第15話褪せたストロボ写真

僕は何を…

えっと…そうだ。あの後

あの事故で電車が止まって…

かなり高くなったけど

仕方なく新幹線で…えっといま

福山…福…福山⁉︎


慌てて車内から抜け出す。

綺麗な白壁の城がカゲロウで揺れている。

思ったより都会だな…

そう軽くぼやきながら駅を出る。

バス停でバスを待つ

この時間帯なら…あと20分か…

時刻表を見てベンチに座る。

途中ジュースを買ったりして過ごしてバスに乗る。

バスに乗ってこの街をみると

あぁなるほど平穏な街だとわかった。形は整っている都会だと感じたのだが路地を見るとどこか懐かしい駄菓子屋を発見したり…


20分くらい経っただろうか?

海が見えて来た。


バスを降り、少し歩く。

何故だろうか、どこか懐かしい

潮の香り。

鞆の海原は穏やかな波を立て

僕を歓迎してるような気がした。


坂を登って行くと、小さなカーブミラーがあった。


『安国寺…』


カーブミラーに近づくにつれて

どうしてなのか、見覚えのあるのだ

この眺め、そして…


『安国寺…』


あれ…なんで俺、ここが安国寺だってわかったんだ…?

先から看板なんかなかったし

ここが安国寺だなんて知る由も無い


まただ、このデジャブと呼ぶべき現象。

普段は何も感じないのだが

たまに、歩道橋を見たり、繁華街の看板を見るたびに…思い出したように何かを察知する。

何を思い出したのかすらわからない。わからないのだが

何かを察知するのだ。


『とりあえず、宿を探さなきゃな』

ふと時計を見ると午後4時過ぎだ。

早く宿を見つけないと。

とりあえず、観光地としては

マイナーだが宿は意外と多く

その中でも一番リーズナブルな

旅館に泊めてもらった。


『あら〜若いのに1人旅〜〜?』

おばさんは明るく歓迎してくれた。

少しショックな事故の後だったので

このテンションは多少の救いになった。


旅館といっても民家にホームステイする感覚で気軽だった

先に風呂の用意をしてもらい

上がると食事の支度を終えた所だった。豪華絢爛な料理が机に所狭しと並んでいる。『うわ!凄いですね…!』呆然と眺めていると

いやね〜最近は主人の帰りが遅いからずっと1人での夕食だったから…久々の客人で奮発しちゃった!』

どこかお茶目な言動は祖母、キヨさんを連想させた。

食事をしながら色々な事を教えて貰った。ここ鞆の浦にかつて幕府があった時期があったとか、マイナーだが、海の綺麗さならそこらの海には負ける気がしない等々。自慢そうに語るその口調に少し懐かしい何かを感じた。


食事をしている居間は襖でもう一つの部屋と分別されており少し空いた隙間から隣の部屋に仏壇が見えた。


あまり触れない方がいいとも思い

その話は避けていたが不意に襖の奥から物凄い形相で睨む男が見えた。

僕は彼を見た途端、口に含んだ米を吹き出しそうになった。

というより吹いた。

僕が慄くのを見てにやけ顏の

男が入ってきた。

『がっはっはっ!ようこそ!1人旅か!?若いな!』

厳つい声と言動に驚いていると

『ちょっと!アンタお客さんだよ!』


2人が戯言を戯れている間

僕はどうしても仏壇が気になっていた。立派とは言えないが普通の仏壇に少し褪せた写真、少女が写っていた。

『えっと…娘さんですか…?』

二人の会話を裂くように僕は尋ねた。

『えっ…?なんのこと…?』

おばさんはまるで知らないように

キョトンとして仏壇を眺めてぼーっとしていた。同じくおじさんもだ。


えっ…違う…?でも…

そもそもこの二人…仏壇を初めて見たような反応だ…


おばさんが何かをぼそりと呟いたが

聞き取れなかった。

何故なら…


『っっ痛っ!!』

突然の頭痛。

頭が割れるようだ。

あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!

気が狂うほどに頭を誰かに

殴られ続けているようだった。












気が付いたら布団の上に転がっていた。


…ん??なんで…布団…?

てか?…あれ?なんで…

てかここどこ…?


あっそうか…ここは鞆で…

旅館で…確か俺は仏壇を見て…


とりあえず思考の整理をしながら

服を着替え、一階へ降りた。


『おはよう!岩間くんだっけ?』

明るいおばさんの声だ。

『おはようございます。えっと…僕は…』

おばさんは苦笑いをし

『あー…覚えてないよねー…君、あれ見た途端に頭痛で倒れたのよ?』

彼女指差す先には、仏壇があった。

何故か写っている少女に見覚えがあるような…


『昔ね、行方不明になって帰ってこないの…死体も見つかって無ければ遺骨も無い…私達も生きてると信じ続けているけど…』


朝霞…泉美…そう読み取れた。


そしておばさんと他愛の無い会話を

しながら朝食をとり

礼を述べて宿を去った。



顔は笑っていたが

頭の中が真っ白になっていた。

おばさんとの会話。

それは僕の記憶を

掻き回すものだった。


『はぁ…』

吐息を漏らす。頭がパンクしそうだ。


『おやや?そこの若い人』

老人みたいな口調だが女声だ。

『だれ?あんた?』

振り返ると口髭と瓶底メガネのいかにも怪しい変装をした女性。正確には少女だ。

『おいおい!キミ君〜!

年上は敬いたまえ〜!』

変装をとき少女はにやけた。

『おいおい…年上って…お前何歳だよ?』

ドヤりながら免許証を見せる。

『2…8歳‼︎⁇』

驚きを隠せない僕に彼女は

微笑みながら告げた。


『んじゃ!逃げるよ!』

そして彼女は僕の手を掴み

走りだした。何から逃げているのか

そんなもの知る由もないが

不思議と彼女についていくことに

抵抗はなかった。







ーちっ!あいつ…逃げたな…

車谷…そっちはどうだ…?


ーいませんよ!本当に自由奔放な方というか…あっ!でも本人かどうかはわかりませんが中学生くらいの女の子が男の子の手を引っ張って物凄い速度で走ってったって…


ーそれだ…!……?男の子?

誰だ…?


ーわかりませんよ!


ーおいおい…これって誘拐じゃ…



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る