-4日目- 「no pain, no gain」

ー都立聖林高校。

次々とあの娘と同じグレイのブレザーを羽織った高校生たちが登校してくる。こんなに朝早いというのに、どの子も表情が朗らかで明るかった。


「オハヨー!」


「おはよ!」


「夕べの月9ドラマ観た?」


「観た観た。超泣けたァ!」


友だちを見つけるや否や、爽やかな笑顔で駆け寄って行き、朝の挨拶を交わす。

私や、昨日の電車に飛び込んだあの娘とは明らかにまとっている雰囲気が違う。私自身、昨夜の死に様をここに来るまでの間もずっと引きずっていたので、なんだか救われた気がする。そうよ、これが生きている人の人間らしい表情なんだわ。やっぱりこうして来ておいて良かった。感動して校門の前で立ち尽くしていると、何人かの生徒たちがジロジロとこちらを気にしているのに気がついた。

ヤバい、マスクは外しておこう。これじゃまるで不審者そのものじゃないの。それに彼女がもし登校して来たとしても、よくよく考えたら向こうは私のことを憶えている筈は無いのだから。今までの法則からすると、記憶を維持したままタイムループするのは、私ひとりだけの筈である。

ゴホゴホと態とらしく咳をして、マスクを外して、ポケットに仕舞い込んだ。その目につく小芝居が仇となってしまった。あの少女がちょうど目の前を通過し、目立った私のことを直視してきたのだった。しまった!そう思った時にはもう遅かった。


あの眼。暗く澱んで生気の失われたあの瞳だ。あの時のあの瞳が瞬きもせず真っ直ぐ再び私の眼を視ている。

ほんの一瞬のことだったのに、私にはまた長い間、時が止まった様にも感じられた。

だが、彼女は他の生徒たちとは違い、私に対して何の感情も示すことなく、何もなかったかの様にそのまま通り過ぎて行ってしまった。まるで私の存在すら眼に入らなかったみたいに。やはりそうだ。あの娘は今まさに、私と同じ眼をしている。死者の眼をしているのだ。他の活き活きとした生徒たちとは異なり、生者の眼をしていないのだと感じ取れた。

誰にも声を掛けられず、誰にも近寄られることなく、寂寥感すら漂わせて校門をくぐっていく孤独な彼女を、私はただ唖然として見送っていた。




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