第5話 幼馴染
昼休み。航が教室で弁当を食べていると、一人の女生徒が側にやってきた。
「よう! わったるぅ!! 今日も不機嫌な顔で弁当を食べてるね」
女生徒は、開口一番にそんな事を言って、航の背中を軽く叩いた。
「なんだよ。その挨拶は」
航は、少しげんなりとした表情でそう言った。同じクラスの同級生。航にとっては、幼馴染の友達。名前は、三島典子。とにかく明るく元気な所が特徴で、クラスや学園での人気者。顔の作りも美人では、ないが魅力的な顔立ちをしていた。
「なんかね。何時も不機嫌そうな顔で弁当食べてるからさ。その航の顔が脳裏に焼きついてるんだよ」
「あー、うー、それには、事情がね」
航は、頑張って半分ぐらい平らげた弁当箱に視線を落とした。はっきり言って、このお弁当は、美味しくないと航は、断言できた。ただ、作って貰ってる手前、断る事ができずに毎日眉を潜めて弁当を食べていた。
「そのお弁当、澪ちゃんが?」
「あぁ」
「ハッキリ言った方がいいよ。航は、澪ちゃんには甘いんだから」
典子のその言葉に航は、何度も頭の中で否定していた。航は、お弁当が不味いと言う事を最初にわたされた時に言った事がある。その次もその次もハッキリと航は、澪に言ったのだ。しかし、澪の調理の腕は、まったく上達しなかった。はじめは、何かの嫌がらせかと航は、思ったが、そうでは無いと解ってから、断れなくなってしまったのである。
「ねぇ、その肝心の澪ちゃんは、どうしたの? 姿が見当たらないけど」
典子は、教室を見渡して航に問いかけた。
「保健室。気分が悪いと言ってた」
「えっ、そうなんだ。でも、さすが澪の彼氏!! よく見てるね」
典子がそう言うと航は、首を左右に振って否定した。
「いやいや、典子さん。澪とは、そう言う関係じゃないから」
「えーっ、毎日弁当作ってくれるのに?」
「うっ」
「毎日、家までおこしに来てくれて、朝食まで作ってくれるのに?」
「いや、そうなんだけどね。そう言う雰囲気じゃないと言うか。何か違う気がするんだよ」
航がばつが悪そうな顔をすると典子は、呆れた様子でため息をつく。
「うーん、航の顔は、中の下ぐらいだから。選り好みしてると彼女の一人も出来ないよ?」
「俺をフッたあんたがそれを言うかね」
航は、複雑な表情で過去の出来事を思い出していた。航が中学生の頃、典子に告白した事があった。しかし、一週間もしない内に
「やっぱり、航と、恋愛なんて無理だ」
と、典子に言われて一方的にフられてしまったのである。そんな事があっても航と典子の関係は、幼馴染と言う枠組みから外れる事は、なかった。ただ、典子の明るさと割り切った性格のおかげで、航も関係を崩す事なく付き合ってこれたのだ。
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