三:開かずのトイレ
そんじゃ三つ目、やっと半分だ。
次は定番のトイレの話をしてやろう。
この学校、二階の東奥に古いトイレがあるんだけどよ、見たことあるか?
あ? ないのか? じゃあ明日にでも見てこい。いや今日は行くな、あそこは夕方以降に近づくもんじゃない。
それが本題だ。
他のトイレは改装がされて綺麗だろ。でもそこだけ手が加えられてない。なんでか分かるか?
……おう、そうだよ工事しようとすると良くないことがだな……なんだよその顔。
まぁとにかく、どうやったって工事を入れられねーってんで、手つかずってわけよ。
んでだな、古くて臭ぇってんであのトイレには誰も近寄らねーんだが、あそこが嫌われてるのにはもう一つわけがある。
夕方以降に出るんだよ。……なにがって、出るっつったら幽霊に決まってんだろ。お前、俺になんの話聞きに来てんだ。
まぁ良いや、本題だ本題。
ある日、入学したての新入生がトイレを探してた。部活の見学が終わって、もうとっくに夕方なんて過ぎてあたりが暗くなり始める頃合いだった。
辺りも薄暗くてちょいと不気味な中、しょんべんしたくてたまんねぇってんでそいつは慌ててたんだな。ふっと目に入った薄汚いトイレを見つけてそこへ駆け寄った。
ふいに、クラスメイトが噂していた内容を思い出す。
二階の東奥にあるっていうトイレ、幽霊が出るんだってさ。まぁ二年生の階だし、東側って使ってる教室ほとんどないから近寄ることないよな。
そういう噂話だった。
そいつは一瞬躊躇したものの、もう我慢できねーってんでそのトイレに飛び込んだ。
一応電気はつくものの、えらく暗い。
アンモニアの臭いが強烈で、一秒だって長居はしたくないような場所だった。色もなんかきったねーしよ。
そいつはさっさとことを終わらせようと便器の前に立ち、それから手短に用をすませて今度は手を洗いに移動した。
水もちゃんと出る。あー良かった。これで一安心。小便を無事終えた安心感も手伝って、肩から力が抜けた。
その肩に、誰かがぽんと手を置いた……ような気配があった。
慌てて顔を上げる。そこにあったのは、鏡。そこに映る自分の顔。
それから……。
その新入生は叫び声を上げてトイレから転がるように逃げ出した。
なんたって、鏡に映る自分の後ろにニヤニヤ笑う血だらけの男が立ってたんだからよ。そりゃビビるだろ。
そいつは息も絶え絶え職員室に飛び込んだ。幸いそこには先生がまだ何人か残ってて、尋常じゃない様子の新入生を見つけてどうしたのか聞いてきた。
高校生にもなって馬鹿にされるかも、なんて考える余裕もなくて、そいつは先生にさっき見たことをありのまま伝えた。
先生はやれやれってな具合に首を振って見せた。
そしてこう言ったんだ。
いったい何を見たって言うんだ。二階の東トイレは、使えないように入口を塞いでただろう。
ってな。
あぁ、嘘だと思うんなら今からでも見に行って来いよ。マジであそこは封鎖されてるぜ。ほとんどの便器が壊れちまって、改装もできないってんで塞いでんだと。
電気もつかねーし水も出ねーよ。
でもなぁ、夕方以降になると、たまーに入れちまうんだよなぁ、あそこ。
ま、それでも入らないほうが良いぜ。運が悪いと、出てこれなくなっちまうからな。
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