-2日目- 「リプレイ」

「今日のまどか、なんか凄かったなぁ〜。」

同僚であり、親友でもある北原静香が梅チューハイのグラスを掻き混ぜながら、鋭く言い放った。


「え、そう?」

わたしはドギマギを隠しながらも、シラを切って応えた。


「おっちょこちょいなトコはいつも通りだけどさ、そのリカバリーがなんていうのかな、そう神懸かってたみたい。」


「それは言い過ぎでしょ。」


「ううん。別人みたいだってみんな言ってたもん。やり方がスマートで出来る人って感じで、カッコよかったよ。」


「アハハ。どうもありがと。でもそれじゃ普段よっぽど出来ない人みたいじゃないの。」

わたしは苦笑いするしかなかった。


「そういう意味じゃないけどさ。まどかはやれば出来るコなんだって、今日はスゴくよく判った気がしたもん。」


「それはそれは。お褒めの言葉を賜わり、ありがたき幸せですわ。」


「変な台詞。なーんだやっぱり気のせいだったのかなぁ?」


「なんだとコイツめ〜!」

今度はふたりで大笑いした。

本当なら昨日(実際には今日と同じ日だけど)の今頃は、彼を誘って小粋なJazz Barで雰囲気に浸っている所だったけれど、急きょ約束をドタキャンして、静香を女同士でも愉しめるこの賑やかしい洋風居酒屋へと連れ出した。

とにかく、昨日とは全く異なる行動をしなければならない。

行動を変える事で結果が変わってくる事は、あの後も何度か実証済みだった。

わたしは幾度となく見事に物事を片付け、トラブルを解決して、さっき静香がした様に、周囲の皆からも賞賛を浴びた。

しかし、本当にわたしが回避したいのは、今夜零時に訪れる筈のわたしの死に他ならない。

静香には悪いけれど、タイムリミットまでは、彼と比べて冷静に対処してくれそうな彼女に付き合ってもらう事に決めた。

このまま昨日の様にのたれ死ぬにせよ、無事生き延びるにせよ、わたしはこの後の起こり得る出来事をしかと受け留めるしかない。

念のためと言えるかはまだ判らないが、店の前には、ERを備えた救急医療病院が建っている。

もしもの時は、静香と店の人間が対処してくれるだろう。

居酒屋の店員は、そうした緊急時の対処に強いと聞いたことがある。

わたしの場合にも、同様に対処し得るかどうかは疑問ではあるけれど。

病院の中でその時を迎えるのが正しい対処法といえたかも知れないが、最期の時を病室で待つというのは何だか嫌だし、わたしの性に合わない。

どうせなら仲の良い友人と楽しい時を過ごしながら、その時を待ちたかったのである。

いずれにせよ、その時刻は明確な訳だから、直前にでも静香には打ち明けるつもりだった。

彼女にその瞬間に立ち会わせるのはしのびなかったけれども、流石に一人きりで死を迎える勇気はまだ持ち合わせてはいなかった。



楽しい時を過ごしていると時の過ぎるのは早い。

皮肉にも、まさしく夕べの彼の言ってた通りだった。

わたしと静香は、美味しい食事を食べて、美味しいお酒を飲んで、楽しいおしゃべりを交わして、短いが充実した時を過ごした。

今日のわたしにとって、十分に満ち足りた気分で1日の終えられると言えそうだった。

あと約1時間後に午前零時を迎えるにあたって、わたしは静香に事の顛末を打ち明ける事にした。





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