第九夜:03【長野恵梨香】
第九夜:03【長野恵梨香】
向こう側から聞こえる、小夜子の悲痛な叫び。
がしゃがしゃと、シャッターが揺さぶられ続けている。
その音に背を向けた恵梨香は一人涙を拭い、鼻を啜った。
「ごめんね、さっちゃん」
いきなりこんなことにならなければ、黙っていくつもりだったんだけど。
余計な心配、かけちゃったね。
でも本当のことを言うとね、最後にもう一度会えて、嬉しかった。うん、嬉しかったの。
さっちゃんを泣かせるつもりは、無かったんだけどね。
私ね、決めてたんだ。
さっちゃんを、助けるんだ、って。
私があなたの未来を作るんだ、って。
でも私、駄目ね。
本当なら、あの駐車場の夜から、すぐに頑張るべきだったのに。
怖くて、悲しくて、どうしたらいいか分からなくて。
次の晩も結局、動けなくて。
すぐに覚悟を決めたのは、さっちゃんだったね。
そういうトコ、やっぱりすごいんだよねえ。
昔からいつも、そうだった。
だから私、対戦相手に勝てるようになった時、嬉しかったの。
変よね? 人殺しになったのに、喜ぶなんて。
……でもね、嬉しかったんだ。
これで私も、あなたと同じになれたんだ、って。
さっちゃんだけに辛い思いをさせずに済むんだ、って。
だからそれからはちゃんと、頑張れたの。
さっちゃん。私の一番の友達。
昔から、あなたはずっと、私のために色々してくれたよね。
私が落ち込むと、あなたはすぐに慰めてくれた。励ましてくれた。
いつも、私を見ててくれたものね。
小学校に入ったばかりの頃、私がお漏らししちゃった時も、助けてくれた。ごめんなさいね、あの後で物凄く先生に怒られたんだって?
私のお父さんが事故で死んじゃった後も、あなたはずっと一緒にいてくれた。さっちゃんだってお母さんがいなくなったばかりで大変だっただろうに、そんなことは一言も言わずに、ずっと私のことだけ気にしててくれたね。
犬に噛まれた時も、やっつけてくれた。あれは、ちょっとびっくりした。あの犬、あの後大丈夫だったのかな?
中学の時に怖いスカウトのおじさんに付きまとわれた時も、追い払ってくれた。お巡りさんには怒られちゃったけど。
さっちゃんは覚えていないでしょうけど、他にも沢山、あなたは私を助けてくれたの。
ありがとうね、さっちゃん。
結構すごいよね。
今思い出した分だけじゃない。私があなたを好きな理由なんて、数え切れないくらいあるんだもの。
でも。
私、思うんだ。
きっと。
きっとね。
その好きな理由を全部消したとしても、やっぱり私はあなたが好きだと思う。一番大切な、友達よ。
だって、あなたは、さっちゃんなんだもの。
だから、これでいいの。
私、後悔なんて全然してないからね。
……そりゃあ、悲しいし、寂しいけど。
でもあなたが生きていてくれるなら、それでいいの。
それじゃあ、元気でね。
私、待ってるから。
のんびり、待ってるから。
七百年くらい経ってから、ゆっくり迎えに来てね。
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