第16話

「皆さん、おはようございます」


 気持ちの良い朝だ。朝食のために食堂に集まっていた面々に笑顔で挨拶をする。


「お、おはようございます、マイロード」

「……おはようございます、レイン様」

「おはようございます……レイン様、あの……お伺いしてよろしいでしょうか?」


 どうしたのだろう。

 三人とも様子がおかしい。

 狼狽した様子でこちらを見ている。

 ネルが恐る恐る声をかけてきた。


「もちろんですわ。ああ、『様』なんてつけず気軽に『レイン』と呼んでくださいね」

「そ、それはちょっと……。あ、あの……なんというか……いつもとご様子が違うかなって」

「そうかしら? ああ、服が違うからね! どう? 似合わないかしら?」


 今日はいつものブラックマリアではなく、(衣装)ホーリージャンヌドレス ★4を着ている。

 コンセプトは『戦う聖女』で白の膝丈マーメイドラインドレス。

 裾が波打っていて花のようで綺麗だ。

 金のレースでできたストールがついていて露出も抑えられている。


「すっ、凄く綺麗です!」


 女性を褒めることに慣れていないのか、ネルがはにかみながら綺麗だと言ってくれた。

 良かった。


 イメチェンだ。

 私はイメチェンを決行した。

 一晩涙で枕を濡らし続け、辿り着いた答えだ。


 そうだ、この容姿が全ての根源だ。

 この容姿の印象が未成年によろしくない方向に引っ張っていくのだ。

 ならば変えるしかない。

 いつやるのか?

 今でしょ。

 黒から白に。

 ビッチから乙女になるのだ!

 私は乙女だ!

 ユニコーンとだって通じ合える!


「ありがとう、ネル」

「本当にお綺麗です、レイン様」

「まあ、ユミルもありがとう。嬉しいわ」

「あ、ありが!?」

「兄さんに普通にお返事を……!?」

「マイロード……!?」


 私は乙女。

 私は乙女。

 中身も穏やかに、清く正しく美しくだ。


「レイン様! どこか具合が悪いのですか!?」

「マイロード! 万能薬を! 兄の方、畑のマンドレイクを全部抜いてきなさい!」

「それ私、死にませんか!? 抜く時の悲鳴を聞くと死ぬんですよね!?」

「サニー、ユミルが可哀想じゃない」

「……僕がマンドレイク抜いてきます」

「え。ネル!? ちょっと待ちなさい! どこも悪くないから!」


 結局、本当にマンドレイクを抜きにいこうとするネルを止めているうちに口調は戻った。


 難しいね……イメチェンって……。




※※※




 そんなこんなをしているうちに、ルシファーと約束していた時間になった。


 今日はサニーだけではなく、ネルとユミルも一緒だ。

 昨日と同じようにサニーと二人で行こうとしたのだが、ネルが一緒に行きたいと言いだした。

 待っているように諭したが何故か頑固に行きたいと譲らなかった。

 領土内にいれば大丈夫なので、勝手なことをしないという条件で同行を認めることになったのだが、ネルも行くなら自分も行くとユミルも言い出したので最終的に皆で行くことになった。


「やあ、待っていたよ」


 今日も今日とて恐ろしい程美しい推定魔王は先に来ていたようだ。

 例の褐色イカツイマッチョも一緒だ。

 そして例のごとく眼力凄い、こっち見んな。


「君と会えるのが待ち遠しくて眠れなかったよ」


 苦笑交じりの穏やかな視線をこちらに向けてくる。

 痛い痛いっ!

 心臓が痛い!

 相変わらず美貌攻撃力が半端無い!


「……この寒いのが魔王ですか?」

「こら! ネル!」


 念のため後方で待機させている兄弟がこそこそやっている。

 おいおい、大人しくしていてくれよ。


「今日はお供が増えているね。おや? 見覚えある顔だなあ」

「ひっ」


 ユミルを目に留め、見定めている。

 ユミルの方はルシファーに見られ、ネルの後ろに隠れた。

 領土内とはいえ弟を盾にするな!


「ふうん、君は上手くやったんだ。それとも君のような奴が彼女のタイプなのかな? ……実に妬ましいねえ」

「ひぃぃ!」


 ユミルに向けて鋭い視線を向けた瞬間私にも悪寒が走った。

 怖っ!

 腐っても魔王か。

 いや、腐ってないけど。

 兄弟の様子を見ると、ユミルはネルの後ろで小動物のようにぷるぷる震えている。

 兄の威厳は皆無だな。

 ネルはというと……驚いた。

 平気そう、というよりむしろ魔王を睨んでいる。

 君、サニーに連れられて私の所に来たときは今のユミルみたいじゃなかったっけ!?

 領土内だから平気なの!?

 それでも大したものだよ!

 やだ、ネルかっこいい可愛いぐりぐりしたい!


「まあいい。『アメ』? 今日は雰囲気が違うね? 白を纏う君も可憐だ。そんな君にプレゼントだ。受け取ってね?」


 そう言うとこちらに向けて何かを放ってきた。

 害のないものだったようで、領土を越えて私の手元まで飛んできた。

 それは純白の薔薇の花束だった。


「綺麗……」

「今日の君にぴったりだったね」


 本当に『純白』だった。

 悔しいが私が育てた薔薇より純白で美しかった。

 凄い……!

 こんな薔薇があるなんて! 悔しい!

 ああ、帰りたい……帰って負けない薔薇を作りたい! 

 今日は帰ったら品種改良祭りだ!


「この薔薇は何処で!?」

「エリュシオンには庭園があってね。そこの薔薇は全部これさ」


 ああ……あったな、確かサタン戦のバトルステージだった。

 白い薔薇が段々黒に染まっていって、それと同時に魔王も最終形態になって……という流れだった。


「今度見にこないかい?」

「うっ……」


 やばい、見たい。

 こんな綺麗な薔薇の庭園とか。

 でも魔王の根城に入りたくない。

 でも見たい!


「マイロード」

「え、遠慮するわ」


 サニーの圧が……『行くな』という圧が凄いのですが!

 分かってるよ!

 行かないよ!

 今日も枕を涙で濡らせばいいんでしょ!


「残念。気が変わったらいつでも言って。歓迎するよ」

「しつこい」

「ネル!」


 だから後ろ組、騒がないでってば。


「そうだ。君に一つ報告があるんだ」

「報告?」

「早速この辺りをうろちょろする連中がいたからとりあえず捕まえたんだけど、いる?」

「いらない」

「そう? じゃあ始末してもいい?」

「!? ちょっと待って!」


 つい反射的にいらないと言ってしまった、危ない。

 しかし、早くない?

 昨日の今日だぞ?


「どういった連中なの?」

「ルフタ王国の者だね。この前いた奴もいたよ。待って、今出すから」


 そういうと何もないところに裂け目が現れ、中から何かが吐き出された。


 ……君か。


 そこには十人程のルフタ王国兵と見覚えのある、なんだか気の毒な赤髪の虎イケメンがいた。

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