第35話
空を覆い尽くす木々、暗い森の中に聳える一本の巨木。
首都の巨大電波塔を彷彿とさせる大きさで、暗い森の中から上を見上げても幹しか見えない。
植物ではなくコンクリート製のタワーだと言われても納得出来そうなほど強固な存在感を放っている。
木なのに全く燃えそうにない。
この巨木の上部がビャッコの住まいだ。
暗い森の天井を突き抜けた遙か上、伸びた広がった枝で休んでいる。
そしてこの木の下、ここから少し進んだところに白牙の民の里がある。
「……俺、帰っちゃだめですか?」
意識のある白牙の民にどうして近づいて来たのか確認しようと思ったところで、バルトが話し掛けてきた。
「心配しないでもすぐ帰るわ。何か都合悪いことでもあるの?」
「……まあ……少し」
「ふうん?」
虎の獣人は白牙の民だけではないが、バルトはここの出身だったのだろうか。
「うっ…………あ?」
「あれ……戻ってきた?」
「神獣の木? 何故……」
サニーによって積み上げられていた白牙の民の山は崩れ、ちらほらと状況を理解する者が出始めた。
周りをキョロキョロと見回している。
「あ……!!」
「ん?」
そのうちの一人、バルトと似た年頃の青年と目があった。
「こ、これは………お、お前の仕業か!」
彼はおばけを見るような目で私を見た。
移動に驚きすぎて怯えているのか、落ち着きのない動作で後ろに下がった。
失礼な、とって食ったりしないぞ。
「くっ……我らには使命が!」
それでもなんとか気持ちを奮い立たせたのか勢いよく飛び上がった。
そして腰につけた鞘に手を置いたが……剣はなく……。
サニーにノックアウトされた時に落としたのだろう。
剣を諦めたのかファイティングポーズを取ると私を睨んだ。
「クイーンハーロット! お前を倒す!」
その叫びを皮切りに、回復した白牙の民達が次々と拳を向けてきた。
サニーが一歩前に出て剣を向けると一斉にたじろいだが、引く気は無いようだ。
皆剣を無くしているし、諦めた方がいいのでは?
剣を持っていたとしてもこの面子には負ける気がしないし、このままでは私が出る前にサニーにまたまた瞬殺されてしまうよ?
「ルフタ、私の城やエリュシオンに近づけないように管理出来ていないじゃない」
私の後ろで気まずそうに気配を消しているバルトに話し掛けた。
「他と関わらない一族なので……。ルフタの管理も届かなかったんじゃないですかね」
まあ、そうだろうなあとは思う。
ここはテルミヌス大陸でルフタの管轄にはなるが、周りには集落が皆無の大森林のど真ん中。
神獣がいるから悪意を持って近づく者もいないし、白牙の民は孤立した環境で静かに暮らしている。
ルフタの目が届かないのは分かるが、森を出た何処かで彼らに気づくことは出来なかったのだろうか。
「ルシファーにみつかったら『彼らを制御出来なかったのはルフタの責任だ』って暴れされちゃうわよ?」
許してしまうと舐められると言い、ここぞとばかりに張り切って暴れそうだ。
私の呟きを聞いてバルトが目を見開いた。
まずい状況だと今頃気がついたようだ。
「頼む! 魔王にみつかると大変なんだ! 帰ってくれ!」
慌てたバルトが飛び出し、サニーと彼らの間に入った。
すると白牙の民達の顔色が変わった。
皆バルトを見て驚いたようだが……すぐに顔が怒りに染まった。
「まだ生きていたか罪人め!」
やはりバルトも白牙の民のようだ。
全員がバルトを認識している。
「大罪人が我らに命令するな!」
「クイーンハーロットの手に落ちたか……。この面汚し! お前のせいで! また……!!」
「また?」
口々にバルトに向けて罵声が飛び出したが、『また』という言葉が私とバルトの耳に引っかかった。
それは彼らにも伝わったらしい。
罵倒が静まったかと思うと、青年の一人が口を開いた。
「そう……『また』だ。こんなに早くビャッコ様が目を覚まされたのは、あの時のお怒りがまだ鎮まっていなかったからだ! お前が最後の月の珊瑚を盗んだせいで今度もお静まり頂くことが出来ない! 全てお前のせいだ!」
青年が言い終わると罵倒がまた再開した。
バルトは私より前にいるためその表情は見えないが、拳を握りしめ俯いている。
何やら深い事情がありそうだな。
それより、まず気になったことがあった。
「貴方達、月の珊瑚が欲しいの?」
質問を飛ばすと再び罵倒が止まった。
この反応、なんだか彼らが保護者会で荒ぶっているモンスターペアレント集団に見えてきた。
テレビでしか見たことはないが、あの団結力に似ている。
「そうだ! 月の珊瑚を手に入れるにはお前と魔王を倒すしかない!」
「意味が分からないんですけど」
私を倒したドロップアイテムが月の珊瑚だと思っているのか?
そんな馬鹿な。
「それが月の珊瑚を譲り受ける条件だからだ!」
「それに世界を脅かす大災を我らが祓えば大きな誇りとなる!」
「ふーん?」
条件、ねえ。
月の珊瑚が欲しければ魔王とクイーンハーロットを倒して来い、ってどこかに言われたということね。
二つ目の言葉はついでの理由かな。
それにしても私と魔王をこの面子で倒すって難易度高過ぎじゃない?
「条件って誰に言われたの?」
「お前に言う必要はない!」
……なんて偉そうに言っているけれど、現時点でも結構話してくれている。
「マクリルとか?」
「!」
月の珊瑚がある国を口にしてみたら、白牙の民達の頭の上にビックリマークが飛び出した。
素直だなあ。
バルトも分かりやすいタイプだし、白牙の民の特性なのかもしれない。
「じゃあ、月の珊瑚があれば大人しくしてくれるのね?」
「何を言っている?」
「月の珊瑚、持っているからあげるわよ」
今は手に入れにくいアイテムだと思うが私はたくさん持っている。
「! な、何を……お前のような汚れたものが持っているものではない!」
「……」
聞き慣れた蔑みの言葉が耳に入り、真顔になった。
確かに月の珊瑚は聖女が持っているような清らかなアイテムだけど。
私だってユニコーンと通じ合える自信があるんだってば!
月の珊瑚はマクリル王家の墓の下に存在する洞窟の中にある。
下に伸びる洞窟の最奥に置かれた小さな水瓶の中でそれは出来るのだ。
月の光を浴びて完成する珊瑚のような歪な形をした水晶なのだが、クエストでは地上の王家の墓から各所に設置されている月鏡の角度を調整して地中奥深くの水瓶まで光を届けなければなかった。
月鏡を経る度に光は浄化されているらしい。
調整に時間がかかり過ぎると、鏡を攻撃して角度を変えにくるスケルトンにはどれだけ怒り狂ったことか。
面倒で仕方がないクエストなのだが、レベルの高い武器を作るためには月の珊瑚が必要なことが多かったので何度もこなした。
「ねえ、その月の珊瑚を譲って貰うというのは正式な取引?」
「お前に話す必要はない! 月の珊瑚も必要だが、それがなくても我々の誇りを持って世界のために倒すのだ」
「左様ですか」
多分白牙の民は良いように使われたのだと思う。
私とルシファーを倒すことが出来たらラッキー、マクリルは自分達の成果にする。
失敗したら取引をしていたことなど隠し、管轄しているルフタの責任を問う。
どちらにしても損はない。
成功しても月の珊瑚を本当に譲るのかも怪しい。
「はい、どうぞ」
月の珊瑚を取り出し、さっきから興奮している青年に手渡した。
「なっ……これは……!!」
「いっぱいあるから予備もあげる。大人しくスローライフを送っていなさい」
「いっぱい!? そんな馬鹿な! 一つ出来るまでにどれだけの年月がかかるか知っているのか!」
「百年くらいね」
「!」
水瓶に水晶が出来るまで約百年かかる設定だったので、今のこの世界では希少な物かもしれないけど、プレイヤー時代では何度もクエストを受ければいいだけだ。
私も心穏やかに暮らしたいの。
このままだとルシファーが暴れる、月の珊瑚も手に入らない、という白牙の民にとっては最悪コースを進むことになるだろう。
それを持って引き下がってくれたら白牙の民にもいいし、私もすっきりした気分でマイキャッスルに戻れる。
「こんなに易々と寄越してくるなんて……に、偽物だ!」
「本物だけど? 使ってみればいいじゃない」
「得体の知れぬものをビャッコ様に捧げるわけにはいかない!」
「あのねえ……判別できない物を求めるってどういうことよ。取引しているならせめて本物か分かる人をメンバーに入れなさいよ!」
偽物を掴まされることは想定していないのだろうか。
ピュア過ぎるのも問題だなあ。
「ぐっ……長に確認して頂く! すぐに確認してくるからお前はここにいろ!」
そう言うと白牙の青年は里の方へ駆けていった。
残った白牙の民が拳で私を威嚇している。
逃げずに待て、ということだと思うが武器無しじゃ迫力がなくてちょっと間抜けな光景になっている。
本人達は至って真剣というところが面白さをアップするいいスパイスになっているのだが、それを口に出すのはやめてあげよう。
「マイロード、城に戻りますか?」
「んー……待つわ」
親切に待ってやることもないと思うが、気になっていることがある。
それは神獣ビャッコのことだ。
ビャッコは期間限定の特別イベントで出てきた
それは『魔樹と神獣』というクエストなのだが、実は最終的にビャッコは死んでしまって終わったのだ。
だから今……ビャッコっていないんじゃないの?
「クイーンハーロット様」
「ん?」
クエストのことを思い返していると珍しくキリッと締まった表情のバルトが話し掛けてきた。
「その……ありがとうございました」
「んん? なんのお礼?」
「月の珊瑚です。本物なんですよね」
「ああ。安心しなさい、本物だから」
そういえば『盗んだ』とか言われていたっけ。
「里のことはお前とは無関係だ! 関係者のような口ぶりはやめろ! さっさと死刑になれ!!」
私達の会話が聞こえていたのか、白牙の女性が叫んだ。
他の白牙の民も彼女の言葉に同調する視線をバルトに向けた。
ああ、居心地が悪そうに俯いているバルトがクイーンハーロットだと蔑まれている時の私に見えてきた。
「すっごい嫌われてるわね!」
「どうしてそんなに嬉しそうなんですか!」
いやあ、仲間だなと思うと嬉しくて。
ソレルとは忌み子仲間でバルトとは嫌われ仲間だ。
今度三人でお酒を飲みたい。
『石投げられたことある?』『ある~』みたいなあるある話を……って悲しいわ。
「こんなに嫌われているのはあなたの罪と関係あるようね? 聞かせて貰えない?」
神獣クエストとも関係しているかもしれない。
私の知りたいことのヒントがありそうだ。
「拒否権ってあるんですか」
「まあ、無理にとは言わないわ」
「……」
「何よ」
「言わないと殺す、って言うかと思ったので」
それは今は大人しく黙ってくれているサニーの思考回路だ。
私の考えていることが分かったのが、サニーが『殺りますか?』と聞いているようにカチャリと剣を鳴らした。
大丈夫です、まだ大人しくしていてください。
剣の音で虎耳をビクッと耳を動かしていたバルトに話してくれるの? と視線を向けてもう一度聞いてみると小さく頷いた。
脅したようになってごめん。
でも話してくれた方が助かるからこのまま聞いちゃう。
バルトは白牙の民達には話を聞かれたくないのか、彼らから少し離れて背を向けた。
「俺のせいなんですよ。突き詰めれば、今回のことも俺が原因なんです」
小さな声でボソボソと話すバルトの声に耳を澄ます。
「月の珊瑚がどうして必要かご存じですか?」
「ええ。ビャッコを鎮めるためにあるのよね」
月の珊瑚は武器や防具の素材にもなるが、イベントアイテムでもある。
神獣ビャッコは普段木の上にいて姿を見せない。
天候を操り作物が育つ環境を与え、外部からの侵略を防ぎ、土地を守っている。
基本的には守り神なのだが、不定期に突如荒ぶる時が訪れるのだ。
その時に必要なのが月の珊瑚だ。
これを捧げるとビャッコは静まり、木に戻って行く。
「そうです。ビャッコ様を鎮めるのは白牙の民の使命でもあります。だから月の珊瑚は白牙の民の宝として大事に守られ、必要な時に使われてきたんですけど……」
「それを盗んでしまった?」
バルトはこちらを睨んで監視を続けている白牙の民達の視線から更に逃れるように大きな身体を縮めて頷いた。
「……はい。月の珊瑚がないからビャッコ様は鎮まらず……。ビャッコ様が起こした嵐で、白牙の民だけではなく遠くの集落まで大きな被害が出ました。人の被害は殆どなかったようなんですが、建物や作物、生きていくために必要なものが全て無くなったというか……。ルフタが管轄している大きなところにも被害が出たのでオレは白牙の民の中で罰せられるのではなくルフタに引き渡されたんです」
「で、死刑だと」
「ははっ……。まあ、当然ですよね」
盗みで死刑というと重く感じるが、被害規模でいうと確かに死刑になってもおかしくない。
自嘲した笑いを浮かべているバルトも、死刑という結論は仕方がないと受け入れているのだろう。
「盗んだ理由は?」
「薬が欲しかったんです」
「薬? どこか悪いの?」
頭は悪そうだけど。
「今、失礼なこと考えましたよね」
何故バレた。
思ったことをそのまま伝えてもいいが、社交辞令として『いいえ』とにっこり微笑んだ。
「クイーンハーロット様って案外素直っていうか、結構分かりやすいですよねえ」
「なんだと」
まさかさっきバルトに対して考えていたことを返されるとは。
馬鹿にされている空気を感じたから、サニーに軽いお仕置きをして貰おうかな。
私と目が合ったサニーが一歩動いた。
「失礼しました!」
サニーが二歩動いたところでバルト素早く謝った。
うむ、三歩進むまでに謝罪をしてくれたので許そう。
「宜しいのですか? 耳でも切り落としますか?」
「!?」
「いらないからいいや。あ、でも尻尾は魅力的……って冗談よ」
いけない、サニーに冗談は通じないのを忘れていた。
すでに剣を鞘から抜いているが、切り落とした尻尾なんていらない。
ソレルの尻尾も欲しいといえば欲しいが、アイテムとして欲しかっただけで収集したいわけじゃない。
切り落とした尻尾をホルマリン漬けにして収集なんてことをしていたらただの猟奇的な犯罪者だ。
バルトは耳をペタンと畳み、尻尾を抑えて怯えていた。
気がついたら白牙の民達も同じように怯えていた。
聞こえていたのか。
いらないから大丈夫です。
「で、なんで薬が必要だったの?」
脱線してしまったが話の途中だ。
「あ、えっと……俺じゃなくて、姉の病気を治したかったんです」
「お姉さんがいるの?」
「はい。両親はガキの頃に死んで、ずっと姉貴と二人で生活をしていました。姉貴、お腹に赤ん坊がいるのに変な病気にかかちゃって。人から離れているこの集落にはちゃんとした薬がなかったんです。探しに行こうにもどこに行けば良いのか分からないし、そんなことをしている間に赤ん坊に何かあったらどうしようって焦っている時にたまたま商人がやって来たんですよ。その商人は月の珊瑚を譲って欲しいって交渉に来ていて……」
なんとなく察しはついた。
「交渉が難航していたところにあなたが薬が欲しいと頼みに来たから、代わりに月の珊瑚を持って来いと言われたのね」
「その通りです。何個もあるものだと思っていたんです。最後の一個だと知らなかったし、すぐにビャッコ様が暴れ出すなんて夢にも思っていなかった。次は何十年、何百年も後だろうって。あとから話して、一生かけて弁償しよう、そんなつもりでいました」
「お姉さんは大丈夫だったの?」
「はい。薬で病気はすぐに治ったし、ビャッコ様の荒ぶる前兆と言われている唸り声が聞こえたその日に旦那さんと遠くに逃げて貰ったので無事だと思います。姉貴は俺が盗んだことを知らないから一緒に行こうと中々動かなかったんですけど、旦那さんには全部話していましたから。無理矢理連れて行って貰って、今は子供も生まれてどこかで幸せに暮らしているはずです」
「そっか」
よかったねと言いかけたが、バルトは死刑を言い渡されているのだからよくはないか。
「一回見たかったんですよね。甥っ子か姪っ子か分からないけど、姉貴の子供。クイーンハーロット様のところに行って死刑を免れることが出来たら、それが出来るかもって思って」
ユミルと通じる残念なところばかり見えていたけど、家族思いの青年だったようだ。
最近はイケメンという印象が薄れつつあったが家族のことを話しているときの穏やかで少し寂しそうな顔は間違いなくイケメンだった。
「これが終わったら会いに行こうか」
「え?」
「連れて行ってあげる。お姉さんのところに」
身を挺して守った家族を一目でいいから見たい、なんて願いを聞いてしまったからには叶えてあげたい。
私にはそれが簡単に出来てしまうし。
……家族かあ。
今はサニーとネル達兄弟が私の家族だけれど、本当の家族のことを思い出すと寂しい。
思い出も感情も大分薄れてしまったのか、家族について考えることはなくなってきてしまっていたけれど思い出すとやはり切なくなる。
「で、でも……どこにいるか分からないし」
「大丈夫、私に任せなさい」
キャラクター検索をすれば居場所は分かるし、移動ですぐに会いにいける。
バルトは自信満々の私の顔を見て会いに行くことは出来そうだと納得した様子だったが、会うことに迷いがあるのかまた下を向いてしまった。
「でも……俺が行って迷惑をかけてしまったら……」
見に行きたいけど遠慮しているようだ。
確かにバルトが見つかると色々問題はありそうだ。
バルトだけではなく私も見つからない方がいいが、一目見るだけなら見つからずに済む方法はあるだろう。
「もういいわ。私が行きたいからあなたを引き摺って行く。白牙の民の子供を見てみたいもの」
自分からは行きたいとは言えないのだろう。
それならば私に無理矢理連れてこられたという理由をあげようではないか。
嫌われ者仲間だし、少しくらい力になってあげたい。
それに本当に小さな子を見てみたい。
小さな虎耳と尻尾が可愛いに違いない。
「……分かりました。……すみません」
こういうときは謝るより『ありがとう』の方がいいのだけどね?
私に付き合わせるだけだから、言葉に出して指摘したりはしないけど。
「はっ!! まさか、若いのが好きだから……甥っ子だった場合を想定して狙ってるとか……!」
「そんなわけないでしょう! 若いのが好きってなんだ!!」
サニーに尻尾を取って貰うぞ!
折角感動的な空気が漂っていたのに、一瞬で吹き飛んでしまった。
こういうところがユミルと似ているのだ。
城に帰ったらユミルハウスという名の檻で同棲させてやろうか。
一先ずバルトの事情が分かったところで、クエストに関係することを聞いていきたい。
ところで……と仕切り直し、バルトに顔を向けた。
「ねえビャッコの姿は見た?」
「はい、見ました。なんか怖かったです。聞いていたのと全然違いました。神聖な感じなんて全くしない真っ黒で禍々しいっていうか……」
「真っ黒!?」
私がイベントで見た姿とは違う。
何か理由があるのかも。
それに真っ黒の禍々しい感じって……もしかして……。
「バルト、あなたは悪くないかもしれないわよ」
一通り思考を巡らせた結果、どうも複雑な事情がありそうな予感がしてきた。
どうしてそうなったのかは分からないが、ビャッコがどんな常態かは察しがついたのだ。
バルトを見ると、顔を顰めて思い切り混乱していた。
頭からハテナがたくさん飛び出しているように見える。
「盗んだことは悪いわよ? でも、全ての責任があなたにあるわけではないのかもしれないってこと」
「?」
確かめないといけない。
ビャッコは生きているのか、死んでいるのか……今、どんな状態なのかを。
「調べてみましょうか」
「そうだね。調べないとね」
今までこの場にはなかった陽気な声が背後から聞こえてきた。
サニーではない。
この声は……。
「ルシファー!?」
「やあ」
振り返ると、軽く片手をあげて和やかに挨拶をする魔王がいた。
……また厄介なのが増えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます