第25話
もう私の男好きネタやめません?
お腹いっぱいなのですが。
話を聞く前から面倒くさいが聞かないわけにはいかなさそうだ。
「とりあえず説明して」
ソファにだらしなく横たわりながらソレルに説明を求めた。
ああ、眠い……。
「説明も何も、そのままだよ。ラウェルナ大陸にある港町でクイーンハーロットと思われる者に町中の男が連れて行かれたってルフタに報告があったんだ。あんたがやったの?」
「だからやってないってば! ずっとここにいたわよ!」
「それを証明することは?」
「それは……」
アリバイの証明か。
サスペンスの二時間ドラマを思い出す。
「マイロードはこの領土から一歩も出ておりません」
サニーが助言をくれるが身内の証言は証明にならないんだよね。
ドラマでもそういうやりとりのシーンを何度も見た。
「サニーやここの住人の証言じゃ納得してくれそうにないわよね」
「そうだな。ちょっとまずい状況だよ。ルフタはあんたらと交渉してるから平和が保てると説得して他国の行動を制限している状態なんだよ。だが、交渉しているにも関わらず害が及ぶのであれば行動を起こすところも出てくるだろう。どこかの国がここを攻めてくるとなったら、ルフタも何らかの対応をせざる負えないし」
起こっていることはくだらないことなのに、引き起こされたことは凄く面倒じゃないか!
「偽者をとっ捕まえて差し出して、私じゃないってことを証明するのが早いか……。って言うかそれをやれって言いにきたわけね。大使様は」
私自身に解決させるのが一番楽で早い方法だろう。
やれとは言っていないが、ソレルの顔には『お前が何とかしろよ』と書いている。
「そんなことはない。ただ一番手っ取り早い方法ではあるのは確かだろうね」
こんな時でも美しいお顔は涼しいままだ。
意のままに動くのは癪だが、極力波風を立てないためにはやむを得まい。
夜中だがすぐに行動するとしよう。
動くと決めたらさっさと済ませてしまった方が良い。
「マイロード、お供します」
「ありがとう。それじゃあ、夜中だけどさっそく行きましょうか」
移動をする準備をしながらソレルの首根っこを掴んだ。
「ちょっと! なんでオレを掴む……」
「それじゃあ、参りましょうか」
言い終わったときには到着である。
「……んだって……。ちっ」
「あんたがいた方が色々便利でしょ?」
ソレルは強制連行だ。
情報も聞けるし、偽物退治の一部始終を見せれば証言もして貰えるだろう。
そして何より、少し腹が立っていたので嫌がらせがしたかったのだ。
うんざりしている顔を見て思わずニヤリとしてしまった。
さて、こんなくだらないことはさっさと終わらせよう。
件の港町はこの時間でもいたる所に明かりが灯されて明るかった。
石畳の町並みに赤レンガの建物。
水路があり橋が多い。
木や花が綺麗に並べられていて、映画で出てくるようなヨーロッパ旧市街風の趣のあるところだった。
凄く素敵だ!
こんなことで来たくなかった。
今度ゆっくり観光で来たい!
だが、今はそんな素敵な町並みには似つかわしくない、異様な雰囲気が漂っていた。
町人の姿もちらほら見えるが兵士の姿がたくさんある。
「あんまりうろつかない方が良さそうだね」
「だろうね」
とりあえず衣装をチェンジだ。
隠れて行動はするが、見つかった瞬間私だとばれるままの姿だとまずい。
なるべくこの土地に馴染むような目立たない衣装を探す。
町民の服装は女性しかいないので女性の服装しか分からないが、白シャツに赤のワンピース。
刺繍が施された茶色のエプロンをつけているスタイルが多い。
ブルガリアの民族衣装に似ている。
ブルガリアを題材にしたものではないが似ている衣装を見つけた。
『(衣装)マトリョーシカガールドレス ★4』に着替える。
これはマトリョーシカをモチーフしにしているもので、花柄レースで縁取られたこげ茶色の頭巾に若草色のワンピース、赤の刺繍つきエプロンが巻かれた衣装だ。
「どう?」
「似合わない」
「即答かよ!」
一瞬言われた意味が理解出来ないくらい回答が早かった。
ばっさりと切られてしまったが、これだけはっきり言われると清清しい。
「貴様……」
「正直な感想だ。衣装と当人の雰囲気が正反対で全く似合っていない」
「まあまあ、サニー。ソレルに褒めて欲しいなんて期待してないから。逆に似合うとか言われた方が恐ろしいわ」
「だったら聞くなよ」
「はいはい、悪うございましたあ」
ついつい聞いてしまった私が間違いでした。
もう、ツンツン王子面倒くさい。
「そんなことより、あなたも着替えた方がいいわよね?」
ソレルはルフタの紋章が入ったコートを着ていた。
ルフタの人間がこの辺りでうろついていたら面倒なことになりそうである。
実際には何もしていなくても、何かこじつけて言われたり。
「これ着なさいよ」
「……」
渡したのは私と色違いのマトリョーシカガールドレスだ。
あ、捨てた。
「ちょっと! 値段は高くないけど、大事にしてる服なんだから!」
「そんな物を渡してくるな! 着るわけないだろう!」
「大丈夫よ! 似あわない私なんかよりぜんぜんっ似合うでしょう」
「……似合わないって言ったの、気にしてるじゃないか」
気にしてません!
結局コートを脱いで、白のシャツと茶色のズボンに黒ブーツの姿になって収まった。
つまらん。
サニーは甲冑ドレスのままだ。
兵士が多いので馴染んでいて問題ないだろう。
支度が出来たので少し情報収集することにする。
ソレルの情報では町の男達がごっそり攫われたというだけだった。
もう少し詳しく聞きたい。
ぱっと見は怪しくなくなったが注目されるとすぐばれそうなので、人目を避けて動く。
特に兵士は近づかない方向で。
こそこそ町を歩いていると、中年の女性が集まっている所を発見した。
どうやら町の役所の前のようだ。
少し離れたところから物陰に隠れて様子を伺う。
「旦那が帰ってこなかったらどうしよう……私はこれからどうやって生きていけばっ!」
「大丈夫だって、きっと朝には討伐隊が帰ってくるさ。父ちゃん達を連れて」
「でも! クイーンハーロットに連れて行かれたんだよ!? 戻ってきたって精魂搾り取られて干からびてたらどうするんだい!」
「そんなことは……」
「そうだよ! あの大淫婦に攫われたんだから無事にはすまないよ!」
「ああ……息子はどんな恐ろしくて汚らわしい目に……あああああっ」
「私の彼も汚されて弄ばれて……ううっ」
女性達は集まってそれぞれ連れ去られた男達の心配をしているようだ。
その中に混じって聞こえるクイーンハーロットに対する侮蔑と嫌悪の言葉のオンパレード。
泣いていいですか?
「私そんなことしないもん!」
サニーに抱きついて号泣だ。
分かっていたが!
そういう認識をされていると分かっていたが、改めてその現実を突きつけられると心に刺さる。
私のガラスのハートは粉々だ。
「マイロード、私が連中を一人残らず今後一切喋れないようにして参りますので、お気を落とさず」
「何をする気!?」
「大丈夫です。一般人なので命までは奪わないよう配慮は一応致します」
聖母のような微笑で恐ろしいことを言うサニーを止めることで何とか気を立て直した。
大した情報は得られぬまま、精神ダメージだけ負ってしまった。
「そもそも私、クイーンハーロットじゃないし。ただのエルフだし」
そうなのだ、私はただのエルフなのだ。
だからさっきの言葉は私に対してではないのだ!
「何を言っている? エルフに角なんて無い。エルフを馬鹿にしているのか?」
自分を奮起させるため呟くとソレルが絡んできた。
しかも何故か真面目にお怒り気味だ。
私はエルフだよ?
いくらツンデレ森の王子でも、そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだぞ?
「馬鹿になんかしてないわよ! 私はエルフなの! 角はあるけどエルフなの! まごうことなきエルフなの! あんたと同じエルフなの! 耳がちゃんとエルフの耳でしょうが! っていうか角以外はどう見てもエルフでしょうがっ!!」
髪をよけ、耳を出してソレルに見せ付ける。
私がキレたことに驚いたのか、凄い勢いで耳を見せ付けたことに引いたのかソレルは後退った。
眉間に皺を寄せ、険しい顔をして私を凝視している。
そしてそのまま固まった。
「……」
妙な間が空いた。
何ですか、何かリアクションください。
私がどうリアクションすればいいか分からないじゃないか!
「まあ、いいわ……とにかく私はエルフなの! そういうことで!」
「……君も『忌み子』なのか?」
「?」
この話は終わりだと歩き出したのだが、ソレルが何か呟いた。
振り返ると、ソレルの表情が変わっていた。
戸惑っているような、どこか心細そうな顔をしている。
「いみご?」
そう聞こえた気がしたが……『忌み子』かな?
よく不吉な子を指す意味で使われてる、あれですか?
「『忌み子』を知らないのか? エルフと言うのならどこの出身だ? 親は今どうしている?」
珍しく動揺しているのか、早口で畳みかけるように質問を飛ばしてくる。
出身なんてありませんけど……あえて言うなら日本?
親も日本人です。
「……忌み子だったから、親が捨てたのか? だから自分が忌み子であることも知らずに育ったとか」
どう答えるべきか考えていると、私が黙っているのでソレルは勝手に推測を始めたようだ。
そういえばさっき『君も』と言っていたが、誰か知り合いに忌み子とやらがいるのだろうか。
もしかしてソレル本人?
「忌み子って何? ソレルはそれなの?」
「……忌み子というのは前例がないような、異様な特徴を持って生まれた者のことを言う。そういう子が生まれても気にしない種族もあるが、エルフでは嫌悪され、エルフとして認めて貰えない」
「じゃあ、私はエルフって認めて貰えないってこと!?」
「その角がある限りそうだろうな」
「!!」
ショックだ……。
どれだけクイーンハーロットと呼ばれても、自分はただのエルフだと思っていたから我慢できた。
なのにエルフとして認めて貰えないなんて……あんまりだ!
いつか角はあるけどクイーンハーロットではない、ただのエルフと分かってくれる日がくると希望を抱いていたのに!
打ち砕かれてしまった……私は何を心の支えにすれば!
「残念だがエルフとして認めて貰うことは諦めた方がいい。……オレもな」
「ソレルも!?」
それはソレルにも私の角のような特徴があるっていうこと!?
ソレルを上から下まで撫で回すように観察した。
それらしきものは見当たらないが……。
「不躾な……見過ぎだ。隠しているから探しても無駄だ」
「そうなの? 見せてよ!」
「断る」
「気になる! 見せてよ! 私の角は見たじゃない!」
凄く気になる!
私と同じようにエルフと認めて貰えない特徴とは!?
同じ境遇である嬉しさや好奇心が膨れあがって我慢出来ない。
「見せて!ちょっとでいいから!見せてよ〜!」
ソレルの眉間にどんどん皺が寄っていく。
だが私は負けない。
見せてくれるまでやめないから!
「マイロードのご希望に応えろ」
ここでサニーの刺激的な加勢。
剣を突きつけるのは良くないがナイスアシストだ。
これは強要でも脅しでもないサニー式の『お願い』だからね!
「はあ……」
どうやらソレルは観念したらしい。
溜息をつくと背中の方に手を伸ばし、ズボンをごそごそし始めた。
ちょちょちょちょっと待って!!
何が始まるの!!
思わず両手で顔を隠したけど、前のめりになってしまうじゃないか!!
「近い! 下がれ! ったく、少しだけだからな。……あんまりじろじろ見るなよ」
ソレルがズボンから手を離すと目の前で何かが揺れた。
それは……。
「お、おおお……」
尻尾だった。
ソレルは尻尾王子だった!!
と言うかこれは……この尻尾は……あれじゃないか!!!!
「小悪魔の尻尾!!!!」
ゲーム時代、私が欲しくて欲しくてたまらなかったがとうとう手に入らなかった『(アクセサリ)小悪魔の尻尾 ★MAX』ではないか!
黒に紫の艶が光る小悪魔の尻尾で、先がハート型になっているとても可愛いアイテムだ。
これが欲しくてクジを引いたが、どれだけ引いてもハズレの猫の尻尾ばかり。
ああ、欲しかった!
今でも欲しいっ!!
「いいなあ! 可愛い! 私も欲しい!」
「可愛い!? 欲しい!? って触るなっ」
掴んで頬にスリスリしようとしたが逃げられてしまった。
激しく動揺しているし顔が赤い。
もしかしてエロゲみたいに尻尾は急所でしたか?
「……尻尾が弱いの?イイ所でしたか?」
「なっ、馬鹿なことを言うな! お前はっ! 本当に恥の無い女だな!!」
「違うなら触らせてよ!」
尻尾を追いかけるがそそくさと仕舞われてしまった。
ああ、あのズボンの中に憧れの尻尾が……。
「見るな痴女!」
尻を凝視してると怒られてしまった。
「全く……こんな反応をするとは。普通気持ち悪いと思うだろう……」
「気持ち悪い!? 馬鹿を言うな!! 私はいくら注ぎ込んだと!!」
「はあ?」
思わず激怒してしまった。
ああ、私の元を去っていく福沢諭吉達。
結局報われなかった福沢諭吉達。
ああ……悔しい……欲しいな。
「だから見過ぎだ!」
「あら失礼」
でもなんでソレルにこんなレアアイテムついてるんだろ。
ひょっとして……私と同じ!?
「ソレルって元プレイヤー!?」
「はあ? 何言ってんだよ、って離せ!」
私以外にもログアウト出来ずに残った人が!? と興奮で両腕を掴んで聞いてみたが違ったようだ。
仲間がいたと思ったのに残念だ。
じゃあなんでなんだろう。
もしかして忌み子ってレアアイテムがついてる人のことなんだろうか……。
ま、いいか。
「でも、ソレルとはエルフ仲間って言うか、忌み子仲間だね!」
忌み子仲間とか、あまり良い響きではないが。
ソレルを見ると目を丸くして私を見ていた。
「どうしたの?」
「いや……エルフ仲間、か。忌み子仲間は……はは、嬉しくないな。というか『忌み子』っていうのはあまり他では言うなよ」
「了解しました!」
「……本当に分かってるのか? それよりも脱線し過ぎた。本来の目的を忘れていないか? 行くぞ、レイン」
森の王子は通常運転に戻ったようだ。
落ち着きを取り戻し、前に歩き出した。
偉そうに、ソレルが突っかかって来たから脱線したっていうのに……。
ってちょっと待って。
「今、レインって言った?」
「……それがあんたの名前なんだろう?」
「初めて名前呼ばれた!」
今まで『クイーンハーロット』とか『あんた』とかだったのに!
ツンデレキャラが名前で呼んでくれるようになった……。
これは間違い無く、親密度のパラメータが上がったな!
やったな私!
「デレた! ソレルがデレたー!」
初デレ頂きました!
嬉しいな、大変美味しゅうございます!
嫌なことばかりで心が折れそうだったが良いことがあったよ!
「おい、あんまりはしゃぐな。見つかる……」
「おい、いたぞ!!」
背後から、複数の足音が近づいてくる。
振り返ると、兵士達がこちらに駆け寄ってきているのが見えた。
「……馬鹿が」
「ごめん」
ちょっとはしゃぎ過ぎました。
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