第13話八月の卒塔婆

炎天下のプラットホーム。

さっき買ったラムネを飲み干す

昨日は少し涼しかったのになって

線路を眺める。

少し先にある目的地へ向けて。

陽炎は青い空と線路をただ歪ませる

あぁ僕はあの日の夏を繰り返す。





何処にでもありそうなプラットホームの景色。

少し先が陽炎で揺らいでいる。

体操服の学生も少し遅めの出勤中のサラリーマン呑気にアイスを食べているおばあさん。

間違いない…今僕は過去の光景を目の当たりにしている…

まるで、タイムスリップしたかのように…


冬服の青年はいない。


呆気に取られていると…他の人にぶつかった。

『何突っ立ってんだよ?』

と言う目つきで睨まれ、

ベンチへ急ぐ。


僕は夢でも見ているのか…


よく考えてみると、先程から起きたこと全て、夢のような事だった。

神様と駅のホームで話しをして、

僕が何かに殺される理由を

なんの不思議もなく告げられ、

本当に、夢のようだった。

そして至る、今。

そう考えると、ますます

今までの事が夢だったように

思えてきた。

『また…デジャブってやつだな…』

少しにやける。

だが、ただの夢にしては

やけに嫌な感じがする。

おばあさんが電車に轢かれそうに

そして俺は彼女を助けようと…

まぁ、夢だけど一応…

とばかりに、その老女の元へ

何気なく近づく。

万一の事があってはいけないから…

あってはな…

がそんな軽率な考えは

予想外の事態で掻き消された。

なんと、その老女が突然倒れたのだ。

苦しそうに胸を抑える。

あまりに唐突の事と予想外の事で

呆気に取られていたが、周りの騒めきに乗じ、二歩。後ろへ下がった。


口を金魚の様にパクパクさせて、

泡を吐き、彼女は蝋人形の様に

カチカチに動かなくなってしまった。


あっあぁ…


数秒の動揺の後、一斉の悲鳴。

全員がホームから離れる。


すると、一人の男性が飛び込んできた。


『ちょっと失礼!』

少し気怠そうな顔つきからは

感じ取れない凄い速度で彼女の元へ駆け寄る。


彼が脈を図り。別の男性に何かを告げ、その後僕に尋ねてきた。


『この女性は突然倒れたのかい?』

僕は少し同じながら首を縦に振る

『ありがとう』

そう答えると、

彼は僕の前から消えた。




昔、好きだったカフカは

こう言った。

”ぼくは本当は他の人たちと同じように泳げる。 ただ、他の人たちよりも過去の記憶が鮮明で、 かつて泳げなかったという事実が、どうしても忘れられない。 そのため、 今は泳げるという事実すら、ぼくにとってはなんの足しにもならず、 ぼくはどうしても泳ぐことができないのだ。”と




”ほらな?運命は変えられないんだよ”

小馬鹿にしたように

誰かの声が聞こえた気がした。

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