一:呪いの伝書箱

 そういやお前、転校生だっけ?

 一か月前に来たのか、じゃあまだこの学校のことなんか全然知らないよな。


 この学校には七不思議があってな、今日はそれを話してくれって頼まれたんだよ。

 まぁそういうわけだから、六つ分しっかり聞けよ。


 あ? 七つじゃないのかって? いや七つ知ってんだけど、七つ目話すととんでもねーことが起こるって話だからよ。

 俺、そこまで責任持てねーし。だから今日話すのは六つまでだ。七つ目知りたきゃ自己責任でなんとかしろよな。


 そんじゃあまずは一つ目だ。

 呪いの伝書箱。これタイトルな、言っとくけど俺がつけたんじゃねーからな。


 この学校、昇降口に下駄箱が並んでるだろ。そこの一年と二年の境目によ、一つ古い台が置いてあるの知ってるか?

 そうそう、なんも乗ってないあの台。

 あれ、なんであそこにあるんだって気になったことないか? ぶっちゃけ、邪魔だろ?


 あれ、なんかどかせようとすると良くないことが起きるとかでな、どかすにどかせねーらしいんだ。


 ……いやいや待てって、一つ目はその台の話じゃない。この台に、新月の夜にだけ伝書箱が置かれてるってのが本題だ。


 その伝書箱が呪われてるって話でよ、そこには掠れてすげー読みにくい文字でこう書かれてあるんだ。

 「貴方を悩ます人物は居ませんか? 居るならば、その人間の名前と、下記よりどこかお好きな部位を書き込み、この箱に投函ください。お悩みは責任を持って解決致します」

 ってな。そんでその文言の下には、頭、右腕、左腕、胴、右足、左足ってな具合に体の部位が書かれてある。


 そんで、あるとき居残りが長引きまくって下校が結構な時間になった奴がこれを見つけたんだ。

 前から噂にはなってたが、実際に置かれてあるのを見たのは初めてだった。そいつはそれを見た瞬間、「やった!」と思わず声を上げた。


 その伝書箱に、相手の名前と部位を書き込んで投函すると、その相手のその部位に怪我を負わせられるって話だったからな。

 そいつはその時に虐められていた。いや、虐めってほどひどいもんでもなかった。

 クラスの調子の良い奴に、ちょいとからかわれてたって感じだ。


 けどまぁ、当人にしてみりゃ虐め同然だったんだろうな。

 そいつは、いつか虐めっ子に復讐してやろうって密かに考えてた。だからノートの切れ端に相手の名前と、それから右足って書いて伝書箱に放り入れた。

 虐めっ子はサッカー部のエースだったからな。足を怪我すりゃかなりの痛手だ。

 そいつも心の底じゃまだ信じていなかったが、まぁ冗談半分って感じで伝書箱を使ったんだろうな。


 紙を入れただけでなんとなく満足感も得られて、そいつは自分の幼稚っぽさに多少呆れつつも伝書箱に背を向けた。


 そのとき、「確かに承りました」って声が聞こえた。そいつは驚いて振り返ったが、そこには古めかしい台があるだけで誰かが立ってるわけもなかった。

 でも伝書箱はなくなってたんだよ。そいつはビビっちまって、そのまま逃げるように学校をあとにした。


 で、翌日だ。その虐めっ子がどうなってたと思う。

 まぁそうだよな、怪我してるに決まってる。じゃなきゃ七不思議になんてならないもんな。


 なんでも、登校途中に躓いてこけたんだと。あほだよな、それで膝を擦りむいたってわけ。

 伝書箱に紙切れ入れた奴は、その話を聞いてほっとしたようながっかりしたような気持ちだった。

 確かに怪我はしたが、膝を擦りむいただけって。ま、そういう気持ちだったわけだな。


 でもまぁ、大事になってりゃ後味も悪い。大げさなことにならなくて良かったと、そんな風にも思ってた。


 ところがだ、話はここでは終わらねぇ。

 翌日、虐めっ子は右足を引きずって登校してきた。朝練中に肉離れを起こしたって話だった。


 次の日、虐めっ子は足をギブスで固めて現れた。階段から落ちて骨折したらしい。


 さらに次の日、虐めっ子は学校を休んだ。入院したんだ。

 なにがあったと思う?

 車に轢かれて右足をつぶされたのさ。もしかしたら、もしかするかも……なんて話になっていた。


 伝書箱を使った奴はそりゃもう内心気が気じゃなかった。これは自分のせいなのか? いや、どう考えたって自分のせいだ。

 もうやめてくれと言おうかとその日の夜に昇降口に行ってはみたものの、案の定伝書箱なんてありゃしない。

 その日はすごすご帰ったけど、翌朝そいつは後悔することになる。


 虐めっ子の右足は切断されることになったって、学校はそんな噂で持ち切りだったからだ。

 軽々しくあんなことを書いたから。後悔したがもう遅い。


 結局虐めっ子の右足は切断ってことになり、そいつは恐ろしくなってその日から部屋に引きこもった。


 そうこうしてるとある日、部屋のガラス窓をコンコンと叩く音がした。

 時間は夜中。新月の夜だった。外は真っ暗で、そいつは恐ろしくなって窓の音を無視した。


 コンコン、コツンコツン、ゴンゴン、ゴツンゴツン。音は段々でかくなる。

 布団を被って耐えていると、ビシ、と嫌な音がした。ガラスにひびが入る音だ。


 直後、派手な音を立ててガラス窓が砕けた。それから、ごとりとなにかが部屋に放り込まれる音が。


 たまらず布団から頭を出して見てみると、そこには腐りかけの人間の足らしきものが転がっていた。自分のものより多少立派な、そうだな、なにかスポーツでもしてそうな……。


 ま、だれの足かなんて言わなくてもわかるな。

 そいつはその足を見て、泡を吹いて倒れた。


 翌朝そいつの母親が部屋で見たのは、泡食ってぶっ倒れてる自分の息子と、それから血だらけの人の足。


 どう考えても事件性があるってんで警察も来たが、結局この件が解決することはなかった。

 当事者の気が狂って、病院にぶち込まれちまったからな。


 そういうわけで、一つ目の話はこれで終わりだ。

 お前も、軽々しくそういうのは使うなよ。絶対あとになって自分に返ってくんだからよ。

 あぁ、そういや今日は新月だっけな。変なのに捕まらないよう、さっさと終わらせようぜ。

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