第9話笛を吹く男と神隠し

私はこの街が好き。

少し、遅れてるって気もするけど、うちの二階から見える海や、 獲れたての魚で賑わう市場の街並みが好き。


『泉美〜!祐くん来てるわよー!』


あ…そう言えばあの子と

約束してたんだった。

私はすぐさま玄関に向かいあの子と遊びに出て行った。




お母さんも心配してるんだろうな。

こんな小さい子としか遊ばず、歳の近い友達もいない。

でもいいんの。だって…

田んぼの畦道を歩いていると、

急に頭に鈍い痛みがはしる。

痛い…

痛みの原因は足元に落ちた石である。

誰かが石を投げつけてきたのだ。

後ろを振り向くと、そこには同級生の男子が2人。こちらを見て嘲ている。

すると、男子は口々に言いだした。

『やーい!****!気味が悪いんじゃ!

どっか行け!』

『そうじゃ!そうじゃ!』


これだよ…。

私が歳の近い子と上手く

馴染めない理由は。

男子は愚か、女子にまで疎外されている。

学校にも友達などいない。

みんな私のことが気味悪いのだ。


けど祐くんは違う。

この子は私がどんな人間であろうと私を

頼ってくれる。


無論、それが子供だから。

わからないからだということはわかってる。

明日には私の事を嫌いになってる

かもしれない。


それでもいい。

今日、私を好きでいてくれればそれでいい。

『お姉ちゃん!昨日ねー…』

彼の話しは他愛のないものかもしれないが、私にとっては掛け替えのないものの一つなのだ。


段々畑を登ると山への入り口。

『今日は山を冒険する約束だよね!』

私が頷く。

彼は元気に先陣を切る。

私もあんだけ元気ならなぁ…

と思いつつ、彼の後ろをついて行く。


山道を登っていくと、

見たこともない建物に出くわした。

廃墟だろうか?

山と山の境目の杜の中に

ポツリと佇む廃墟。

昔の学校のようなその建物。

近くに住んでいる私達も知らなかった。


『おねーちゃん!こーゆーの”オバケ屋敷”

って言うんでしょ?』


…ちょっと違うかもしれないけど

あながち間違いじゃないし…


ふと建物を見ると、1人の男が立っていた。

歳は四〜五十代

痩せ型で緑の帽子をかぶっており

手には見たことのない笛を持っていた。

顔は痩せ細っており

生気を微塵も感じ取れなかった。


男がにやけて近づいてくる。



私も彼も同様しており動くことができない。


すると男は手に持った笛を鳴らしだした。


その音はどこか子供の笑い声にも、鼠の鳴き声にも似たような不気味な音だった。


嫌な音…

そう思った矢先。

祐少年が男の元へ歩き出したのだ。


私は精一杯彼を引っ張るが

小学生とは思えない力で突き飛ばされた。

あの笛に誘われているのか…?




…祐くんを守らなきゃ…


無我夢中だった。

私は足元に転がっていた、鋭利な石を手に取り男に向かって走りだした。


男は同様する様子もなく。

にやけながらこう告げた。

『まぁ君みたいな子でもいっかぁ〜!』


この男一体何を…?

と思った途端。視界が真っ暗になった。

いや、正確には私の周囲が真っ暗になった。


ぇ…ここは…?


誰もいない。祐くんも、あの男も。


周りをただ暗く冷たい空間が占めていた。


暗い。怖い。ただ怖い。












ここはどこ…?

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