まだまだ知らないことばかり
「さて、それじゃあ帰るわよ」
図書館に戻るうちに彼女は片付けを終えていた。
そう言われてしまっては帰らざるをえないだろうな、そりゃ。
「おう、そんじゃ帰るか」
帰り道は来た道と同じだ。当たり前だが。
「魔女が――」「なんでまた町に――」「図書館の――」
嫌われてしまっているのと理解した結果、陰口などにも敏感になってしまってなんとなく居心地が悪い。
そんな時だった。
「町から出て行け! 魔女!」
そんな声とともに石が投げられた。子供だった。
まあそんな力も技術もない石は俺ですら弾くことができるわけだから、怪我になることはないわけだが――純粋が故にあれってやつだな。昔の俺にも覚えがある。
純粋すぎて、親の言うことが正しいと思い、行動にまでそれが出ちまうってやつだな。
「はぁ……」
思わずそんな現実をみてため息を吐いてしまった。
「早くでようぜ」
「え、えぇ」
「ん? どうした?」
「なんでもないわよ!」
何でお前まで少し動揺してるんだよ。慣れてるんじゃないのか?
まだ俺の知らないことがあるのかもしれないな、こいつは。
俺の行動に、若干のどよめきと聞き取れはしないが、俺に対する悪口かはたまた愚痴かは聞き逃しながら、町をでた。
町をでて少しだけ草原を歩く。森と町の間に空間が存在してしまうのはしかたのないことだと思う。村とか集落ならともかくな。
「ふう、やっと楽になれる」
「どうしたのよ。嫌われるようなことでもしたの?」
「してねえよ。ただ、ああゆう腫れ物の視線は苦手なんだよ。見覚えのない人間がいるだけで、なんでそんなに見てくんのかね」
ごまかせてるか心配だな。
「そういうものなのよ。それより家に戻ったらあの鍬――今は斧だったわね。少し貸しなさい」
「別にいいけどよ」
彼女の家に戻ると日はくれていた。
「どうする? 中持ってきていいなら、持ってくるけど」
「明日でいいわ。それより、コーヒー飲む?」
「じゃあ、もらう」
図書館でも思ったが、どうやら文字についても特に問題なく今は読めているようだ。彼女に聞くと勇者として召喚された紋章の効力やそれに近い何かだろうということらしい。
つまり、とりあえず新聞を読んでみている。
朝にみたことだから勇者の召喚がピックアップされている。ゴルドギア王国が各地の魔王を統治する大魔王を倒すべくというのが理由で――魔王何人もいるのかよ。
「ん~、やっぱり読んでもよくわからんな」
「あんたの世界どんな世界だったのよ?」
「うん? そうだな。魔法とか魔術なんてもんは存在してなくて、科学っつうかこう、機械が進歩してて」
「機械?」
「……まあ、あれだ。電気とかそういうのをエネルギーにして、いろんなことができる道具が多くあるんだよ」
「そうなのね」
「そういえば、聞きたいんだが。魔法と魔術って何か違うのか?」
本にも新聞にもやけに書いてあるが、単語の使い方がわけられてる気がした。
「魔法っていうのは、簡単にいえばあんたに使った治癒とかみたいに、何か道具とかを必要としない技のことよ。本人か大気中、地中の魔力を使うの。基本は自分の魔力を使うのが正しくて、あとは素質も少し関係してくるわね」
「つまり魔術は道具を必要とするってことか?」
「まあ、簡単にいえばそうなるわね。機会があれば教えてあげるわよ」
「おう、頼むわ」
……ん?
つまり、俺はそんな教える時間があるほど滞在する予定に彼女の中ではなっているのか?
「まあ、今日は寝ましょう。久しぶりに、遠出して疲れちゃったわ」
「おう……あ、そうだ」
「なに?」
「いや、裏の畑一部以外荒れてたけど使ってねえのか?」
「まあそうね。あそこもちょっと魔法とか魔術の実験で使いたいものがあって、育ててただけだから」
「使ってもいいか?」
「別に構わないけど。整備とか面倒だと思うわよ?」
「そこらへんは実家で慣れてるから気にすんな」
自由研究で家の荒れてた土地の一部畑にして賞をとったからな――小学生の時に。
その後は「おやすみ」とお互い言って、お互い眠りについた。
お互いが互いに気遣っているわけでもなく、今は俺が勝手に気負ってるだけだろうな。
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