第2話 兄弟推参

 前回までのあらすじ

 朝起きたら謎の園児がいた


「だ、だれ?」

 そう尋ねた俺をくりくりとしたまん丸目で見つめながら幼稚園児は可愛らしく小首を傾げ「寝ぼけてるの?」と聞いた。

 (なんだこの園児?不法侵入?園児が?それにしてもどっかで見たことあるような顔してるな…)

 食い入るようにジッと見つめると園児はますます首をかしげた。このくりくりした目といい、黒いサラサラの髪といい、なんか毎日顔を合わせているような、この見慣れた感じ…

 そうして見つめているうちにふととある人物の顔が脳裏をよぎる。

(どことなく母さんに似てるような… えっ?!母さん産んだの?ま、まさかな…従弟とかそんなオチだよな…?)


 とりあえず二階にある俺の部屋に園児を残したまま階段を駆け下り、キッチンのドアを勢いよく開けつつ叫ぶ。

「母さん! 俺の部屋に見知らぬ園、じ、が?」

 だが、思わず言葉に詰まる。キッチンに立っていたのは母ではなく、見知らぬ20代位の男だったからだ。

しかもエプロンつけてる。

 サラサラの金髪に甘いマスク、女子がいう王子様とはこういう事か…エプロン似合う…

(いやいや!そんな場合じゃない!!)

「誠、朝ごはん出来てるよ」

 謎の男こと王子は当然のように俺の名を呼び。そのままご飯を茶碗によそい始めた。

「だ、」

「だ? どうしたの? さては昨日も遅くまでゲームしてたなぁ。あれほど早く寝ろって言ったのに」

 「ふふふ、しょうがないなぁ」と優しげな声で笑いながら俺を見つめる王子。

(なんだこれ…どういうことだ…なんで俺の名前…とりあえず…)

 そんな王子に困惑しながらもスっと息を吸い腹のそこから叫ぶ。

「誰だテメー?!」


 すると

「朝っぱらからうるせぇ」と俺の頭上よりも遥かに上から声が降ってきた。

 慌てて振り向くと、短い黒髪の巨人が立っていた。

コイツはさっきのやつとは違った感じの男の中の男みたいなカッコよさが出ている。

「な、な」開いた口がふさがらないということをこういうことなのだろう。

金魚のように口をパクパクさせながら考えていると、巨人は寝ぼけ眼のままキッチンに立つ男に「朝飯は?」と問いかけていた。

「今日の朝ごはんは、誠治せいじの好きなアジの開きだよ。お味噌汁のむ?」

「のむ、俺今日は飲み会あっから晩飯いらねぇから」

「了解ー、あんまり飲んじゃダメだよー」

 巨人は俺を押しのけて食卓につき、寝癖のついた頭をガシガシとかきながら大きな欠伸をしテーブルに並べられた食事に手をつけはじめた。

「なんだ誠、飯喰わないのか?だったら俺がアジもらうけど?」

 未だに口をパクパクさせて立っている俺を見て巨人(おそらく名前は誠司)は、味噌汁を啜りつつテーブルに置かれたアジの開きを箸で指した。

 なにも答えない俺に首を傾げて今度は俺を箸で指し呆れたような目を向けた。

「オイ、兄貴コイツ寝ぼけてんじゃねぇの?」

「そうなんだよぉ、さっきからずっと様子がおかしくて、多分また徹夜でゲームしてたんだと思うけど?」

「どうしたんだろうねぇ」と二人揃って俺を見ながら首を傾げた。

 い、一体なんなんだこの「うちの子は本当にしょうがないなぁ」的な雰囲気は?!

本当にこいつら誰なんだ?!

もう一度先ほどと同じ言葉を叫ぼうとした時

「おい!」

「やべぇ!遅刻!遅刻!」

 今度は二階から、ドタドタと階段を転げ落ちるように誰かが下りてきた。

二回にいるはずの園児よりも、幾分か低い声が馬鹿でかい大きさで聞こえてきた。

(今度は誰なんだ?!)

「兄ちゃん!そこどいてくれよ!」

先程の馬鹿でかい声が、今度は間近で聞こえた。

おそるおそる振り向くと俺よりも少し低い身長、おそらく中学生ぐらいのカッコいいというよりも可愛いといった風貌の少年がぐしゃぐしゃの頭のまま立っていた。

声の大きさに驚いて退いてしまうと、少年はもの凄い勢いで部屋に飛び込み朝飯にがっつき始めた。 

(今度は茶髪かよ、つーかさっきからみんな顔がいいなオイ)

 もう何がなんだかわからないまま呆然と立ち尽くす俺をそっちのけで、目の前の謎の男たちは当たり前のように会話をし始める。

誠人あきひと兄ちゃん!牛乳取って!」

「オイ!誠志郎せいしろう物喰いながら喋るな!」

「そう言いながら人のアジ取ろうとすんな!」

「やかましい!社会人には体力がいるんだ! 年上を労われ!!それだから万年補習なんだ!馬鹿弟!!」

「コラ!二人とも!喧嘩しながら食べない!」

 なんてテンポのいい連中なんだ。

まるでコントを見ているようだ。

「おはよー」今度は聞き覚えのあるのほほんとした声。

もとい母さんの声。

「母さん!」救世主の登場に大声をあげて振り向く俺。

 しかし、またしても言葉に詰まる。

何故ならそこには謎の園児と仲良くお手手を繋ぐ母親がいたからだ。

見れば見るほど似ている二人。

(オイオイ、マジで産んでないだろうな)なんて考えてしまうほど似ている。

因みに笑えることにうちの母親は年の割には若く見えたりする。

「誠ってば、大きな声出してどうしたの?」

「呑気なこと言ってる場合じゃねぇよ! コイツらとそのちびっこ何なんだよ!?」大声を上げながら、未だに食卓で争う連中を指差す。

 だが、母は園児と顔を見合わせつつキョトンとした顔で、

「誰って?何言ってるの?」と心底不思議そうに言った。

「だから!コイツら一体誰なんだよ!まるで自分の家みたいに居座りやがって!!」

母に向かって怒鳴ると、母はさも当然と言った顔で無い胸を張って俺に向かって答える。

なんだから当たり前じゃない」

 はっ?

「『じぶんのいえ』?なに言ってんだよ? 俺と母さんは二人暮らしなんだから、他のやつがいるはず無いだろ」

「誠、アナタさっきから変よ。まさか、の顔を忘れたの?」


 今なんて言った。


 思わず俺は母の背に隠れ、こちらを恐る恐る窺う園児を指差し「きょ、兄弟?」と尋ねた。

「そうよ、この子たちはあなたの兄弟じゃない」

 再度問う。

「兄弟ってあの、兄とか弟の?」

「そうよ」

「英語で言うとブラザーの?」

「そうだって言ってるじゃないの。どうしたの?頭でも打ったの?」

 きょうだい…

 兄弟…

俺の兄弟

「う、嘘だろぉ?」

 呆然とする俺の後ろでは未だに三人による朝食戦争が続いていた。

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山吹さんちの五兄弟 百瀬 コウヤ @nzd_kouya

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