第19話

 使用頻度の上がった城内の簡易和室。

 今日はまったり気分を味わうため、ルームアイテムの炬燵を設置した。

 私の向かいにはネル、左隣はサニー、右隣は空いている。


「マイロード、この『炬燵』なるもの、精神低下の呪いがかかっているようです!」

「かかってないから。ゆっくりするためのもの、そういうものなのよ」

「ですが、逆に落ち着きません……」


 常に臨戦態勢のサニーにはお気に召して頂けなかったらしい。

 すぐに炬燵を出てしまった。


「凄くほっこりしますね」


 ネルはとってもお気に召したようで顔が緩んでいる。

 見ていてこっちまで和む。

 いや、和んでばかりいては駄目だ。

 ちょっとからかってやろう。


「ネル。炬燵ではね、この布団に隠れて男女がじゃれるという伝統があってね」

「だ、だだ男女が、じゃれる!?」

「そう。大体は男からちょっかい出すものなのよ。さあ、ネル。やってごらんなさい」

「僕が!? 今ですか!?」


 私はにっこりと微笑みながらネルの行動を待つ。

 おろおろしながら一生懸命考えている姿が面白くて可愛い。

 『可愛い』は言ったら怒られるが、やっぱり可愛いものは可愛い。


「えいっ」


 ネルの手が私の足を掴んだ。

 どうやら私の足をくすぐるつもりのようだ。

 つまらん。


「えっ。ネルってばそんなところ触るの? 大胆ねえ」

「ええ!? 僕、へんなとこ触りました!?」


 更にからかってやると、ネルは足以外を触ってしまったのかと炬燵布団をめくった。

 寒いんですけど!

 それは炬燵で一番やってはいけないことだから!


「めくって覗くなんて! ネルってばいつの間にこんないやらしい子に……」

「あっ、ごめんなさい! 違います! 覗こうとしたんじゃなくて……!」

「おい、弟の方。あまり調子に乗るなよ……」

「サニー、冗談だから」


 冗談が通じないサニーの前では危険だったか。

 サニーの殺気にネルが冷や汗を流しながら怯えている。

 ああ、平和だなあ。


「……なあ、ユミル。ここはいつもこうなのか?」

「そうだな。私の立ち位置も大体ここだ」

「そ、そうか」


 私の脇には、正座している成人男性が二人。

 一人はネルの兄、ユミル。

 もう一人は『大使役』をやらされている虎イケメンことバルトだ。


 大使の役でこちらに来ていたのだが、ユミルに会いたいというので城に連れて来てやった。

 その際、ルシファーに視線で射殺されそうになっていたが仕方が無い。

 バルト程度ならこちらでどうとでも出来るが、ルシファーは危険過ぎるから領土に入れるなんて考えられない。

 それはさて置き。


 バルトを城に連れてきたが、私に不都合な話を二人でこそこそ話されることもあるかもしれない。

 例えばルフタからユミルに『褒美を与えるから、クイーンハーロットを見張れ』なんて依頼をされる可能性がある。

 なので、そんなことが出来ないよう私の前で『さあ存分に話せ、正座で』とセッティングして今に至るのである。

 悪いことをしていないのに正座させたのはなんとなくだ。


 二人は足を痺らせながらも他愛もない話を交わしつつ、私達の様子を眺め、なんともいえない表情を浮かべていた。


「私達のことはいいのよ。大使様の用事は終わったの? だったら早く出て行ってよ」

「もうちょっと休憩させてくださいよ!」


 ユミルと会うのは口実で休みたかったのか?

 最初は緊張していた様子だったが今は正座しながらもリラックスしている。


 大使としてこちらに行ったり来たりしなければならないバルトだが、彼の移動手段はグリフォンだ。

 グリフォンはジュターユには劣るがそれなりに高位な魔物である。

 だが乗り心地は悪いようだ。

 私は乗りたくない。

 可哀想だがそれも含めて君の役目だと思っておくれ。


「戻るまでどれくらい時間かかるの?」

「三時間くらいですかね」

「すぐに帰れ」


 思ったより近い。

 もっと長く、半日くらいかかると思っていた。


「腹が減りました」

「……案外図々しいのね」

「貴様、調子に乗るなよ」


 呆れる私の側に控えるサニーの鋭い眼光が光る。


「お邪魔しました」


 バルトは無駄の無い動きで立ち上がり、礼をした。

 なんというか……本当にユミルと通じるところがある。

 立ち上がったのは機敏だったが、礼をした後はグリフォンに乗るという憂鬱が待ち構えているからか、哀愁を漂わせてとぼとぼと歩き出した。


「はあ……」


 幸せが逃げるぞ。

 いや、もう幸せなど残っていないといった感じだ。

 今日見たとき思ったが少しやつれたように思う。

 大使にされて色々気苦労があるのだろうか。


「送ってあげようか?」

「えっ」


 少し気が向いた。

 村くらいなら問題ないだろう。

 もちろん角は隠して行くし。


「いいんですか?」

「今回だけね」


 バルトの顔に生気が戻った。

 グリフォンに乗るのがそんなに嫌なのか。


「実は……高いところが駄目なんです」


 ええ……高所恐怖症なの?

 始めてここにジュターユで来た時も、リバース寸前だったらしい。

 可哀想だな。

 少しバルトに優しくしてあげようと思った。




※※※




「はい、到着」

「……分かっていたけど、本当に一瞬で帰って来られたな」


 『移動』で問題無く村の前に到着。

 バルトは遠い目をしながら放心している。


「当然だ」

「レイン様は凄いんです!」


 何故か胸を張って誇らしげな二人。

 サニーとネルだ。

 ユミルは勿論お留守番だ。

 檻の中で。


 バルトを送るついでに少し村を見てくると言うと、二人がついてきた。

 ユミルも張り切って行くと主張したが、あいつは村で問題を起こしそうなので置いてきた。


 私はお出かけスタイルの角が隠れるブラックズキンガールドレスだ。

 サニーはいつもの甲冑ドレス。

 ネルは茶色い半ズボンとブーツ、上は白シャツというシンプルなスタイルだ。

 着飾りたかったが美少年というだけでも目立つのに、これ以上目立たせるわけにはいかないので残念だが我慢した。


 村の入り口にはルフタ兵による検問があったが、バルトと一緒ということで通れた。

 少し手間取ったが「入れなかったら覚えていろよ」と事前にバルトを脅していたので頑張ってくれた。

 ユミルよりは使えるようだ。


 村の中は人口の半数がルフタ兵、という状況になっていた。

 明らかに人口密度が高くて落ち着かない。

 だが人が多いということを好機と捉えたのか商人らしき人も多く見かけ、露店も多く開かれている。

 ちょっとしたお祭りのようだ。


「バルト、早く帰れ。さようなら」


 バルトといると目立つので、さっさと追い払う。

 ルフタの関係者の目に留まると厄介だ。


「帰りますけど! もうちょっと言い方ってもんが……分かりましたよ」


 サニーのちら見を受けて、ごにょごにょと去って行くバルトであった。

 グリフォンに乗らなくて済んだのだから良しとしなさい。


「ネル、見ていこうか」

「はい!」


 年甲斐も無くわくわくしながら露店を見て回る。

 遠目で見るとするとお祭りの屋台だが、近づいて見るとやはり武器や防具、道具を扱っているのが多い。

 全体的に質は高くないのが残念だ。

 やはり兵士達をターゲットにしているのか、彼らが使うレベルの品が並んでいる。

 でもルフタ兵って装備は支給されるものじゃないの?

 買う必要はないから需要はないんじゃないかと思ったが、どの露天も案外賑わっている。

 支給品に満足していないのだろうか。

 私に贈り物なんてしている暇があったら末端に手を掛けた方がいいのに。


 中には食べ物を扱っているところもあった。

 カットフルーツが並ぶ露店に、ヤシの実のジュースのようなものを取り扱っているところもあった。

 ネルが欲しそうに見ていたのでジュースを買ってやると、嬉しそうに大きな実を抱えて飲んでいた。

 可愛い。

 お母さん、何でも買ってあげちゃう。


 私も何か食べてみようと辺りを見回していると美味しそうな匂いが風に乗ってきた。

 お腹が空く香ばしい匂いだ。

 引き寄せられて行くと、そこは串焼きの露天だった。

 煙が凄い。

 周りまで脂が飛び散っていてあまり美しくはない佇まいだが、逆に雰囲気が出ていていい。

 なんの肉かは分からないが、つい謎肉の串焼きを買ってしまった。

 一人で肉を頬張るのは嫌なので、サニーとネルの分も購入。

 人ごみを避けて屋台通りから少し離れ、落ち着いたところで食べることにした。


 喧噪から離れ、どこかへと繋がる小道に入った。

 地面は舗装されていたが、道の脇には雑草が生えている。

 虫がいそうだが静かな場所を探し回るのも面倒だ。


「ここでいいわよね。よいしょっと」


 『(ルームアイテム):こびとのおうち ★3』を三つ取り出し、腰を下ろした。

 ルームアイテムは城の外でも使える。

 ゲーム時代には出来なかったのだが、いつのまにか出来るようになっていた。

 便利で助かる。


 こびとのおうちは本物の切り株にそっくりな造形をしている。

 真っ二つに開閉出来、中はこびとが住めそうな空間、ドールハウスのようになっているのだが閉じているときは座るのにちょうどいい。

 それに見た目がただの切り株だから、普通の椅子よりこの場に馴染む。


 さて、謎肉を食べた感想は……筋張っていて硬かった。

 味は良いように言えば素材の味が引き立った、率直に言えば焼いただけという感じだったが三人で食べたからか美味かった。


「たまにはこういうのも良いわね」

「はい! 楽しいです!」


 そういえばネルと出かけたのは初めてだったし、サニーと二人で出掛ける時よりも賑やかで楽しい。

 今日は領土から出て良い気分転換が出来た。

 満足したし帰ろうかと思っていると、ふいに人の気配が近づいてきた。

 ルフタ兵が三人。

 嫌な予感がした。


「おい」


 黙ってやり過ごそうと思っていたが、そうはいかなかった。

 ルフタ兵は見下すような横柄な態度をとりながら、こちらに話しかけていた。

 私がクイーンハーロットと呼ばれている者だとバレたのか?

 いや、分かっていたらこんな態度はとらないか。


「見かけない顔だな……村の者じゃないな? 何処から来た」


 ぱっと見の印象でい言うと『中年の下っ端兵』かな。

 サニーが今にも切りかかりそうだが制止する。


「答えろ。正直に話さないと捕まえて……可愛がってやってもいいんだぞ?」


 下卑た笑みを浮かべ、私達の顔を見回して……視線はネルに止まった。


「うっ」


 ネルが全身で拒否反応を起こしている。

 こいつ……ネル狙いか!?

 そっちの趣味なの!?

 私とサニーという美女を差し置き、ネルに行くの!?

 確かにネルは魔性の美少年だけど!

 色んな意味で許せん奴だ!


「やめろ」


 こいつらをどうしてくれようか考えていると、彼らの背後から新たな人物が現れた。

 ルフタ王国の紋章が入ったコートを着ている。

 普通の兵とは違う造りの服なので、彼らより上位であることが窺える。

 背は男性にしては少し低め、私と同じくらいで中性的な顔立ち。

 ネルより年上だが『少年と青年』の狭間といったところか。

 涼しげな水色の髪に高貴な猫を彷彿とさせる金色の目。

 耳が少し尖っているのでエルフだ。

 私と同じエルフだ!

 是非『森の王子』と命名したい。


「くだらないことをしていないで仕事をしろ」


 格下だが年上の兵士たちに容赦なく言い放つ姿は凛々しい。

 やだ、きゅんとしちゃう!

 ルフタ兵達は食って掛かろうとしたが抑え、忌々しそうに離れて言った。

 実に下っ端らしい振る舞いに思わず拍手しそうになった。

 そちらに気をとられていると視線を感じた。


「……」


 森の王子が私を見ていた。

 やだ、何かしら。

 どきどきしちゃう。

 なんてふざけているがどうも敵意を感じる。

 好意的な視線ではない。

 しばらくお見合いしていたが、森の王子は私達の横を通り過ぎ去って行った。


「クイーンハーロットがうろついてんじゃねえよ」


 なんていう言葉を残して。

 私はその場に固まった。

 バレてるし。

 そしてサニー、落ち着きなさい。

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