第27話 ロイクラトンの夜

 ロイクラトン。それはタイのお祭りの中で、4月に行われるソンクラン(水掛け祭り)と双璧をなす有名な催しの一つである。

行事の光景は日本の「灯籠流し」によく似ているが、本来の目的は農業の収穫に感謝し、水の女神に祈りを捧げることにあるそうだ。

ところが近年、バンコクではこの祭りが恋人同士の一大イベントになっている。そのため、ロイクラトンはカップルにとってバレンタインデーの次に大切な日とされており、浮気症のタイ人も今宵ばかりは本命の相手と幻想的でロマンチックな一時ひとときを過ごすのである。


 待ち合わせの夜。カズさんは普段あまり見せないシックな服装でキメた私を、ロイクラトンの会場までエスコートしてくれた。

 

不器用ながらも誠実さが伝わる振る舞いに胸のときめきは隠せない。


     ※     ※


 ロイクラトンのイベントが体験できるアジアティークザ・リバーフロントは、ムーガタ屋を通り過ぎた川沿いにある。

敷地内には観光客向けのアジア雑貨や若者に人気のファッションブランド店に加えて、大小様々なカフェやレストランが所狭しと並んでいる。


 ロイクラトンの混雑は凄まじいと聞いていたため、ある程度の覚悟はしてきたつもりだが、延々と連なる長蛇の列にはあっけにとられた。


二人はタイ人に習ってクラトン(灯籠)買うと、人にぶつからないよう慎重に川辺へと進んだ。


     ※     ※


 は予告もなく訪れた。


少し前を歩くカズさんがサッと私の手を引いたのである。


「!!!!」


夏の記憶がフラッシュバックする。


電撃のドライオーガズムが身体を駆け巡る。


私にとって「手を繋ぐ」という行為は、SEXだったからだ。


(この人は、本当に私のことを大切に思ってくれている・・・)


今まで、手さえ触れてこなかった事実がカズさんの真摯な気持を物語っていた。

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