第一章-3

 カリムが飛ぶ姿はアリステルの中ならば、どこにいようと見ることが出来た。


劇場庭園を囲う蔦編みアイヴイ・コクーンの高層建築群よりも上にいる彼の輪郭は、豆粒と大差ない。


それでも翼を広げる伝目鳩から送られた映像が、誰もが持つ通し手鏡オーロラビジヨンや街頭に設置された遠見鏡など、都市のあらゆるところで散見される。


 レイシャは、普段は見世物ではないような口ぶりだったが、そんなことはない。


 ヘクセがグラオベーゼンを行えば、それはいつだって人々の目に止まる。


 オフィスだろうと学校だろと家庭だろうと、見ようと思えば誰だって見ることが出来るのがグラオベーゼンだ。


 だからこそ、都市で生活する人々のうちのいくらかは、大鐘楼グロツケンチヤームが鳴ったその瞬間に手を止めティーブレイクに入るのだった。


 グラオベーゼンが行われる時間は、一回につき数十分がいいところ。

空の交通網スカイトラフイツクを止める以上、それが限界だと、アリステルに暮らす人々はよく知っていた。


 そして彼らはこうも思っているのだ。

 もう一度大鐘楼が鳴るまでは、少しばかり気を抜こう、と。


 時刻は昼食後の昼下がり。


 まだまだ続く一日を乗り切るため、一息つくのにはちょうどいい頃合だった。

だから人々は鐘の音を合図に、しばしの間手を休める。


 アリステルに多くあるオフィスで、学校で、そこらの通りで、そして家の中でも。


 様々な人が肩の力を抜き、鏡に映るカリムの姿を見つめていた。


 彼がこれから見せてくれるであろう楽しい時間を期待して。

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