第2話

「Summon!」

軽く閉じていた目を再び開けると、目の前に、一本の刀が浮いていた。

『鞘無刀』ーー蒼のもう1つの愛刀だ。

刀を手に取り、だらりと両方の手を下げる。

二刀流の構え。

闇使が怯えたように後ずさった。

「キュイイイン!」

その鳴き声を聞きながら、屋根から闇使に向かって跳ぶ。刀をクロスさせ、力を込め、目の前の敵に向かって一気にその力を解き放った。

左は闇使の心臓に。

右は闇使のその赤い目に。

「キュイイイン... キュイ... キュイイ!」

黒いもやが心臓と目から溢れ、

「キュイ... 。」

闇使は絶命した。

それと同時に、右に握っていた鞘無刀も、金色に光るもやとなって消え去った。

鞘無刀は、蒼の魔力を刀という形にしたものなので、蒼が手を離せば自動的に消滅するのだ。

「... ああ、終わった。」

左に握っていた愛刀は鞘に入れ腰に提げる。

「... ひ、ひえっ。うぐっ。」

(「... 忘れてた。」)

内心でため息をつきながらも少女にかけよる。

「お客様、大丈夫ですか?どこかお怪我などはござ... 」

「... ふえ。」

一瞬、口の端が持ち上がったかと思うと、

「ふえええええん!!」

大音量で泣き始めた。

「お、落ち着いてくださいませ。」

「ふえええええん!!うわあああああ!!」

明るめの栗色の髪に、透き通った緑の瞳。空色のワンピースを着、茶色のブーツを履いている。

白い、というか青白い肌で幼い顔立ち。

5、6歳くらいに見えた。

周りに保護者とおぼしき影はない。どの乗客も、電車の扉の前で泣きわめいている少女を迷惑そうな目で見ている。

「(迷子放送すべきだよなあ。ササキさんいるかなあ。)」

「うわああああああ!!ママあ!!パパあ!!」うわああああ!!行かないでよおおおおおお!!ママああ!!」

「(行かないで?)」

少女の発した言葉に蒼が違和感を覚えたとき。

『三番線ホーム間もなく発車します。ピーーーーーゼロサンニイヨン発車します。』

電車が動き出す。

線路と電車が擦れる音に少女は泣き止み、目をあげ、過ぎ行く電車を凝視した。

「... お客様?」

少女の透き通った瞳から一粒の透明な涙が頬を伝い、空色のワンピースに青い染みを作った。

蒼はこんなときにどうすればいいか分からなかった。

ただ、少女にいつまでも敬語を使っていることが間違ってるということは分かった。

「今は泣け。」

少女の頭に手を乗せると、少女はうなずき何かが切れたようにまた、泣き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る