納得なき悪意

 市場へと向かう道中。


「最初は驚きましたよ」

「何がですか?」

「あの子が、男の人を連れてきたことですよ」

「あぁ……」

「まあ、誰かと一緒に来た時点で少し驚いたんですけどね」

「…………なんか、こっち来るときもでしたけど、あいつ何かしたんですか?」

「聞いていないの?」

「まだ何も知りませんよ。名前すら聞いてないですし」

「そうなの……まあ、あれよ。家系ってやつよ。あの子は何もしていないわ」

「家系ですか」

「そう。あの子の2世代前の――つまり、お爺ちゃんとかの世代ね。その頃に、あの子の家系は代々魔法師の家系なんだけど、その魔法で事故を起こしちゃってね……その頃から魔女だなんだって、この町からは嫌われ者扱い」

「なんすかそれ。わけわかんねえ」

「ふふっ、そうよね。私も正直わからないわ……でも柵っていうのはなかなか取れないのよ」

「ふうん」


 なんか、納得はいかない話だった。そもそも俺は魔法とか魔術とかわけわかんねえし、1回ミスしたくらいががなんだって思う。


「まああの子はあの子で、ちょっと辺な部分はあるけどね」

「そうなんすか?」

「えぇ……今日だって一心不乱に本を探してたでしょう。あの子気になったこととか好きなことには一直線なのよ。後は、人とのコミュニケーションが下手で、でもたまに照れさせたりすると可愛くて」


 なんかどんどん話がずれてきた気がするけど、面白いからいいか。


「まあ、だからこそ。あなたが何者かは知らないけど、あの子をお願いしたいのよ」


 市場について、品物を眺めたり手に取りながらも話は続く。


「お願いしたいって……それこそ、得体のしれない俺なんかでいいんすか?」

「少なくとも、あの子にも関わっていい人とダメな人の区別くらいはつくわよ」

「信用してるんすね」

「ふふっ、私、魔物に襲われたことがあるんだけどね。その時あの子に助けられたの」

「魔物なんているんすか」

「変なこと聞くのね。まあ、その時までは私だってあの子を誤解してて、嫌な視線で見てたわ。だけど、それをきっかけに少しずつ関わりだして――それで、今は大好きよもう」

「へえ……人助けを」

「ちなみに、あの子は拒否してきたけど。私はお礼を言わせてって1年間通い続けたわ」


 恐ろしい執着というか、根性してるなこの人!


「だから――」


 リンゴのような果物を俺は投げ渡される。


「あのこの事。お願いしたいのよ。近くにいる人が、1人でもできるなら私が安心できるから」


 その笑顔の中にはなんとなく、愛を感じることができた。今日、嫌な視線を感じたから余計に。

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