二:降りられない階段

 さっさといくぞ、二つ目だ。


 この学校には過去に屋上から飛び降りた女子生徒がいる。

 そいつは明るい奴で、友達も多かった。おおよそ自殺なんざするような奴じゃなかった。


 だってのに、その女は屋上から飛び降りて、あまつさえ地面に横たわった血まみれの顔はものすごく幸せそうっつーか、満足げっつーか、とにかくそういう「良い」顔をしてたらしい。


 それだけでも結構不気味な話だとは思うがよ、この女がこんな顔で飛び降りたのにはわけがある。

 本題はそれだ。


 ある日、そいつは図書室で居眠りしちまって帰りがちっと遅くなっちまった。窓の外は真っ赤な夕焼けで、なんとも不気味な夕方だった。


 季節は冬で、早く帰らないとじきに日が落ちて真っ暗になってしまう。そう思ってそいつはいそいそと帰り支度を始めた。


 良く見りゃ図書室にはもうだれも残ってなかった。

 司書の先生も居ないってのが気にはなったが、そいつは図書室をあとにすることに決めた。


 この学校は図書室が三階にあるだろ? だから当然、そいつは階段を目指して歩いた。

 階段の踊り場に到着して、一段下がる。

 そうやって階段を下って、二階に降りて、もう一つ下って、一階に降りて、そんで昇降口を目指せば良い。帰るにはなんの試練もない。そのはずだった。


 だけどおかしい。十段階段を下って踊場、次に十一段下って二階のはずだった。

 別に階段の数が増えたり減ったりしたわけじゃない。おかしいのは二階だった。


 いや、二階じゃないのがおかしいと言うべきか。

 そいつが降り立ったのは、どういうわけか三階だった。


 なんで分かるかって? 三年生の教室のプレートがすぐ横にあったからさ。

 この学校は一階が一年、二階が二年、三階が三年の教室って具合になってるだろ。

 だから三年の教室がある以上、ここは三階ってことになる。

 おかしいじゃないか、自分は確かに計二十一段の階段を降りたのに!


 そう思って、彼女はもう一度階段を下った。確かに二十一段下った。


 だってのによ、やっぱりあるんだよ。三年の教室が。

 そいつはバクバク鳴り始めた心臓を抑え込んで、再度チャレンジしてみた。

 確かに階段を降りた。絶対に降りた!


 けどなぁ、やっぱり三階なんだ。もう女はパニックだ。どうなってる、どういうことだ、なんで降りられないんだ!


 焦った彼女は、上はどうかと考えた。

 上にも上がれないのか? だったら自分は永遠に三階をさまよい続けるのか? それとも、朝になればこのわけのわからない怪奇現象はおさまるのか?


 そんな風に頭の中でぐるぐると考えながら、彼女は下り続けた階段を今度は上ることにした。

 二十一段上った先にあったのは……幸いにして、視聴覚室だった。そう、四階ってわけだ。


 上には登れるのか。なんだ、自分は夢でも見てたんじゃないか?

 そう思って彼女は再度階段を下った。


 残念ながら、今度は視聴覚室の横に出た。どうやら、上には行けても下には行けないらしい。

 彼女は何回も何回も階段を降りた。泣きそうになりながら、もう何回目かもわからないくらい階段を降りた。


 気づけば外は真っ暗になっていた。

 焦った彼女は、何を思ったか四階からさらに上を目指した。この学校は四階建てだ。っつーことは、残るは屋上のみ。


 そうそう、ここの屋上にカギが掛けられてない理由知ってるか?

 カギを掛けようとすると良くないことが……ああ? 台の話と被ってる? うっせーなぁ。


 まぁ良いや、そういうわけでその当時もカギは掛かってなかった。

 だから彼女はそのまま屋上の扉を開け、鉄柵に向かって走った。


 鉄柵の向こうには、何の変哲もない校庭が広がっている。それがなんだかすごく嬉しかった。


 なんだ、もう二度と地上には降りられないと思ったけど、外は普通じゃないか。

 降りられるじゃないか。


 降りられる、ここから飛び降りれば。


 翌朝見つかった女子生徒は、ひどく幸せそうな顔をしてた。念願叶って地上に降りられたんだからな。


 二つ目は以上だ。

 なに? タイトル? んなもんは自分で考えろ。

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