第2話自分の死すら忘れた僕には 明日を求める資格もなくて


降り出した雪は数分前まで夏を生きていた僕の肌には白すぎて。





201※/12/2※

pm7:45

”網谷 祐”ーーアミヤ…ユウ…?

先刻から頭の中を行ったり来たりしている名前。

誰だっけ…?同級生…ではないし…

粉雪が降る中、家へ真っ直ぐ向かう。

あれ…?俺んちって…確かこっち…

待て…なんで俺は自分の家も

わからないんだ…?

『あっ!お兄ちゃん!』

元気で優しげな声に振り返る

『優香…?』

…優香…?確かそんな名前…だった


『どうしたの?お兄ちゃん

妹の名前を疑問形で呼んだりして…』

『あっ…いや…なんでもないんだ…』






妹と一緒に帰宅。

俺は何不自由なく自分の部屋へ入り机の上を見た。教材の置き方が気に入らないな…なんだか自分の部屋じゃない感覚だ…

一通り整理をしてベットにたおれこんだ。

あの夢…?あの前の記憶がどうしてもあやふやだ…

『栞ー!ご飯はー?』母の声。

応答し下に降りる。

妹が俺がおかしいとでも言ったのだろう。

『あんた…疲れてるなら少し休んだら…?』

心配してくれてるのか…

『いや…大丈夫。ご馳走さま。』

夕食を済ませ部屋に籠る。

考えすぎだ…早く寝よう。






am7:00

目覚ましの音で目を覚ます。

いつもと変わらない窓の外。

潮の香りと…潮…?

清々しい朝に変わりはなかったが

そこに潮の香りや船はなく。

あるのは朝露に濡れたツタの葉と

車の足音だ。

潮の香りがなんだ…

どうした⁉︎俺よ!

そんなロマンチックな朝を求めるような男だったか…⁉︎

『遅刻するよー!!』母が怒鳴る。

優香と家を出る。


『今日もいい天気だねー!』

冬なのに暑苦しいほど明るい妹。

『そーだな…』ちょっと無愛想だったか

『お兄ちゃんテストどう…?』

『テスト…?ぇ…あ⁉︎』

テスト…思い出した……

昨日はテスト期間真っ只中…

そして今日はテスト…

やばいやばいやばいやばいやばい…

顔から汗を垂らす僕に妹は察し慰めるように…

『だっ…大丈夫だよ!お兄ちゃんまだ高2じゃん!』高2の期末だぞ⁉︎僕は噛み締めた。いや、妹は僕を慰めてくれているんだ。

『ありがと…』

そう答えて学校へ一人走りだした。

とにかく学校で1㎜でも多く詰め込まなきゃ…

学校へ猛ダッシュ…

デジャブしか感じないこの感覚…

あれ…?なんでだ…?

俺…前にこんな感じの…

僕は小さな交差点に差し掛かる。

小さく古びたそこには信号機がなかった。

多分…車通りが少ないのだろう。


『9時間…いや10時間ってとこかな?』


僕はただ、テストとこの不可解な

デジャブ感と頭の中で格闘していて

妹の叫び声や自分の数メートル先上空で金属金具が外れる音など聞こえる筈などなかった。




僕を殺したのは、古びたスナックの看板。

”スナック囲炉裡”と書かれた看板は

僕の頭をかち割った。


即死だった模様。

妹は目の前の出来事が理解できず

ただ泣き叫んでいた。


事故だった。ただ、運が悪かった。







『はっはっはー、最短記録だよ((笑』

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