逮捕

カスミ以来、礼人は何人の人物を消しただろうか?

礼人に来る依頼はいつも女がターゲットだった。

しかし、女ばかりを殺したわけではない。たとえばこんな人物を殺した。

23歳の男子大学生。といっても大学には通っていない。父親が与党の大物政治家だったためテストなしで大学に合格して「大学生」となった。

一言でいえば「おぼっちゃま」しかも「馬鹿な」という形容詞が着く。

このおぼちゃま相当の悪人だ。

何人の女をレイプし、それを金と権力で消し去っていく。

これを取り締まろうという刑事はいたがいずれも、消された。

どうやら地元の暴力団のボディーガード付きらしい。

こんな奴の名前は挙げたくもないのでSとしておこう。

あるときSは飲酒をして高級車を運転し、一人の少女をひき殺した。

少女の父親は刑事だった。

父親はSの数々の不祥事を追い詰め、それを新聞社に売ろうとした。

そんな時カラーギャングが夜の街で彼を襲った。

そして彼は亡くなった。


Sはそれ以降も普通に派手な生活をしていた。ある日Sがクラブで乱痴気騒ぎをしているとき、爆発がした。あっという間に煙が周囲を包む。

慌てていたときSの頭に銃弾が飛んできた。弾は一発だけだった。

「うぅ」そう言ってSはくたばった。そしてクラブは全焼する。

仕事はこれだけで終わらなかった。


次のターゲットはSの父Oだ。Oには愛人がいる。まあSの父親なのだから利口なはずはない。愛人は20歳の女子大生だ。

その日もOは愛人のところに向かった。

「億ション」に彼女は住んでいる。

セキュリティーは都内で一番と言われるほどである。

Oは愛人の部屋に向かうためエレベーターに乗った。

すると若者がひとりエレベーターに乗り合わせた。

苦い顔をするOだったがエレベーターは閉まった。

上にエレベーターは昇っている。

途中若者が降りた。

そして愛人のいる階にエレベーターが着いた時にはOは死んでいた。

ナイフのようなもので首の急所を一突きである。血はさほど飛んでいなかった。


このOの事件に警視庁はやっきとなった。

現役の国会議員が「愛人」にあう途中で「殺されたのだ」

Sの事件はどうでもいいことだった。所詮「バカ息子」だ。

しかし関連性が疑われた。

マスコミは「死んだOとS親子のスキャンダルを大々的に放映した」

マスコミは権力者が生きているうちは「文句は言わないが」失脚したり、死んだりしたら「鬼の首をとったよう」に放送する。

Sの悪行は世間にさらされた。まあ自業自得であろう。


警察は犯人の目星もつかなかった。しかし丹念な捜査の結果、弾丸の種類が判明した。ロシア製の拳銃だった。

この拳銃を扱っているのは国内では織田組という暴力団だ。

織田組はOの御囲いだった山崎組とは「対抗勢力」にあたる。



織田組本部に刑事の木崎達が乗り込んだ。

「動くな。動いたら打つぞ」暴力団に対抗するには時には拳銃の二三発の発砲を覚悟している。

木崎は組長の織田道高の部屋に入る。

「おう。織田。ひさしぶりだな。元気にしてたか?」

「ダンナ、令状はあるんですかい?」

「あるよ。これだ」

そういうと織田に令状を見せた。

「お前にはSとO殺害の容疑がある。ムショでゆっくり話を聞かせてもらおうか?」

「しりませんよ。大体やくざが政治家殺して何のメリットがあるってんですか?」

「メリット?シャンプーか。最近のやくざもインテリになったもんだな。」

「とりあえず、ムショに来てもらおう」

そういうと織田組の道高と幹部数名が「銃刀法違反」の容疑で逮捕された。


「やはり、織田組が関係していたな」木崎は嬉しそうだ。

「しかし、売ったのが組織ですからね。まだ確定はしてません。」そう答えるのは高木という若い刑事だ。

「それを調べるのが俺たちの「仕事」だ。」

そういうと「容疑のある組織のリスト」を高木に渡した。


礼人の手に「拳銃」が渡ったことを知ると木崎はいそいで逮捕令状を請求した。

「銃刀法違反」という「別件」で逮捕し、それから数々の事件を吐かせるのだ。

しかし、礼人という人物を探すのは至難の業だ。

浜辺の砂の中からひとかけらのダイヤモンドを探すようなものだ。

マンパワーと情報技術のおかげでそれらしき人物が発見された。

「高橋 真治」という名前でアパートを借りていた。


さっそくそのアパートを警察が包囲する。

礼人の行動を監視した。


そして、その日高橋真治の部屋をノックした。

「高橋さん、いますか?警察ですが。。。」「いますか?」と聞いてはいるが部屋の中にいるのは確認している。

礼人は窓から逃げようとしたが、おそらくは裏にも何人かいるだろう。

「自殺でもするか」そう礼人は思った。

「しかし、捕まってもいいや」そう思った。

「どうせ、死刑になる、このまま生きても先は見えている」

20代の若者の考えは超越した。

礼人は素直に玄関を開けた。

「黒崎礼人だな。銃刀法違反の容疑で逮捕する。」

刑事たちは防弾チョッキを着ている、と同時に昨日のうちにアパートの住民や周囲300メートルの住民には避難してもらった。

礼人は素直に「拳銃」を差し出した。

「よし連れてけ」木崎は声を張った。





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