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ガラスの割れる音。頭上から降り注ぐ破片。反射的に立ち上がり、その場を離れた。幸いにもガラスで体を切ってはいない。花火も特に怪我はしていないようだ。そして彼女が一心に見つめる視線を追う。
「見つけた」
不穏な声。あの仮面の女子生徒が窓ガラスに穴を開けて中を覗き込んでいた。穴から手を突っ込み、鍵を外して窓を開ける。狭い倉庫室に春先の冷たい風が吹き込んだ。ひらりと室内に降り立つ。外からの風を受けて仮面に隠れていない黒い長髪がなびいた。
先程久炉が携帯をぶつけた目は少し細めている物の、視力は失っていないようだ。こんな状況だが、少し胸をなで下ろした。
「逃げてもいいよ。どこまでも追いかけるから」
花火の言った通りになりそうだ。隣に立つ彼女と顔を見合わせる。困惑した表情。だが、やるしかないと言いたげだ。
やる? やろうよ? と楽しげな声色で足を踏み出す女子生徒に対し、花火は口を開いた。
「あんたさ……なんで入学式翌日でそんなに好戦的なの? ポイントにしたってそんなに急ぐ必要ないと思うんだけど」
「あるんだよ。せっかくの面白そうな制度なんだから使用するに越したことはないでしょ」
随分と楽しそうに言葉を弾ませる。顔を隠していて表情を見ることはできないが、きっと喜色満面といった表情だろう。
「気が早すぎなんだよ。いちいち戦わなくてもポイント稼ぎはできるんだし、そっちで稼げって」
「嫌だよ。今ならみんながちゃんと魔法使えるわけでもないんだし、稼ぎ時でしょ? そんな時を狙わないなんて馬鹿な真似はできないかな」
やはり話は通じない。仮面の少女はどうにも今のうちにポイントを荒稼ぎしたいようだ。“ポイント制”とやらは本当にとんでもない制度だ。
「二人も倒したらどれくらいのポイントになるのかな? 分からないけど楽しみだね。生徒会長さんじゃない方も待っててくれてありがとうね」
「顔も見せない卑怯な生徒のポイントの肥やしになるつもりはないんだけど」
堂々と花火は言い切った。仮面で顔を隠しているということは防具の意味合いもあるのかもしれないが、顔が見られないようにするためだろう。
戦った相手が自分の行動を他の生徒に告げ口したり、倒した生徒に報復されたりといったことが起きないようにするための防衛策。なんにせよ、やることが小さい。
「戦うなら顔見せてにしようぜ。まさか仮面つけてないと戦えないとかそういう病気じゃないんだろ?」
久炉は自分が伊達マスクで顔を隠しているのを棚に上げて女子生徒を煽る。だが、彼女から帰ってきた言葉は予想外の物だった。
「二人とも魔法使えるの? 使えるなら本気で行く。使えないなら多少は優しく行く」
使えません。そう言いたいところだが、妙なプライドが邪魔をする。本気で魔法を使われるのは困るが、使えないから優しく攻撃してくださいなんて言えるわけがない。
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