第16話 ドンファン登場!

 ゴーゴーバー密集地帯の「ソイ・カウボーイ」はアソーク駅近く、日系企業も多く入るオフィスビル街の裏手に存在する。※ソイとはタイ語で小道の意味。

全長約150Mほどの賑やかなストリートに4.50軒のバーが林立し、バンコク3大歓楽街(残りの2つはパッポンと渡航初日に迷い込んだナナプラザ)の一つとして名を馳せている。


 酔っぱらい御一行がソイ・カウボーイの前でタクシーを降りると、勇んで先頭を歩くトムさんは通りの奥へと進んでいった。


「トムさんってホント、スケベだよね~。つい最近もアパートのエレベーターで風俗嬢っぽいお姉さんと一緒にいるところにばったり遭遇しちゃってさー。気まずいったらありゃしない」

トムさんの背中を睨みながらマツジュンが言った。


「よくやるなぁ〜。あそこって社員寮みたいなもんじゃないすか?ガンガン目撃されてますからね」

それを聞いたナオキくんも苦りきった顔だ。


女子目線から見る「買春、中年、デブ」の三連コンボは強烈だ。こういうオヤジを心底軽蔑し、生理的に受け付けないのも良く分かる。

だが、当のトムさんに女遊びを隠す気はさらさらなく、同僚の目などノーダメージだ。


もはや一般女性との恋愛を諦めた彼にとって、異性とはのみを指す。

滑稽だが、今の日本にはこんな「開き直り系」の男が掃いて捨てるほどいるのである。無理やり擁護すれば、アニメのキャラクターに恋するオタクよりは、リアルな女性が好きなだけいくらかマシといったところか。


 そんなトムさんが、とある店の正面で足を止めた。


「ここが日本人に大人気のバ●ラってお店。ちょっと待ってて。席あるか聞いてみる」


ムーガタ屋で見せた醜態とは別人のごとく、客引きのギャルたちと冗談を交わす姿はそれこそ水を得た魚だ。クレームに怯え、萎縮するダメオヤジはもうそこには居なかった。チップの100バーツをビキニの谷間へねじ込んだ後の面構えが自身に満ち満ちている。


「まるでっすねぇ・・・。不覚にも俺、一瞬カッケーって思っちゃいました」


 私が歌舞伎町のバーで働いていた時分も、ホステスの横では途端に強気になる客が珍しくはなかった。どう見ても気弱そうな男ほど、大胆に「ホテルに行こう」などど誘ってくるのである。この手のタイプは「買う側と買われる側」という明確な立場関係がなければ力を発揮できないようだ。

そんな、に優越感を与え、誰にも言えない性癖にコッソリと応えてあげるのがニューハーフの仕事でもあるのだが・・・。


 彼の豹変ぶりに呆気にとられたメンバーは「ミスター風俗」に全てを委ね、ゴーゴーバーに乗り込んだ。

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