第5話 さようなら
新しいミッションに入ると、徐々に戦闘時間は長くなり頻度も増え、敵母艦同士の距離も近くなった。そのせいもあり敵機は手ごわくなり攻撃も激しくなって戦闘は泥沼化、どんどんと死者行方不明者が続出した。
コクピットにて出撃前、ブリーフィングルームでもうすぐこの戦争は終わるのだろうと、無責任に言っていたのを思い出す。
終わる時、自分はどうすればいいのだろうか。
考えが過ぎった瞬間、敵機接近アラームが鳴った。
桂の機体は外装だけではなく、システムも必要なものしか組み込んでいない。必要無いデータは表示されない。シンプルな方が瞬時の判断には最適だからだ。自分の体のように自機のことはわかるが、細かいチェックを手早く済ませ自分の慣れた設定へと変更していく。敵機数、フォーメーション、攻撃予測。自分に最適の攻撃手段と戦略を一瞬で構築し、敵陣へと躊躇い無く飛び込む。終わるまで戦い続けるのみだ。
何十機か落とした後、一体の見たことがないバトルドールが自陣を圧していた。一度中間地点へ戻る。少し違う識別ペインティング。すらりとした曲線の美しいシンプルなデザインをしている。おそらく鋭機。あ、これが敵の親玉か。そう気がついたのはすぐだった。見方機を狙い撃ちしようとしていた射線に割って入る。二機は対峙数秒後、戦闘へと突入。桂は僅かな交戦で強いな、と感じた。真っ直ぐでいて迷いも無駄も一切無い攻撃には、好感さえ持てた。不思議なものだ。
ほんの少しの間に、他の機体も支援機も撤退していた。あるのは、塵と、濃紺と鈍銀のバトルドールだけ。
一騎打ち。
攻撃をかわしながら悟る。
連合と連盟、両勢力の長かった権力争いはこれで終わる。
誰もがこのばかげた戦争に疲れている。そろそろ終わりにしたいのだろう。そこで自勢の所有する最強のバトルドール同士を戦わせ決着をつけることにしたのだ。
この戦闘に勝った方が、人類の主となる。
別にそんなのどうでもいいと勢いよく叩き斬る。寸でかわされた。
美しい形状をした鈍銀バトルドールの、小さな固体識別ペインティングが視界の端に
チラリと入った。
青い林檎。
桂は気が付いてしまった。
今、殺し合っているこの相手こそ、自分が守りたかった、唯一の人だと。しかし機体はなおも次の攻撃へ向け加速し始めている、止められない。立て直すにもすでに接近しすぎていた。
鈍銀は無抵抗に、桂の濃紺の身体を受け入れた。無機質の温もりを持たぬ腕が桂の機体をぎこちなく包み込む。
直接通信回線が開き、ノイズ画面に、女性の声。
「けいちゃん」
ふいに機体を強く蹴られ、急速に両機の距離が遠のく。
意図を理解した時には遅かった。
なんて綺麗な光なのだろう。
白い白い閃光。
涙が頬を伝った。
そして、少しだけ微笑んだ。
桂にはわかった。
最期の瞬間まで、ふたりとも同じことを願ったのだ。
どうかこの世界で平和に生きて、と。
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