第8話

 普段使われていない広い食堂。

 いつもは僅かな光が灯されているだけの薄暗い不気味な場所となっていたが、今日は様子が違う。

 眩しいほど明かりが灯され、二十席程ある細かい意匠の施された重厚な造りの長いテーブルには豪華な料理が所狭しと置かれている。


 この料理は『(ルームアイテム):最後の晩餐 ★7』である。

 洋食の豪華な高級料理やケーキなどのデザート、お酒が並ぶ。

 消費アイテムではなくルームアイテムなのだが、もちろん食べることが出来るし、無くなってもルームアイテムとして再設置すると料理が元通りになっているという家計に優しい仕様だ。

 お祝い事には最後の晩餐、これが私とサニーの習慣となっていた。

 今日は城の掃除をしてくれた兄弟へのご褒美として振舞うことにした。


「兄さん、凄いね!」

「ああ、王族にでもなった気分だな!」

「席に着いて。好きなようにおあがりなさいな」

「ありがとうございます!」

「では、遠慮なく!」


 私の前の席に優男が座った。

 葡萄酒の入ったグラスを掲げて叫んだ。


「クイーンハーロット様万歳!」

「お前は食うな」

「なぜ!?」


 調子に乗ってきたな。

 隣に座る少年に『食事中は騒いではいけません』と注意されている。

 兄の威厳は行方不明のようだ。

 どうやらこの兄弟はお調子者の残念な兄と、しっかり者だけど隙のある弟という構成らしい。

 そんな兄弟にはあまり掃除の成果は期待していなかったのだが、案外良い仕上がりになっていたので少し見直した。

 兄の方は手癖が悪いのか、度々サニーに粛清されていたが。


「そうだ、優男。お前と一緒にきた連中のこととか聞きたいんだけど」

「やさ!? 優男とは私のことですか!?」

「他に誰がいるの?」


 呼び方とかどうでもいいじゃないか。

 前に少年から聞いたが、覚えるつもりがなかったから忘れたな。

 私の中では、『優男』か『金髪激突馬鹿』で定着してるのだが。


「そういえば、少年の名前を聞いていなかったね? ネル、と呼ばれていたようだけど」

「あ、はい。フェンネルといいます。ネルとお呼びください」

「分かったよ。ネルと優男だね。覚えとくよ」

「ユミルです! 私のことも覚えてください!」

「はいはい。そんなことより例の連中のことを教えてよ」


 『そんなことより……』としょんぼりしているところ悪いが、早く話を進めてくれ。


「あいつ等は何者なんだい?」

「私も詳しくは知らないのですが……」


 そう前置きをしてから、ユミルは知っていることをぽつぽつと語りながら教えてくれた。

 ユミルも含め、彼らは全員死刑囚らしい。

 ユミルはクイーンハーロットを怒らせて世の中を危険に晒した罪人。

 他の四人の罪状は知らないそうだ。


 私は災悪と言われているが、過去に何かことを起こした歴史はない。

 だが実際に不浄の森は存在しており、過去に行った討伐も全て失敗という事実があるとか。

 私には何のことだか分からないけど、サニーが撃退したのかな?


 『得体が知れないが、確かに存在している不気味なモノ』が動き出すかもしれないという噂が広がり、国としても調査を行おうとしたが近づけば何が起こるか分からない。

 だったら死んでも問題のない者を使って様子をみよう、というのがルフタ王国のお偉いさん達の判断だったそうだ。


 美しい男を好むとされていたので死刑囚の中から美男子を選び、国の指示に従えば罪を帳消し。

 晴れて自由の身とすることを条件に彼らと取引。

 国の指示は『献上品として近寄り、クイーンハーロットの状況を報告すること』だったとか。

 生きて戻れるか分からないが、そのまま何もしないで処刑されるよりは望みがあるだろう、と。

 何人かは『愛玩具にされ、弄ばれながら殺されるくらいなら大人しく死んだほうがマシだ』と断ったそうだ。

 私、どんな認識のされ方しているの!?


「ということは、ユミルは私のことを国に報告して無罪放免になるわけだ?」


 領土内はロックされているから、誰も入ることは出来ない。

 ここに引きこもっていればのんびり暮らせるわけだから、報告されても支障はないと思う。

 だが、自分の情報を売られるようで気分が悪い。

 どうするのがベストか。

 考えながらジロリとユミルに視線を向ける。

 私の視線を受け、ユミルは姿勢を正してこちらを見た。


「いえ……元は私が、ちんけな商売をしていたのが悪いんです。お世話になった貴方様に、これ以上不愉快な思いをさせるわけにはいきません。ですから、私は国のいう通りには致しません」

「じゃあ君は処刑されてしまうわけだけど? どうするつもり」

「はい……クイーンハーロット様、無理を承知でお願いがあります」


 兄弟はちらりと視線を交わして頷き、直立不動で立ち上がった。

 うわっ、私の嫌な予感レーダーが再び起動したぞ!


「私達兄弟を、ここにおいて頂けませんか!」

「お願いします!」


 ほら、やっぱり……。


「ご遠慮願いたいなあ」

「そこをなんとか!」

「何でもします!」


 でたよ、ネルの伝家の宝刀『なんでもします』。

 どうしたものか。


 正直にいうと、どっちでもいいと思っている。

 信用ならない分はサニーに任せておけば問題ないし、自分も注意していればいい。

 面倒だが彼らがいて久しぶりにサニーと二人きり以外の時間を過ごし、楽しかった自分もいる。

 ネルが可愛いし。


「サニーはどう思う?」

「マイロードのなさりたいように」


 言うと思ったけど。

 仕方ない、ここの主は私なんだし自分で決めよう。


「では、条件付きで認めよう」


 まあ、何か問題が起これば放り出してやればいい。


 私が提示した条件は、『ここでは私が絶対。勝手に動き回らないこと。働かざるもの食うべからず!』を厳守、だ。


「もちろんです! 必ず、お役に立ちます!」

「ありがとうございます! よろしくお願いします!」


 こうして城の住人が増えることとなった。

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