第21話 ラン島トリップ

 同期メンバーでの飲み会から3ヶ月ほどが経ったある日。カズさん、ナオキくんコンビと私はパタヤ近くのラン島まで遊びに来た。


 パタヤといえばバンコクを凌ぐ規模の歓楽街「ウォーキングストリート」が有名だが、ここから船で30分ほどの距離に位置するラン島は、日帰りでアイランドトリップが楽しめるオススメスポットだ。

ゆっくと時間がとれる旅行者は、もう少し先のサメット島やチャーン島まで足を伸ばす人が多いのだが、バンコク在住者の間では手軽なラン島が超定番の遊び場になっている。


また、世界一美しいニューハーフを決める「ミスインターナショナルクイーン」が開催されるパタヤは、トランスジェンダー(MtF)にとって聖地的な意味を持つ。タレントのはるな愛さんが優勝を飾った年には、日本でも一躍脚光を浴びたのでご存知の方も多いはずだ。


ついでながら、胸にメスを入れない主義の私は、豊満なバストが審査に含まれるミスインターナショナルクイーンは応援する側である。

無理やりパッドで盛ればBカップくらいはできるが、あいにく今回の旅でもビキニを披露する機会は無さそうだ。

一般人からすると、オカマの主義主張などどうでもいい話だが、一口にトランスジェンダーと言っても、その性質はバラエティに富んでいる。


 バリハイ桟橋を離れたボートは、晴天が映る波間をのんびり進んだ。

隣に座る二人がシンハービールの小瓶をラッパ飲みしている。


「トムさんとマツジュンも一緒に来れたらよかったのに」


カズさんは、この日のラン島旅行に他のメンバーも誘ったようだが、トムさんはシフトの都合が合わず、マツジュンは先約があるとのだったと言う。


「そういえば、最近マツジュン付き合い悪く無いっすか?アヤカさん、なんか知ってます?」


心配そうに尋ねてきたのはナオキくんだ。


「う~ん・・・。分かんないなぁ。彼女は皆のアイドルだから忙しいんじゃない?」


「それなら良いっすけど。でもあいつ、なんか変なんすよね・・・。まぁトムさんはビーチよりも夜のウォーキングストリートがお似合いなんで、一人でどうぞって感じっす。アッハハハハ」


 現時点でマツジュンのに気付いていたのはおそらく彼だけであろう。

驚くべき洞察力だが、その違和感の正体が明らかになるのはまだ先だ。


     ※     ※


 海風に吹かれながら語り合っているうちに、ボートはセームビーチの沖に到着した。乗客たちは、ここで小型船に乗り換えて、最終的には膝まで海水に浸かりながら徒歩で砂浜に上陸するのである。


「アヤカさん、荷物ちょうだい!」


濡さないよう悪戦苦闘する私のバッグをカズさんが受け取ってくれた。


ふとした瞬間にみせる彼の優しさに心臓が脈を打つ。


「重っ!なに入ってるんですかー!」


「レディは色々と持ち物が多いの!!」


くわえタバコで先を行くナオキくんが、そんな二人をニンマリ顔で振り返った。

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