夜と闇の狭間で
井上結城
第1話
夜と聞いたら君はどんなものを連想するだろう?
楽しい、という人もいるかもしれない。
眠いという人もいるかもしれない。
... そして怖いという人もいるかもしれない。
輝いた月が照らす、『メトロポリス』と呼ばれる機械都市の中心にある駅の中にその少年は立っていた。
時刻は午前3時。昼の世界が終わり、目に見えざるものと何かしらの事情を抱えたものと、少しばかりの人間が交錯する時間である。
... 故に。
蒼(アオ)は視線を横にずらし、刀を構えた。
気配がする。
闇使(ヤミツカイ)の気配が。
電車が遅れてホームに滑り込むように入ってきた、その屋根の上に。
(「いた... !!」)
鳥のようなくちばしを持ち、体は影のようにあやふやで、そして巨大。
手には鋭い鍵づめがある。
足はよく見えず、見方によっては黒いローブをまとっているようにも見えた。
闇使の赤い目が蒼を見た。
品定めするような目付きになったあと、ふらふらと吸い寄せられるようにこちらへ向かってくる。
(「バカめ。」)
蒼は一呼吸置くと、刀を握りしめ、跳んだ。
長い刀の切っ先が闇使の体に触れると、その部分は霧散して消えていった。
「キュイイイン!」
甲高い耳障りな鳴き声に、電車の乗客は顔をしかめる。
(「闇使に乗客を襲わせる訳にはいかない... !!」)
急がなければ、と蒼は息を吐き、さらに刀を構える。
闇使の赤い目が一際燃えるように光り、くちばしから火の玉が1つ放出された。
かろうじてそれを避け、電車を乗り降りする人たちが無事なのを横目で確認する。
「... きゃあ。」
(「小さい子供...! ?」)
闇使と蒼が向かい合っている、その闇使のすぐ後ろに小さな少女がへたりこんでいた。
(「しまった!!」)
「きゃあー!!助けて!!怖いよおおおお、ああああああ!!」
(「バカ!声を出すな!」)
闇使が少女の声に反応し、後ろを振り返ろうとする。
「てめええの相手は俺だああっ!!こっちい向けえ!!」
慌ててダッシュし、闇使に刀を向ける。
ハッとしたように蒼を見た闇使に向かって刀を振るった。しかし、その刀は透き通るだけ。そう、ローブに当てても意味がない。体に当てなければ。どれが体かもよく分からないけど。
「うわああああん!!ママあーっ!!怖い、怖いよおお!!」
「黙れ!!声を出すな!!」
そう怒鳴ると、少女は怯えたように目をつむり、口を閉じた。
「キュイイイン!!」
(「え?」)
背中に得体の知れない不安感を感じ、振り返った。嫌な汗が頬を伝う。
そこにはチャンスとばかりにくちばしを開けている闇使がいた。
(「紅玉がまた来る!」)
ちなみに闇使が口から放出する火の玉は紅玉という正式名称があったりする。
刀で紅玉を弾き飛ばし、電車の屋根に跳び移った。これでやっと、闇使と同じ目線になることが出来た。
(「ここからだな。」)
今回の闇使は大きい。ましてや邪魔者(少女)までいる。
少しくらい魔力を消費したって問題ないだろう。
蒼は覚悟を決め、軽く目を閉じて、叫んだ。
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