第13話
城の一室、畳を敷いた簡易和室に一同が介していた。
畳の上は片付けられ何も乗っておらず、広くなった一面に色とりどりの衣装が散乱している。
ウェディングドレスを纏った美女の手から、次々と衣装が飛び出す光景はマジックショーのようだ。
「ううむ……どれにしようかなあ。これがいいかな? よし、これにしよう。はい、ネル!」
「……はい」
現在『ネルのファッションショー』ならぬ、私の『着せ替え人形遊び』が絶賛開催中だ。
課金くじ引きで自分が着られない男性衣装を引いてしまった時は思わず舌打ちをしてしまったものだが、こんなかたちで報われる日が来るとは。
いらないからと売りさばいてしまっていた分が悔やまれるくらいだ。
「レイン様! ネルばかりずるいです! 私にもご慈悲を!」
ユミルがうるさい。
ユミルも無駄に外見だけはいいから見栄えは良いだろうけど、ネルの方が可愛い。
ちなみに兄弟は私のことを名前で呼ぶようになった。
私がそう頼んだからだ。
何度も言うが、私はクイーンハーロットなどというものではない。
世間からそう認識されてることは認めるが、私はただのエルフのレインだ。
それはさておき、ユミルにちょうど良い衣装があったのを思い出した。
「ユミルには特別に私のお気に入りをあげるよ。きっと似合うから」
「ありがとうございます! 嬉しいですっ……て、何ですかこれ」
渡したのは『(衣装)エルファープスーツ ★9』だ。
これはエルファープという獣族の姿を模した着ぐるみだ。
エルファープは見た目は鼻が短い象で、身長は成体でも一メートル程。
ガラクタが好きで彼らの村はガラクタだらけだし、穴の開いたバケツをかぶったり曲がったスコップを背負ったりして身に着けている。
色はカラフルで、水色がいたり桃色がいたり灰色がいたりする。
今渡したのは桃色だ。
ゲームではマスコットキャラだったのだが私は彼らが大好きで、エルファープ人形のキーホルダーを家の鍵につけていたくらいだった。
男女兼用衣装だから私も度々着ていた。
レアレベルも高いし、かなり高額で売買されていた一品なのだ。
だからユミルよ、そんなに嫌そうな顔をしていたら燃やすぞ?
「私の贈り物が受け取れないっていうの?」
ジロリを睨むと、肩がびくっと跳ねた。
「貴様……マイロードのお心遣いを無下にするつもりか?」
サニーに詰め寄られ、今度は飛び上がって怯えた。
「滅相もないです! 有難く頂戴致します!」
「そうだよね。じゃあ早速着替えてきて」
「……はい」
なんともいえない哀愁を漂わせながら、ユミルは着替えるために部屋を退出していった。
そこにちょうど入れ替わるようにネルが戻ってきた。
「兄さんとすれ違ったんですけど、目が死んでたように見えたのは……何かあったんですか?」
「試練なのだよ。そっとしてあげて」
奴には奴の役割があるのである。
そんなことより――。
やっぱり似合うー!
今ネルに着てもらっている衣装は『(衣装)ハロウィンワンダーボーイ ★4』だ。
ハロウィンの衣装で白と黒、そしてオレンジのハロウィンカラーで出来ている。
襟が黒の白シャツに黒の短パン。
左片側だけサスペンダーがついて、黒とオレンジの縞模様のニーハイソックス。
ジャックオランタンや蝙蝠がモチーフの装飾がついている。
左側はオレンジ、右側は黒に色が分かれたマントもついていたり何かと私の好みだ。
そしてそれを着ているのが金髪碧眼美少年!
ああ……至福……!!
「ネル! 凄く似合ってるよ! 物凄く可愛いっ! もうずっとそれでいなさい!」
「ええ!? これでずっとですか!? ちょっと動きづらいんだけどなあ」
何か不満らしく、『可愛い、か……』とかぽつぽつと文句を垂れている。
『可愛い』は男心が許さないのか?
だがしかし、可愛いは揺ぎ無い正義なのだぞ。
「……着替えました」
そこに着替えを済ませたというユミルの声が届いた。
扉を少し開け、こちらを覗き込んでいた。
視線で「早く入れ」と催促するとのろのろと入ってきた。
こ、これは……!!
「エルファープ! うわあああん可愛いっ!」
なんということだ……身長に合わせた大きさになるからでかいエルファープだけど……凄く可愛い!
エルファープのボスという感じだ。
ユミルだと分かっているのに思わず飛びついてしまった。
壊れたガスマスクをおでこにつけていて凄く可愛い。
どんな風になるか大体分かっていたし自分も着ていたが、こうやって目の前に現れるとやっぱり可愛い。
「レイン様に抱きしめられている……これは夢か!?」
エルファープから篭った声が聞こえる。
「兄さん……卑怯な手を」
「マイロード、討伐の許可を」
ネルとサニーは何か気に入らないのか、エルファープを討伐してしまうような気配を纏いながら詰め寄ってきた。
「駄目! こんなに可愛いのに!」
そんなの駄目だ、エルファープは世界の宝だ。
エルファープ愛護法を作ってもいいくらい。
討伐なんてさせないぞ!
「レイン様に庇われている……!?」
「ユミル、喋らないで。可愛さが減る」
「えっ……あ、はい……」
折角可愛いのにユミルの部分が出ては台無しだ。
エルファープからすすり泣きが聞こえてくる。
泣いてるのはちょっと可愛いから許す。
そんな和やかな時間を送っているときにそれは起こった。
――ドオオオオオオオオオオオッ
「何!?」
「マイロード! これは……!」
「動かないで!」
突然ガクッと世界が下がり、地震が起きた。
立っているのがやっとな程の大きな揺れだ。
アースクエイクなどの魔法攻撃なら領土内は無効なので、城が揺れているということは実際に地震が起こっているということだろう。
城自体は崩れることはないと思うが、窓が割れたり家具が倒れてきても大丈夫なようにリフレクトシールドを全員にかけた。
様子を見に行こうか迷ったが兄弟だけを残すのは心配だし、でもサニーもついて来るだろうし……。
大人しく揺れが収まるまで待つことにした。
十分程待っていると揺れはおさまった。
家具が倒れ、花瓶なども割れてひどい状態だ。
「また、片付けなきゃいけませんね」
私も同じことを考えていた。
ネルの零した愚痴で少し和んだ。
だが、窓の外の景色を見てそれも吹っ飛んでしまった。
「なにあれ……」
窓の向こうの遥か先。
不浄の森を抜けた領土外が霧に包まれていた。
そしてその霧の隙間に見え隠れしているのは、あるはずの無い『巨大な島』。
高原の上に海からからすくい取ってきたような島が乗っている、そんな感じだ。
何がどうなって、ああなったのだ!?
だが……。
あの島に私は心当たりがある。
嫌な予感がとめどないが、残念なことに私の心当たりは正解だろう。
空中砦『エリュシオン』。
魔王の根城である。
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