第37話
城に戻り、一夜が明けた。
最近は何かとバタバタすることが多く、ゆっくり眠りたかったのだが……。
「全然眠れなかった……」
意識が途切れる瞬間はあったが、ほぼ覚醒していた。
気づけば夜はあけ、朝陽を浴びても妖しく広がる森にスクリーム&シャウトが木霊している。
煩いなあ、朝から絶叫を聞かなきゃいけないなんて。
誰のせいだ?
私か。
なら仕方ない、我慢しよう。
眠れなかった原因はバルトが言い残した言葉が気になったからだ。
『あいつ、レイン様のことを誑かせって命令されてますから』
ソレルは私を誑かすように上から命令されているらしい。
いつからだろう。
誑かしてくるような素振りはなかったと思うのだが……。
名前で呼んでくれたのも誑かす一環だったのだろうか。
仲間というのも?
ルシファ―の回廊に閉じ込められたときに逃げろと言ってくれたのも?
だとしたら悲しい。
仲間だと思い込んでしまっていたが、よく考えたらソレルってルフタの人間なんだよね……。
なんてことを延々考えていた。
まあいいや、考えたところでどうすることも出来ない。
私は誑かされないわよ! と宣言するのもおかしいし。
そうだ、むしろどうやって仕掛けてくるのか楽しみにしよう。
あのソレルがよくあるベタな『君は美しい』みたいな台詞を吐いて口説いてきたら面白そうだ。
うん、ちょっとワクワクしてきた。
「ふあ……」
思考がプラスに向かうと眠くなってきた。
早寝早起きを心掛けているけど、今日はお休み。
今から寝ると昼過ぎまで起きないと思うが、寝てしまうことにした。
――ん?
気持ちよく寝ていたのに……。
誰かが私の頭を触っている。
撫でられていて気持ちが良い。
サニーやネルの頭を撫でることはよくするけど、自分がされるなんて覚えていないくらい久しぶり……………って誰に?
そうだ、私は朝から眠り始めて……。
此処は私の寝室だ。
入ることを許しているのはサニーだけだが、サニーが私の頭を撫でるのはおかしい……って何をするんだ?
頭を撫でていた手が止まり、今度は私の角をツンツンと突いた。
「本当に生えているんだな。やっぱり、これじゃエルフは無理だな」
あれ、この声は……。
「ソレル!?」
ボーッとしていた頭が一気に冴えた。
「やっと起きた。おはよう。と言っても夕方だが」
目を開けると、ベッド脇にソレルが腰を下ろしていた。
綺麗な金色の目が私を見下ろしている。
「なんでいるの!?」
ぐちゃぐちゃになり、ほぼ身体に掛かっていなかった布団を慌てて被った。
今はブラックマリアではなく、ネルにドキドキハプニングを起こしに行ったときのタンクトップと短パンだ。
恥ずかしい……腹出てたかも……!
髪も絡まっているしボサボサだ。
「君の従者が入れてくれた」
「サニーが?」
「ああ。あんた、寝相が悪いな」
「うるさい!」
サニー、何故許可したの!?
ネルでも絶対入れなかったのに、どういうつもりだ?
「入っていいって言われても乙女の寝室に勝手に入らないでよ!」
「オレは『乙女』の寝室に勝手に入ったりしないけど?」
「どういうことよ」
失礼な。乙女じゃないなら私はなんなのだ!
クイーンハーロットだ、なんて言ったらぶっ飛ばす。
「それに勝手に触らないでくれる? 角をツンツンしたから、尻尾触らせてよ」
忌み子要素を触られたのだから、同じところで返して貰わなければ!
それにソレルは尻尾を触られるのを嫌がっていたから、嫌がらせのつもりで言ったのだが……。
「触らせてやってもいいが、責任はとってくれよ?」
「?」
てっきりまた痴女だと罵ってくると思ったのに、涼しい顔でニヤリと笑っている。
「責任って……え? えええ!!?」
尻尾って敏感なところでしょ!?
それって、その……そっち方面の責任って……そういうこと!?
早速誑かすを遂行か!?
あなた今までそういうキャラじゃなかったでしょ!?
寝室でのそういう冗談は禁止!
「……そういう乙女みたいな反応やめてくれない? 気持ち悪いから」
「おい」
だからソレルの中で私は何なの?
そろそろ本当にユニコーン連れてきて、証明するから!
でも、なんだろう……ソレルの様子がいつもと違う?
こういう口の悪い感じは今まで通りだが、どこか違和感があるような……。
「ねえソレル、大丈夫だった?」
「何が?」
「身体よ。ルシファ―に何もされてない?」
そういえばバルトには回廊から出てきて保護された後何も話をしなかったと聞いたけれど……。
あれ、それに監視されてたんじゃなかったけ?
「何もない。あんたが倒れてから魔王はオレに興味がなくなったらしい」
「そっか。ならいいけど……」
ソレルの指を見たら、二個目のオプファーリングはついたままだった。
ということはあれから命に関わるダメージを受けたりはしていないということだ。
うん、大丈夫みたい。
「あんたにまた借りが増えたな」
「この前のこと?」
「ああ。返すのが面倒だから、これからは余計なことはしないでくれ」
「可愛くないなー」
「あんただって可愛げなんてないだろ」
「……」
……いつもと違うと思ったけど、いつも通りかな!
今日も通常運転のソレル様だった。
「ソレルはなんで来たの?」
「ルフタの管理不備による魔王の報復についての話と草案を持って来た。さっさと身仕度済ませて出て来てくれ。ここで話してもいいけど、あまり長居すると恨まれそうだ。いつもの部屋で待ってる」
「恨む?」
謎の言葉を吐くと、ソレルは立ち上がった。
扉を開け、出て行くようだが振り返ってこちらを見た。
「その格好は合ってるよ」
「え?」
「馬鹿っぽくて。偉そうなドレスよりはよっぽど合う」
「馬鹿っぽい!?」
「そう。そういう顔とかね」
「なっ」
抗議をしたかったがすぐに扉は閉まり、言い逃げをされてしまった。
くそっ~!
偉そうなドレスってブラックマリアのことか!?
前に似合ってるって言ってくれなかったっけ?
あ、違うか、『マトリョーシカガールドレスよりはマシ』だったか……。
いいもん、好きだから何を言われても着続けてやる!
今から偉そうなドレスを着て行きますよ!
ソレルのファッションチェック、嫌い!
※※※
着替えをすませ、ソレルが待つ部屋に行くと言っていた意味はすぐに分かった。
「僕もまだ入ったことがないのに……!」
ネルが頬を膨らませて分かりやすく拗ねていた。
ネルは以前私を起こしに来た時、サニーに追い返されていた。
自分は駄目だったのに、ソレルはすんなりと許可して貰えてたことにヘソを曲げているようだ。
「サニー、なんでソレルを入れたの?」
「問題ありましたでしょうか?」
「大有りよ!」
以前鳥に操られたソレルに私は攻撃された。
そんなことがあったからサニーはソレルのことを始末候補リストに載せていると思っていたのに。
「ソレルのこと、認めたの?」
「魔王よりマシです」
……それはどういう意味で?
あまり深く考えないようにしよう。
「いい加減話を始めてもいい?」
ネルの恨めしそうな視線に少し苦笑いをしながらソレルが手に持った書類を渡してきた。
「それ、あんたが前に持って来いって言った草案。で、こっちが弁明書」
「弁明書?」
「そう。簡単に言うと『ここを越えたら報復するっていう境界線、報復ラインを決めてなかったらそっちも悪いだろ。草案にその辺りも盛り込むから次から気をつけるってことで許せ』って書いてる」
「まあ! 凄い分かりやすい」
凄く細かい字でびっちり何か書かれているが、今のソレルの解説を聞いて大体分かったので読む気が失せた。
「おい、ちゃんと読んでおけよ? 前も言ったが、そういうものは隙を狙って作った側に都合のいいように書かれているんだから」
「分かってるわよ」
「……読む気配がなかったが?」
「……あとで読むのよ」
一応ちゃんと読むつもりだ。
今じゃないけど。
「そういえばルシファ―は警告するって言ってたけど、何かした?」
「……知らないのか?」
私が質問した瞬間ソレルが思い切り顔を顰めた。
……嫌な予感がする。
「え、何したの……?」
「オレ達が駐在している村の前にメガフレアをぶっ放して行った。まあ、特に何もないところだったし目立った被害もなかったが……。焼け跡に侵入したという賊の遺体がゴロゴロ転がっていた」
「えっ……」
メガフレアをぶっ放すのはなんとなく察知していたけれど『遺体』って!?
ゴロゴロって……たくさんってことですか!
「そ、その賊って……? どこの誰だか分かったの?」
「さあ? 遺体って言っても炭みたいなものだったから身元なんて分からないよ。まあ、どこかの国の息がかかった馬鹿かもね」
「……」
白牙の民のことは知られていないみたいだけど、その遺体は白牙の民達じゃないよね!?
「普段魔王のところに行くのを渋るバルトが飛んで行ったが……何があった?」
「え?」
バルトは駐在している村に戻ると、魔王とクイーンハーロットの領域に近づく者がいて、それに怒った魔王がなにか警告をしてくるということを事前に報告をしていた。
そこまでは普通にしていたが、遺体が見つかると慌てて飛び出していこうとしたらしい。
バルトもその遺体が白牙の民なのか気になったのだろう。
ルシファ―は白牙の民のことを見逃してくれる風だったけど、気が変わってしまったのだろうか。
「あ、そういえば今日の面会をすっぽかしちゃったけど、ルシファ―側から何か言ってきた?」
「いえ、何も」
「そうなの?」
抗議のメガフレアがないなんて……。
ルシファ―の様子が少し変わってから行動が読めない。
「侵入者の件はバルトに関係しているのか?」
「え? あー……えっと」
どうしよう、ソレルに白牙の民のことを話してもいいのだろうか。
ソレルがルフタに報告したら白牙の民が責任を問われることになるかもしれない。
今は黙っていた方がいいかも……。
とりあえず、その遺体が白牙の民なのか確認したい。
「ちょっとルシファ―に話を聞いてくるわ」
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