第20話番外篇:汽笛の奏

朝の駅の独特な雰囲気かおり

鼻をくすぐる。


車谷に弁当を買いに行かせたので

この俺、井草永輔は

どう見ても中学生くらいの女の子にしかみえない同級生、金長皐月と二人っきりなのだ。

同級生…カミングアウトすると

小中高と一緒に通った

幼馴染みなのだが、

その幼馴染みと二人っきりでいるのにトキメキの一つも起こらないこの

現状に自分も歳をとったのだなと

染み染みと感じる。

まぁ、俺たち二人が並んでも

親子にしか見えないだろうが…


なんて、一人耽っていると

不意に彼女が脇を突いてくる。

暇らしい。

『小学生かよ…』

面倒くさがりながら

彼女にぼやく。

彼女はムキになったのか

横付きを連発してきた。

……そういえば

『そういえば…』

俺が不意に口を開くと

彼女は不思議そうに首を傾げる。

『お前、なんで急に帰ろうとか言ったんだ?自分達の役目は果たした。そう云っていたが、どう云う意味なんだ…?』

そう、彼女が昨日語ったこと。


『役目は、果たしたよ。』


あの状況では彼女の意図が理解できなかった。理解できないからこそ

彼女の思考に期待していたのかもしれない。


彼女は少し考えるような仕草をして

『物語の主人公を…私の一番納得のいく結末ラストに紡いだだけだよ。つまりそういうことさ。』

彼女がふふふと笑う。

『お前は…本当にわからない奴だ。12年前の時も、お前は…』


刑事が口を噤む。

『物語に語り部がいるように実は人生って云う物語は語り部って云う第三者にうまい具合に操られるのかもね。私や君の物語も運命せかいって云う第三者の手によって…もしさ…もし私が…』

彼女が続けようとした。

『おっまたせしましたぁぁぁ!』

車谷が弁当を持って走ってきた。

『知ってるよ。』

刑事は少し笑っている。

『”もし私がかみさまだって云っても信じる…?”だろ?信じるさ。あの日あの時からお前の云うこ…ごふ⁉︎』

案の定、車谷が勢い余って

弁当をぶつけた。

井草刑事に。


『……。』

憤慨手前の井草

『あわわわ!すみませぇん!!!』

車谷が弁当を井草から

払いのけている。


そう…これが見たかったんだ。

みんなで馬鹿みたいにふざけて

笑って嫌なこと忘れて…


この時少女の瞳から唐突に

流れた涙を、

彼女が初めて流した涙を

刑事達は知る由もなかった。

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