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「おい、まだか」
長月の声に焦りが滲んでいる。イッセもレンズに集中しながら首を傾げた。おかしい。予定の時刻を過ぎているのにアーサーの影はいまだ見当たらない。
山峰の「嵌められたかな」という声が小さく聞こえた。「そんなぁ」と高宮の泣きがすかさず入る。
他のチームもざわつき始めているがまだ撤退の合図はない。
「とりあえず今は集中しよう。嵌められたのなら敵はどこから現れるかわからない。各自クロスの準備もしておくんだ」
イッセはレッグホルスターに収められているクロスと呼ばれるハンドガンに触れた。接近戦になった場合の武器だ。もちろん詰められている銃弾はフラクス弾である。
ライフルよりは断然にイッセの能力と相性がいいし扱いにも慣れている。それでも「やっぱり使いたくないよなぁ」と溜息混じりに呟けば「なにが?」と長月がこっちを見た。そのままイッセの手の中のクロスに眼を留めて「あぁ」と納得したように頷く。
「アーサーだって人間だしな。クロイドとの別れも堪えるだろうな」
「だよね」
「でも山峰さんが言ってただろ。生きるか死ぬか二つに一つなんだって。俺はたとえ相手を殺したとしても生き――」
その時だ。ふと視界に見馴れない影が映った。
「長月ッ」
「なんだ?急にでかい声出すなよ」
「違うっ後ろだ」
いつの間にこんな距離まで詰めてきていたのだろう。ヘッドグラスを嵌めた男が二人、長月の後方に立っていた。
「気づかなかった……なんでだ」
イッセも長月も五感能力は悪くない。だとするとそれ以上に気配を消せる能力があるということだ。
「うわぁビンゴだ。あの情報ってデマじゃなかったんだねぇ。てか猫耳ついてるよこの人たち。んーこれは情報になかったなぁ。でもかーわいいっ。ぼくたちもこんなだっさいヘッドグラスやめて獣耳にしようよっナガレ」
「アルファ、コードネーム」
「あぁごめんごめん。ね、ベータっいいよね、獣耳」
ナガレと呼ばれた男のコードネームはベータというらしい。そしてさっきからしゃべりまくってやけにテンションが高い小柄な男が、アルファ。二人とも黒ずくめで、胸元には学校で散々見させられたアーサーのマークが刺繍されている。どうやらこの二人が自分たちが撃つはずだったアーサーのようだ。
イッセはばれないように山峰たちに通信を試みた。が電波は一方的に流れるだけで、誰もキャッチする気配はない。おそらくそれぞれの持ち場で同時に同じような状況に陥っているのだろう。嵌められたという見解は正しかったわけだ。
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