第35話 ウルルン滞在記
スタートから予期せぬトラブルに見舞われたトンレサップ湖ツアーだが、まだまだ話のネタは尽きない。
私たちは、お世話になる水上家屋を前に言葉を失っていた。その建物は吹けば飛ぶような「掘っ立て小屋」だったからだ。
出迎えてくれたご夫婦ならびに娘の二人も、ごく簡単な英単語を理解するのが精一杯である。
「受け入れ先のご家族は英語が堪能」との事前説明は何だったのであろう・・・。
(どうすんだこれ?)
頭を過る様々な疑問符。半ばやけっぱちでコミニュケーションを図っているうちに、自分の気持が吹っ切れるのが分かった。
「こうなったらウルルン滞在記ね。親睦を深めるためには、お酒を酌み交わすのが一番でしょ!」
そう思いついた私が一同のグラスにジョニーウォーカーを注ぐと、気を利かせた奥さんが自家製のプラホックを持ってきた。ペースト状のそれは、クセは強いが呑兵衛にはたまらないツマミだった。※プラホック=発酵させた魚の塩辛。
その後、すっかり出来上がったご主人が年季の入ったギターで弾き語りを始めると、民家全体にグルーヴがうまれてきた。
素敵な音色は「言葉の壁」など、いとも容易く飛び越えたのだ。
大学生の二人も、年頃の娘たちとデタラメ英会話で冗談を言い合っている。
こんな最高の時間にマリファナがないなんて・・・。
それだけが悔やまれるのであった。
※ ※
夕食には素揚げの小魚と野菜炒めが振る舞われた。料理で使う青物類も湖上の菜園で育てるそうだ。興味を持った私が「見学させてほしい」と申し出ると、明朝の収穫に奥さんが連れて行ってくれることになった。
一時はどうなるかと思ったホームステイだが、受容れてしまえばこれほど愉快な空間はない。
ただ一つ、垂れ流しのトイレを除けば・・・。
滞在中は、ベニヤ板で仕切られただけのスペースで用を足さなければならない。両足で跨いだ穴の下は、食器洗いや水浴びにも利用する湖だ。
「あんたたち!覗いたらブッ飛ばすから!!」
「はっ、はい~!!」
昼間、私のB面にどやしつけられた二人が直立不動の姿勢をとった。
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