ある日森のなか少女とクマに出会った

「うおっ!?」


 そして目が覚める。どうやら夢だったようだ。


「何だよ夢かよ……だよな、そうそう隕石が落ちて、ひかれるわけなんてねえよな……あれ?」


 体が動かない。

 それどころか、若干あたたかい。ただ、アロハシャツしかきてないせいで、素肌に色んな物が触れて気持ち悪い……まて、気持ち悪いってなんだ。

 そして、俺は気づいた。

 頭以外が土に埋まってる。


「ってなんでだあああ!?」


 俺が叫び声を上げていると、頭が影に包まれる。それは日が雲で隠れたわけでもなく、人が現れたからだ。

 金髪の可愛らしい怒り顔の女の子が――


「人の家の畑でなにしてるのよ?」


 ***


「おぉう……」

「もう、手間取らせてくれるわね」


 助けだされるもとい芋の如く掘り出された俺は、ふかふかの畑の土に横たわっている。

 いや、ずっと体動けない状態になってたせいか、体がギッシギシで動かしにくいんだよな。


「助けていただきありがとうございます……俺はランサーです。あ、言葉わかりますか?」


 なんか外国人みたいなイメージあるし。


「わかるわよ。ていうか、あんたがアタシの言葉を理解している時点で、言葉通じてて普通じゃない?」

「そいつもそうだ」


 何で気づかなかったんだ。

 しかし、顔が整ってて綺麗だな。


「な、なによ。そんなアタシの顔見て……なにかついてる?」

「いや、ついてねえぞ? まあ、改めて助けてくれてありがとうな」

「は、はあ……ていうか、何してたの?」

「俺にもわからん」


 あんな訳がわからねえ夢をみた後に、訳の分からねえ状況になってたわけだしな。ていうか、こんな森、実家の近くにすら見覚えがないんだが、


「とりあえず、帰りなさい。ここにいるとあらぬ誤解を受けるわ?」

「誤解? というか、すまん。ここどこだ?」

「は? どこって、リレティアスに決まってるじゃない」

「リ、リレティアス?」


 聞いたことがない。そんな国があっただろうかと思ったが、そもそもこんなに日本語が堪能なのに日本以外のわけがないと思うんだよな。そうなると確実に聞いたことがない。


「……まさか、わからないの? 記憶喪失とか?」

「いや、そんなことはない。名前もいろんなことも覚えてる。ただ、だからこそ聞いたことがねえから」

「でも、名前はこの世界そのものだったじゃない」

「すまん。あれはあだ名だった。俺の本名は槍野康介という」

「ヤ、ヤリノ? ……呼びにくいから、ランサーでいいわよね?」

「まあいいよ。しかし、そうなると帰り方もさっぱりわかんねえな……もしかして、未だに俺は夢を見ているのか。そっちのほうがしっくりくるな」

「現実逃避してる場合なのかしら……?」


 ジト目で見られてしまった。


「んじゃ、とりあえず帰り道探してみるわ」

「野生動物とかいるから気をつけなさいよ」

「夢だから大丈夫だろ」

「……いや、駄目だと思うわよ?」


 そんな心地いい見送りの中、とりあえず森の中へと突入した。というより、あの子の家が森のなかだったといったほうが正しいな。


 しかし、まあ不思議な場所だ。夢であろうと見れてよかったな。昔の科学が発展する前とかはこんな感じだったのかもしれないな。それこそ、魔術や魔法文化が本当に存在したかもしれないとされる西洋の方なんか、あんな場所に住んでたりしそうだよな。

 段々と浮かれ始めた俺は鼻歌交じりに、適当に歩いていたわけだが、途中で新たな第一村人とぶつかってしま――


「グルルルル」

「人ではなくベアーだったようで」


 即座に死んだふりを実行したが――ここで俺の頭に電流が走る。キュピーン!

 たしか、死んだふりは迷信で、本当は目を合わせたままジリジリを後ろに下がるのがいいんじゃなかったか?

 そんな若干遅いと言わんばかりの発想が頭に流れこんだのだ。

 ここで俺がとれる作戦はふたつだ。

 ひとつは死んだふりを続行する。そしてもうひとつは死んだふりをなかったコトにしてフレンドリーにクマーさんと目を合わせて、後ろにジリジリと下がっていくことだ。

 さて、どの選択肢を選ぶのが正解なん――

「グフォッ!?」

 体に激痛がはしった。正解は3の考えているうちに、蹴りを入れられるだったぜ。

 幸いだったのは、上からのしかかられなかったことだ。折れてる気しかしない脇腹を抑えて、出来る限りの全力でダッシュを開始する。

 つうか、痛みがあるってことはこれは夢じゃないということか。そんなバカな。


「やばい、やばいやばい」


 ただどうやっても、クマの速度からなんて逃げきれるわけもなく。追いつかれてしまい、もう駄目だと最後の抵抗に俺は両手で顔をかばって目をつむった。

 その瞬間、目の前が光り輝く。具体的には俺とクマの間に陽光輝く何かが現れて、クマの顔面に勢いよくぶつかった。


「グゥッ!?」


 その攻撃で傷をおったのかクマは逃げていってしまった。野生動物ってそんな知能を持っていたのか。知らなかったぜ。

 更にそのぶつかったとされる光の何かは、輝きを失って地面に落ちていた。手にとってそれがなにか判明する。


「……鍬?」


 まごうことなき、農具の王道のひとつ、鍬だった。

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