第4話 ナノマシン

 歴史を学ぶ事は、重要である。特に近代史を学ぶと言う事は、世界の状況、この国の立場や状況、今の自分自身の置かれている立場を知る事に繋がるからだ。そして、歴史を学ぶ事で明確な敵を認識する事ができる。「えーっ、今から約20年前……南米ブラジルにおいて、大きな災厄が起きました。最初は、事故でありましたが、後に世界中に禍根を残す事件へと発展する事になります」

一人の年老いた教師がゆっくりとした口調で語りだした。歴史の授業。 神庭航は、退屈そうに老教師の説明を聞いていた。

「現在は、開発研究が禁止されているマテリアル型ナノマシン開発は、当時は合法でありました。悪化の一途をたどっていた自然環境を再生する為に世界中で始められたナノマシン開発でしたが南米ブラジルで起きたナノマシン暴走事故により、マテリアル型ナノマシンの開発研究は、凍結される事が国連で決議されたのです」

航は、ふっと、窓の外を覗き込むと、雨によってびしょ濡れになった校庭が目に飛び込んでいた。天気の状況を確認すると、航は、頭を抱えてうなだれた。

「今日は、サッカーの練習試合の日なのに……こりゃ、中止だな」

航がそう呟くと、老教師は、ジロリと航の顔を睨みつけた。

「神庭君。この後の歴史経緯を知っているかね?」

老教師は、航を挑発するように言った。すると航は、ニコリと笑みを浮かべて説明を始めた。

「そのナノマシン・ハザートと言われる被害は、一向に沈静化する気配を見せず。ナノマシンの汚染は、南米を覆いつく勢いで広がっていきました。国連は、世界中に非常事態宣言を発令し、核ミサイルによる沈静化を議会に提出。しかし、複数の国の拒否権により、実行に移されませんでした。ですが自国の足元までせまった汚染に不安を抱いたアメリカ合衆国は、国連決議を無視。単独で核ミサイルよる浄化を試みました。結果、十数発の核ミサイル攻撃によりナノマシンによる汚染は、沈静化する事になります。そして、南米は、……」

「よろしい。よく、勉強しているようだな」

老教師が少し不満げに言うと航は、そそくさと席に座る。

「えーっ。この事件がきっかけにより、ナノマシンの危険性が世界的に議論され。マテリアル型ナノマシンの研究と開発は、国際的な条約と法律で厳しく捕りしまわれる事になったのです」

老教師の説明が続く。

「残念ながら、我が国においても忘れては、いけない事件があります。尾崎博士が惹き起こしたナノマシン密造事件です。尾崎博士がナノマシンを密造していた事が発覚し、我が国は、核攻撃の危険にさらされた事件で……」

航は、老教師の説明にピクリと、その身を震わせた。尾崎博士が巻き起こした事件は、当時この国を危険さらしたテロリストとして執拗にマスコミに叩かれた。それ故に誰もが知っている事件で、この国においてもっとも忌み嫌われる出来事である。航がこの事件のニュースを見た時、自分の目を疑った。それは、尾崎博士は、航と知り合いであり、何度も顔を合わせた事のある人物だったからだ。

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