第2話 小学校の頃

 小学校の頃のから私は少し反抗的な子供でした。その当時私は「口だけは達者」と言われていました。その所以のひとつとして読書が大きかったと思います。

 私の家はお小遣いという物が存在していませんでした。欲しいものは申告制で必ずしも許可が下りるとは限りません。そんな中ふぅちゃんは「本だったら好きな物を買ってあげるよ。いつでもいいな」とよく言っていました。本という限られたカテゴリの中でしたが、当時の私には自由に好きな物を選べるというのはとても大きくそのまま本の魅力にどっぷりと浸かるきっかけにもなりました。

 そのせいもあって私は本当に生意気な子供だったと思います。両親に叱られても「なんで」とか「でも」と必ず反論していたからです。


 今でこそ仲良しですが、私は当時母親が嫌いでした。心のどこかで「私は必要とされていない子だったのではないか」という疑念がずっとあったからです。

 そのことを詳しく話すと長くなってしまいそうなので割愛しますが、決定的だったのは4年生の頃でした。

 あの日私はとても些細なことで母親と喧嘩してしまいました。きっかけは些細だったのに結局その日は解決せず、私はそのまま寝ていました。

 父親の声で起きたのは深夜とまではいきませんが遅くなってからでした。眠い目をこする私に父親は「お母さんに謝れ。謝るまでは寝かさない」そう怖い顔をして言うと母親の前に引っ張り出されました。

 私は釈然としませんでした。私にも悪いところがあったのかもしれない。でも何故私の話は、言い分は聞いてもらえないのかと。父親は私の問いかけにも答えずただ「謝れ」と言うばかりでした。普段は喧嘩の仲裁にも入らないような父親だったので驚きました。でも何より悲しかったのは「あぁお父さんも私よりお母さんの事が大切なんだ」という思いでした。

 私の味方は誰も居ないんだと心細さとも寂しさとも言えない物がこみ上げてきたとき寝室の扉が開きました。そこに立っていたのはふぅちゃんでした。

 相当大きな声で口論していたので起きてしまったのでしょう。ふぅちゃんは部屋に入るなりまず私を後ろに庇ってくれました。「ばぁちゃんには関係ない」という父親の言葉にも意に介した様子もなく「大丈夫」と言って抱きしめてくれたふぅちゃんの温もりに、あの時の私がどれほど安心したか。一人ぼっちになってしまったような寂しさからどんなに救われた事か、今でもハッキリと覚えています。


 それ以来私は辛い事があるとよく、ふぅちゃんの部屋の扉の前に座っていました。

 ふぅちゃんは夜になると部屋に鍵をかけて寝ている人だったので部屋に入りたくても入れない事がよくありました。でも起こしてしまうのも申し訳なくて、だけどふぅちゃんに会いたくてというジレンマを抱えているときよくふぅちゃんの部屋の扉に背中を預けていました。私は気付かれないようにしていたつもりでしたが何故かふぅちゃんにはお見通しで、そっと鍵の外れる音と少しだけ空いた扉から「おいで」と優しい声がする度に一瞬で緊張が解けて涙が頬を伝いました。

 ふぅちゃんは私が辛いときいつも話を聞いてくれました。なにかアドバイスをしてくれるとかそんな特別な事はありませんでしたが、ふぅちゃんが私の話を静かに聞いて「だいじょうぶ」と抱きしめてくれる事が何より安心して心安らぐ瞬間でした。

 いつもは「狭いからダメ」と言って一緒に寝てくれないのにそういう時は積極的に「今日はふぅちゃんと一緒に寝よう」と頭を撫でてくれるのも大好きでした。ふぅちゃんのベッドはいつもいい匂いがして、背中をポンポンとあやしてくれる優しい手も大好きでした。


 ふぅちゃんはとても心配性な人でした。学校から帰ったら基本は外でお友達とは遊んではいけないとか、習い事も全く習わせてはもらえませんでした。それも高学年になる頃には少しなら友達と遊ぶ事も許可してくれるようになったりと多少の変化はありましたがあの頃の私はそれがどこか息苦しかった事もありました。

 それでも毎日のように私や妹の帰りを待ち、おやつや夕飯の支度をしながら待っていてくれたふぅちゃんには感謝しかありません。家に帰ればふぅちゃんが出迎えてくれる。それはとても自然で当たり前でずっと続いていくものなんだと本当に思っていました。

 だからそれが当たり前でなくなった今、そのことがとてもとても大切な事だったんだと痛感します。


大好きだよ。ふぅちゃん

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