七:とても親切な先輩
黒崎
〇:取材
その日は朝から嫌な天気だった。
なんていうベタな言い回しをしたくなるくらい、その日は本当に嫌な天気だった。
空はどす黒い灰色で、今にも雨が降りそうだ。それでいてなかなか振り出さないのだから、本当に嫌な感じだ。
そんな日に、僕は部活の後輩から居残りをするよう頼まれていた。
居残って何をするかっていうと、取材だ。
転校して一か月が経つ頃、先生に「なにかしら部活に入れ」と言われ僕が選んだのは文芸部だった。
この文芸部は結構精力的に活動するタイプの部活で、隔月で校内新聞なんてものを出している。
今回は夏らしく、そこへオカルト関連の記事を出すから取材して来いと後輩は命じられたわけだ。
取材相手は僕の一学年上の先輩らしい。
おまけにオカルト話を豊富に知っているというわりに、その見た目は完全な不良という謎の人物だった。いや別に、オカルト好きが根暗って言いたいわけじゃないんだけど……。
ともかく、そんな相手の取材が嫌、というのももちろんあっただろうけれど、どうやら後輩はオカルト話が大の苦手らしく、僕を身代りにしたというわけだ。
僕自身はオカルト話は別に苦手というわけでもなかった。どっちかっていうと、その取材相手の先輩のほうが怖い。
嫌だなとは思ったものの、高一にしては小柄な後輩に涙目で可愛らしく「代わってください」とお願いされちゃうと、嫌ですとは言えなかったのである。
そんなこんなで、僕は嫌な天気の中、取材相手が現れるのを待っている。すでに待ち合わせ時間から三十分が経っていた。
今にも雨が降りそうな天気が気になる。傘、持って来てないんだよなぁ……。
早く来てくれないかな。
手短に取材を終わらせて、雨が降り出す前にさっさと帰りたい。
僕が今日何度目になるかも分からないため息をついて窓の外へ視線を投げた時、教室のドアがガラガラと音を立てて開いた。
そちらへ視線を向けると、そこには茶髪に細い眉、両耳合わせて三つ空いたピアス穴、ノーネクタイ、シャツ出し、ってな具合にロックな格好をした男が立っていた。
話に聞いていた取材相手に間違いない。実際に見るとなかなか威圧感がある。
でも、案外怖さは感じなかった。たぶん、先輩がすごく砕けた表情をしてたからだと思う。
そんなフランクそうな取材相手が、僕を認めて軽く手を上げた。
「お前が文芸部の奴? 取材させてくれって頼まれたんだけどよ」
それに僕は肯定の返事を返す。同時に立ち上がって、よろしくお願いしますと頭を下げた。
先輩はひとつ頷いて、それから僕の前の席に座り後ろを向く。
「そんじゃ、さっそく始めるか。雨が降り出す前に帰りたいからな」
僕も頷く。とても協力的な人みたいで安心した。
僕がノートパソコンを開くと、その語り部はとつとつと語りだしたのだった。
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