の名前に、ゴムボートに乗っていた少女は目を丸くして、再びゴムボートからアスカを見下ろした。
「もしかして……渡羽……くん?」
「え?」
渡羽が声に見上げると、驚いて目を瞠っている明衣子と目が合った。
「あれ、高尾さん?」
「なんだ、なんだ? 飛鳥がいんのかー?」
ひょいっとゴムボートの陰から顔を出したのは、金髪に浅黒い肌の少年。渡羽は本気で驚いた。
「バ、バルカン!?」
「おっ、ホントに飛鳥じゃん。なんだよ、遊びに来るんなら誘えよなー」
バルカンはにかっと白い歯を見せ、ボートを押さえたまま、反対の腕を渡羽の首に回した。
「水くせーぞ。オレたちの仲じゃん」
「なんでバルカンがここに……って言うか、なんで高尾さんと一緒なんだよ」
「いや、昨日偶然会ってさ。なんかヤケにどんよりした顔してたから声かけたら、ココの割引チケット持ってたから、他に行く奴いねーならつき合ってやろうと思ってさ」
「……高尾さんは君なんかと来たくなかっただろうに。他に一緒に行きたい人くらいいたんじゃないか? つき合わされた高尾さんが不憫でならないよ」
それを渡羽が言うのか。明衣子は渡羽の言葉にドキリとした。その相手とはまさにあなたのことなんですが。
しかし、鈍感な渡羽はやはり明衣子の様子に全く気づかない。
「何―? オレじゃ不満だってのか? この美丈夫なオレ様じゃ」
「バカ言ってろ」
バルカンの腕を振りほどき、渡羽は肩をすくめた。それまで黙っていたアスカは、ちょいちょいと渡羽をつついた。
「渡羽の友達?」
「ああ、高尾さんはともかく、こいつは友達というか、単なる腐れ縁のクラスメートだけど」
「オイオーイ、そりゃないんでないの? せめて親友とか言ってくれても――」
笑顔でアスカの方を向いたバルカンは、その瞬間、心臓に天使の矢が刺さったかのように感じた。ハートど真ん中……!
一瞬にして、バルカンは恋に落ちた。「誰が親友だ」と抗議する渡羽の声など馬耳東風。
アスカはきょとんとバルカンを見ている。固まってしまったバルカンに、明衣子が怪訝な顔をした。
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