3

「使えるけど」


 突然の花火の肯定。仮面の女子生徒と同時に彼女に視線を投げた。そんな話一言も聞いてないんだけど。久炉の疑問をよそに、花火はゆっくりと左手を持ち上げた。


「この変な感覚が魔法なんでしょ。大丈夫、使い方はわかる」


 変な感覚……? 自分の右手に目を落とす。そこには違和感があった。どこか感覚が増えたような気持ちの悪い違和感。

 気が付いたのは朝だが、気のせいで済ませていた。だが、これが魔法だというのならば。この状況を打破できるかもしれない。


「二度と私たちに関わらないなら、今回のことはなかったことにするけど、どうする?」


「その必要はないよ。私が勝つ」



 女子生徒の言葉に、花火は表情を変えた。そして、「わかった」と呟くと、左手首の“腕輪”の白い部分に淡い水色の光を灯した。


 友人の初の魔法発動。彼女の力を見るために目を凝らす。女子生徒も足を止めた。何が起きるのだろう。あの女子生徒と戦えるだけの力なのか? 期待と不安を孕んだ感情。久炉のそんな感情を無視するかの如く、腕輪の光は収束した。


「あれ?」

「あ?」


 花火と久炉の声が重なる。“腕輪”が光っただけで何も起きていない。炎も光線も、何も出現していない。不発。魔法が発動されていない。


「いや、今使える空気だったじゃん! どうすんだよこの状況で」


「そんなこと言われても分からないって! 何で発動しないんだろう」


 呟きながら、続けて三回“腕輪”を光らせる。しかし、魔法は一向に発動しない。


「おっかしなー……発動すると思ったんだけど」


 不思議そうな目で“腕輪”を見つめる彼女の顔に焦りの色が浮かぶ。今この場で魔法が使えなければ、確実に爆風の餌食となる。一度啖呵を切っている以上、相手が逆上して本気の魔法をぶつけてくるかもしれない。死因・爆死。嫌な言葉が脳裏を掠める。



 魔法を使えると言い出した花火も困っているようだ。一か八かだ。やってやる。唾を飲みこむと、右腕を構えた。


「まあアレだ、失敗は誰にでもあるってことでさ、俺の魔法見せてやるっての」


 見栄を張りたい年頃なんだ。ついといったレベルの見栄。マイナスにしかならない久炉の癖だった。


 未だ魔法の発動を試みて、“腕輪”を光らせている花火に声をかけて下がってもらう。不本意そうではあったが、もし自分の魔法が女子生徒のように被害が広範囲に及ぶものだったとしたら、危ない。

 自分が見ている側だったときは気付かなかったが、使う側となると、周りを巻き込むことに不安を覚える。



「いいの? 一人で」


「いいよ」


 初めての魔法戦闘。ぞわりと鳥肌が立つ。自然と呼吸数が増える。大丈夫だ。魔法は使える。何故かその確信はある。右手の妙な感覚。そこに意識を込めれば魔法は発動する。

 気づいた時は違和感がある程度だった。だが、先程の花火の言葉で発動方法が頭に浮かんでいる。


 女子生徒は左手を掲げる。魔法を使う気だ。高鳴る心臓の鼓動。呼吸が苦しい。先手必勝の理。久炉は彼女より先に魔法を発動すべく、右手に意識を込めた。


 魔法を使う。使おうとする意思。


 左手首の“腕輪”が少し熱を帯びるのを感じた。視界の端でとらえた赤色の光。行くぞ! 心中で叫びながら、右手の感覚に込めた意思を強めた。


 右腕に纏われた赤い物。そしてバチッと弾ける音がして、狭い倉庫室が吹き飛んだ。

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