#2
冬を越えて輝く太陽と、太陽に映える黄色い菜の花。
――じゃあ、はるねぇちゃんだね!
太陽よりもまぶしい笑顔が、強く焼き付いた。
++
小学生の頃から遊び場として使っている公園。その場所からは太陽が良く見えて、夕方の五時になると町中に流れる音楽もよく聞こえる。あの頃は音楽が鳴るのが嫌いだった。夕焼け小焼けの、どこかもの悲しい旋律。それは、遊びをやめて帰らなければならない合図だったから。
母親はわかりやすくていいわあなんて笑っていたけれど、冗談じゃない。みんなと別れなければならない曲の、何がいいものか。
嫌うどころか憎みさえしていた小学生時代はいつの間にか過ぎていき、やがて中学、高校と上がっていった。年を経るごとに、あの五時の旋律はだんだんと気にならなくなっていったのだ。
活動する時間が広くなった、というのが理由のひとつかもしれない。高校生になった今では、日が完全に暮れてから家に着いても怒られなくなったから。それでも遅くなる時にはちゃんと連絡しないと、帰ってから盛大に怒られるけれど。
昔は嫌いだった、夕焼け小焼けの合図。
あの公園を通りがかると、それを思い出すのだ。
三日前に話していたベンチに座りながら、鳴り始めたばかりの音楽を何となしに聞く。時計を見なくてもわかるこの正確さは、昔からずっと変わらないのだ。
さて、待ち合わせ時刻になったけれど、待ち人はまだ来ない。
携帯電話を開いて眺めてみるけれど、そこにはメールも着信も来ていない。
一度こちらから連絡してみようか。せめて、着いた旨を知らせるだけでも。
そう思って操作しようとしたその時。
「ちぃにーちゃーん!」
突然大きな声で呼ばれ、何事かと顔を上げる。見えたのは公園の入り口、見知った顔が駆けてくるところだった。小柄な影がふたつ。
一人は息を切らしながら全力疾走を。もう一人は自転車を押しながらゆっくりと。
後ろからやってくる影が笑いながら歩いてきているのは、きっと見間違いではない。
「ルカ」
先にたどり着いた人物が両手を伸ばしてきたので、その手の平へと合わせる。残念ながら高らかには鳴らなかったけれど。
「ひっさしぶりぃ! はるねぇちゃんが、ちぃにぃちゃんもいるって言うからさ、オレ、ここまで走ってきたんだ!」
「俺も、ルカに会えるの楽しみにしてたんだぜ。今日はいっぱい遊んでやるからな、覚悟しとけよ?」
「いやったあ!!」
飛び込んできた小さな頭をなでてやると、元気な声が返ってきた。
「はるねぇちゃん、オレ、ちぃにぃちゃんと遊ぶからな! 横取りすんなよ!」
「はいはい」
ようやっと追いついてきたヒナが自転車のスタンドを立てる。動かないようにスタンドのロックをかけて。
「ちぃくん、遅くなってごめん」
「ちょうど連絡しようと思ってたから良かった。遅れるなんて珍しいじゃん」
「ルカを迎えに行ってたらおばさんと話し込んじゃって。十分前に着くはずだったんだけど、つい」
「オレの母ちゃんとはるねぇちゃんって、仲良いよな。二人が話してるといっつもオレだけ仲間外れにされるから、やだ」
しがみつくルカの手が強くなる。
なんとなくだけど、寂しいんだなって思って。大事なものが独り占め出来なくなった物悲しさ。きっと、あれと同じだ。
「そんなこと言わないで。わたし、ルカのこと好きだよ」
「ほんと?」
「ほんと」
前屈みになって語りかけるヒナが、ちらりとこちらに視線を送ってくる。
「二人だけでわかりあってずるいなー。俺を除け者にしないでくれよ」
そう言ってルカを覗き込めば、真っ直ぐに見返されて。
「えー、ちぃにぃちゃんは別だもん」
……正直、胸にぐさりと突き刺さった。
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