第1章 魔法学園、非日常
1 向き合った世界
息を切らせて廊下を曲がる。階段を一段飛ばしで駆け下りた。そのまま一階まで足を動かす。学生寮に逃げ込めばどうにかなるかもしれない。校内図を思い返し、玄関へと足を運ぶ。
「
自分を呼ぶ声。久炉は立ち止まって辺りに視線を巡らせる。目立たないところにある扉から顔を出し、手招きする人物。
「……
寮のルームメイト、
「さん付けしなくていいって! ……それよりこっち。急いで」
言葉に従い、扉を潜る。中は整頓の行き届いた倉庫となっていた。掃除用具など、校舎を整備するための道具が整頓されて並べられている。
久炉はそのまま奥に進み、窓の下の壁に背を預けて腰を下した。花火は素早く廊下を確認すると、静かに扉を閉める。そして、二人同時にため息をついた。
「何なのあの人……」
花火の呟き。そんなの俺も聞きたいっての。そう口にしたかったのだが、走って乱れた呼吸は簡単には元に戻らず、言葉を吐くことができない。マスクの内部の二酸化炭素が増え、余計に脳内がふらつく。
「はあ……でも万が一のこと考えて隠れる場所見つけといてよかった……」
よいしょ、と花火は久炉の隣に腰を下す。彼女がここを見つけてくれたようだ。爆発音も、足音も聞こえない。あの少女は別の場所を探しているのだろう。携帯電話が目に直撃して諦めてくれたのならばそれに尽きないが。
「あー、うん……マジ助かったわ」
「さすがに二人とも逃げ切れるとは思えなかったからね……先に帰れって言われて放っておくわけにもいかないし」
久炉が生徒会の用事で職員室に呼び出されたその帰りのこと。突然仮面をつけた少女に声をかけられた。顔は判別できないが、確実にこの学園の生徒だ。山奥にある全寮制のこの学園に、生徒以外の少女が存在することはできない。
何用かと顔を向けた二人の前で、女子生徒は爆発を起こして見せた。そして、“魔法”での戦いを迫り、久炉は付き添いで共に行動していた花火を先に寮に帰すと、平和的解決を試みて口を開いた。しかし、彼女はそれに耳を貸さず、再度爆発を起こして戦闘を迫った。
手に負えない。そう感じ取った久炉は隙を見て逃亡を図ったが、易々と逃がしてくれる相手ではなく、校内で追い回されることになってしまった。
「マジあざっした、花火さん。多分あのままだったら疲れて追いつかれてふっとばされてたわ……」
「だからさん付けはやめてってば」
花火は穏やかな笑みを見せると、少し険しい表情になった。
「とにかくどうやって切り抜けるか――だね。もし寮に逃げ込んでも、あの子が戦いをやめようと思わなければいつまでも追い回されるよ」
「だったら……戦うしかないんじゃねえの? 魔法で」
とは言ったものの、魔法の使い方等知らない。ここは魔法学園で、生徒は魔法を扱えるようにならなければならない。そして、魔法のうち、使用者ごとに異なるものは自動的に使えるようになる。
入学式後の説明会で聞いた通りならば自分達にも魔法が使えるようになっているはずだ。
だが、肝心の使い方が分からない。
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