第47話 私は恋するMtF

 二人はシェムリアップ川のベンチで最後のひと時を過ごした。


 私は、うっちーさんが経営するJ.Khmer groupで採用が決まったため、今後は働きながら孤児院の支援に当たる予定だ。

つまり、できたてホヤホヤのカップルは付き合って早々、タイとカンボジアの遠距離恋愛になってしまうのである。


だが、これは「今はそれぞれが置かれた環境でベストを尽くそう」と話し合った末の結論なのだ。


カズさんも「バンコクでやってみたいことがある」と張り切っている。


ナオキくんとの旅の土産話。

シェムリアップで始まる新生活。

二人の将来の夢。


積もる話は尽きないが飛行機の出発は刻々と迫っている。


 私たちは、うっちーさんの会社に出向いてお礼を伝えた。


「これからアヤカの、あ、いえ、えとシンイチを・・・、よろしくお願いします」


「アヤカさんでいいよ。それよりもさ、こんな美人だと心配でバンコクに帰れなくなっちゃうよなー。まぁ、僕が一番の危険人物なんだけどね。ガッハッハハハ」


     ※     ※


 挨拶を終えた二人は、空港のロビーで別れを惜しんだ。


「近いうちに会いに来るよ・・・」


そう言ったきり、カズさんは黙りこくった。


「しっかりしろよ!男だろ!!!」


ロビーに木霊するシンイチの一喝。


(ゴメンネ。気が緩めば泣き出してしまいそう・・・)


『俺はシンイチの部分も含めてアヤカさんを愛している。たまには顔を出したって良いんだよ・・・』


これは、カズさんが昨夜のベッドで囁いたセリフだ。


一生忘れはしないだろう。


そして、宗教、性別、国境を超えて。


生きとし生けるものに愛を注げたらいいな。


私の属性は別次元へと進化したのだ。


「恋するMale to Free」へと・・・。

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