第10話残響よ冬の空に

春の空は霞んでて


夏の空はこうと蒼い


秋の空は夕凪に染まり


冬の空はやけに澄んでて


炎天下のプラットホーム。

さっき買ったラムネを飲み干す

昨日は少し涼しかったのになって

線路を眺める。

少し先にある目的地へ向けて。

陽炎は青い空と線路をただ歪ませる

あぁ僕は夏を生きている。


ー間も無く13番乗り場に列車が参ります。危ないので黄色線の内側にお入り下さい。間も無く13番乗り場に列車が参ります。ー


車掌の独特な声が響く。

今僕は、広島にいる。


三重の祖父母の家から出て

2日、死の危険は五十分にある。

がどうしても行かずにはいれなかった。

祖父母を説得するのは、大変だった

彼らには、『夏休みの自由研究で、鞆の町の景観について調べたいという言い訳を吐いた』


博茂さんは快諾してくれたが、

キヨさんは、そうはいかなかった。

何度も頼み倒したが

その度に顔を青くし、『やんちゃもいいけど…もし万一…何かあったら…あの子に顔見せできないもの…』とばかりだ。


だが、引き下がる訳にはいかなかった。

諦めず、コールを続けていると、

流石に面倒になったのか、

渋々承諾してくれたのだ。


そして昨日三重から大阪、

大阪から広島へ新幹線を使い

移動した。そして手頃なカプセルホテルを借りて夜を越え、今に至る。

予算は博茂さんが

『かわいい子には旅を〜』

と奮発してくれたのだ。


『ありがたいな。本当に』

あの人達を忘れる訳にはいかない。

あの人達を忘れず、俺の正体を突き止る。必ず。

確かに”ナニカ”に殺される恐れは

ある。が、進まずにはいられない。

それに、先日ふと気付いた。

俺が家の外へ出なければ殺されない

そして、新幹線、バス、電車etc…

公共機関を使えば殺されない。


そう、ナニカは俺を殺す際、

他の人間を巻き込まない。

恐らく、これは絶対だ。

何故だかわからないが好都合だ。

俺のせいで誰かが死んだらたまったもんじゃない。

それともう一つ、ナニカは俺を

必ず事故死で殺す。

これも確かではない。が、

それが可能なら既に

俺はここにいないだろうに。

電車はまだ見えてこない。

こうして周りを見てみると

夏休みだからだろうか平日の昼なのにいろんな人がいる

体操服姿の学生、これから部活だろうか?

サラリーマン、出勤にしては

少し遅くないか?まぁいいけど

おばぁさん、散歩とかそんなのかな?アイスを食べるよ

そうして周りを見回すと、一人異様な人物がいた。

学生だ、少し高めの身長に中性的な顔立ち。メガネを掛けている

いや、そこじゃない。

俺が気になったのはそんな所ではない。

冬服なんだ。

こんな炎天下のプラットホームで冬服なのだ。


勘弁してくれよ…見ててこっちまで暑くなる。


どんな変態だよ…っと呟こうとした瞬間だった。




ドシャ…鈍い音がホームに響く


えっ…?

自分の目の前で起きたことを理解するのに2秒を要した。


先程、アイスを齧っていたおばぁさんが倒れたのだ。

そして、線路へ転がり落ちた。

『きゃー!』女学生の声が響く。

サラリーマンが慄く。学生が騒めく。

『やばい…なんとかしないと…!』

駅のアナウンスが流れ出した

向こうを見ると電車が見え始めた。

思わず飛び出そうとする。

すると…


ガッッ!

手を掴まれた。

振り解こうとするが中々強い

振り返るとあの冬服の学生だ。

『放せよっ!』

振り解こうと強く降る…が全く解けない。

彼は無表情でこう告げる。

『諦めろ。彼女の線はここで途切れている。』まるでこうなる事が分かっていたような口ぶりだ。

『何だよ!それ!!』

ムキになった俺は彼に拳をぶつけようとした。がサラッとかわされた。

だがお陰で手が解けた。

その瞬間、その瞬間になって

迷いが現れた。

”彼女を助けて俺にとって何になる?

今自分の事しか出来ない俺に

人助けなんて太々しい。

それに俺は今死ぬ訳にはいかない

こんなところで死ぬ訳には…

…けどこの人はここで死んだら終わりなんだよな…

俺のように帰りを待っている人がいるんだよな…

そうおもっただけで足は止まらなかった

線路に飛び出し彼女抱える

もう十秒とせず電車は来るだろう

せめて彼女だけ…!

そう考え精一杯の力で反対車線へ彼女を投げる。


前を向きなおすと目の前を光が

包んだ。


『あぁ…クソ…』






気がつくと駅にいた。


はぁ、またか…

結局あの人達の元へ帰れなかった。


『振り出しか…』

プラットホームを見渡す。

酷く古く寝転んでいたベンチにも

苔が生えており、自販機も黄ばんでいたり、染料が剥がれている。


『どこだよ…ここ』


てか…寒…!


朝方…雲と朝日に映えて、空が

壮麗に輝いている。


冬の空だ。


呆然と立ち尽くし、線路を眺める。

すると…ひとり、立っている人物がいた。


『目が覚めたか?』


俺に気付くと、彼は近づいてきた。

見覚えのあるその人物は

メガネを白い息で曇らせている。

その青年はこう告げた。


『ようこそ。残響の世界へ』

後書き

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