死刑宣告者の終着点
若狭屋 真夏(九代目)
殺し屋
プロレスというものは「ショー」である。ある程度のリハーサルが行われている。もちろん事故が起こることもあるのだが、それを最小限にするために日々努力している。「ショービジネス」だけにその場を盛り上げるためにヒール(悪役)とかのキャラクターが設定されていて、リハーサル通りに進んでいく。
実際に「殺しあう」ことは決してない。
しかし、世の中には「有り余るほどの資産」の保有者なのに「人が殺しあう所を見たい」という「変態」が少なからずいる。
「流れる血」に興奮するという厄介な奴らだ。
「金」だけはある。だから「そういった場所」を提供する「やから」も多いというわけだ。大体「けつもち」は地元の暴力団などが多いのだが、この「ファイトクラブ」は違った。
普通、ファイトクラブでは戦うものは「お金」のために戦う。しかしここではファイトマネーが出ない。「殺されてもいい人間」が戦いあうのだった。
つまりは殺人者、しかも複数の。。
「裁判にかける必要がない」人間なのだ。
大量殺人者、麻薬組織の元締め、オレオレ詐欺のリーダー、少年法に守られている若者たち。生かしておいてもさほど価値のない人間、「まあ、そんな人間は普通はいない」のだが、どうしてもそういう人間が出るというのが社会のおかしなところである。
価値観が増えて彼等が大量に社会にできたとき「処理」する場所が必要になる。
それを例の「変態」達に見せて金をとろうというのが「当局」の目的である。
余計な事に金をかけず、「変態」から金をむしり取る。
「いい商売」なのだ。
もちろん、これは「国家的秘密」だ。
掛け金は一試合につき最低十億円。一晩で1000億なんて平気で超える。
そのすべてが「国家」の特別収入として国に入る。
この金が「国家の裏金」として政治に使われている。
この「施設」今日も一人の「選手」が移送されてくる。
「黒崎 礼人(あやと)」それが本当の名前だ。
年は28歳。元の職業は「殺し屋」である。
彼が初めて人を殺したのは14歳の時だった。相手は父親である。
彼の父親は礼人に首輪をして教育した。
14の時礼人はそんな父を包丁で刺して殺した。
そして家に火をつけた。
その「炎」が礼人の瞳から忘れることは無かった。
そんな彼を拾ったのはプロのヒットマン「国枝 真治」だった。
家が燃えているのを呆然と見ているところを国枝偶然通りかかった。
「人を殺した目」が礼人の目から感じ取れた、と国枝はのちに語った。
「お前だな」国枝は礼人にそういうとうなずいた。
「行くところが無かったら、うちに来い」
そういって二人は「犯行現場」から去った。
人間という生き物はそう簡単には死なない。
果物ナイフで人を殺すという事はあるが、あれは「ナイフ」の傷によるものより、「出血性ショック」によっての場合が大多数、である。
「人を殺すため」には決められた場所にナイフを刺す、いや刺さなくてもいい、そこに傷をつけるだけで「簡単に」人は死ぬ。
それを覚えるのが「殺し屋」にとって一番大切なことだ。
徹底的に国枝は教えた。
それ以外にも武術をはじめ、外国語の習得などを覚えた。若いだけあって物覚えはよかった。
これから「黒崎 礼人」という名前は世間から消えて、様々な名前を名乗るのである。
「彼」が初めて「仕事」で人を殺したのは16歳だった。
ターゲットは若い女性だ。「とある国会議員」の愛人で23歳になるキャバクラ嬢だった。「理由」はわからない、が恐らくは「知りすぎた」のだろう。
「牧村雄一衆議院議員 第二秘書 高崎 晴海」という名前で彼女に近づいた。
「すごーい、政治家の秘書さんなんだ~」とカスミは言った。カスミという女こそ標的なのだが、彼女は殺されることをまだ知らない。
礼人はオーダーメードのスーツに腕には「フランクミューラー」の腕時計をしていた。120万の代物だ。
「この腕時計って、ブランドものじゃないの?」
「ああ、よく知ってるね」
こうしている間にもカスミは礼人の股間に手を当てていた。
どうやらカスミという女は「尻が軽い」女なようだ。
礼人の美しい顔はこういう女を殺すときに「大きな武器」になる。
一通り遊んだあとにカスミは「今夜シティーホテルの1002号室に部屋を取ってあるの」とささやいた。
「飲みなおさない?」
「わかったよ」
「絶対来てよね」とカスミは微笑んだ。
二人の裸の体はベッドの上で絡まっていた。
お互いが求めあい、快楽に堕ちていくまでに時間はかからなかった。
何度も快楽を得ようと二人はしていた。
「この女を殺す」というのが礼人の頭の中にある。それを計算して女を抱くのである。
そして、夜は明けた。
「ここで殺すことはできない」セキュリティーがしっかりしているし、防犯カメラも設置してある。殺しても捕まってしまうのがおちだ。
礼人の計画はこの後にあるのだ。
「ねえ、今夜仕事やすんじゃおうかな?」カスミは礼人の指に絡ませた。
「そんなことして大丈夫なの?」
「大丈夫よ。わたしにはパトロンがいるから、お金には困らないの」
「それよりも。もっと私をたのしませて。。」
そういうとカスミはキスをした。
ふたたび二人の体が重なった。
このホテルは駅の前にあり、いわゆる「ラブホテル」ではない。二人は昼近くまでホテルにいた。本来は10時チェックアウトと決まっているが、カスミは常連である。つまりは何度も「男を連れてきた」過去がる。おまけに政治家の愛人というのも知っている。ゆえに融通が利いた。
そして二人してホテルの前で別れる。別れ際にカスミはキスをした。
カスミは駅に向かった。その姿を確認して礼人は急ぎ駅のコインロッカーに急いだ。鍵を開け中から大きめのカバンを出した。
トイレに入ると個室に入った。
そしてそこで着替える。今までは「政治家秘書だった」人間が急に「どこにでもいるふつーのにいちゃん」になる。
そして駅のホームに入っていく。
ホームには人混みがたくさんいる。
礼人はゆっくりとカスミに近づく。
カスミはまさかさっきまで逢瀬を交わした人物が後ろにいるとは思っていない。
やがて電車が来て人の群れが動く。
そしてその「時」がきた。
ゆっくりとカスミに近づくと「針」のようなものをカスミの体に刺した。
カスミの体は急に力が抜ける。
そしてその場に倒れる。
「大丈夫ですか?」と周囲の人は言ったがやがて、カスミが息をしてないとわかると「キャー」と大きな声が響いた。
ホームが大騒ぎとなった。
しかしその時には駅のホームに礼人の姿はなかった。
これが「初めての仕事」だった。
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