集合時間十分前には既に全員が揃っていた。ここから現地まではチームごとに車で移動し、事前に打ち合わせておいた場所で待機する。もちろんこれら全てを秘密裏に行わなくてはいけない。アーサーはもちろんのこと、万が一にでも民間人に気づかれたら厄介だからだ。

 イッセたちもメインチームと打合せをした後に、当初に予定していた配置に散った。イッセと長月はビルの屋上にその身を隠す。

 会議室まで距離にして800。アーサーが控えていると思われる場所までも同じくらいの距離がある。長月が目視でいけるといったぎりぎりのラインだが、渡されたライフルにはしっかりスコープが装着されていた。つまり絶対に外すなということだ。

 イッセの手にも万が一に備えて近距離用のライフルが握られている。加えて頭にはスポッター用の眼鏡が装着されていた。この眼鏡をつけることで敵味方関係なくクロイド及び融合した人間の居場所を把握することができる。

 「にしてもこれはないわぁ」

 長月がこれといって指差したのは分離スイッチである。この装置を通してリーダーの山峰とも連絡を取り合うのだが、「それじゃあうちのチームはこれね」と渡されたのは練習用に配られたシンプルなヘッドフォンタイプではなく、柄違いのもふもふした猫耳タイプだった。チームごとに違うというそれは完全に山峰の趣味だ。間違いない。「こんなの絶対に目立つだろ」と長月が愚痴る気持ちもわかる。

 しかも「なんでこんなふざけたスイッチにしたんですか」と詰め寄るイッセに、「え?だって可愛いだろ」と真顔で答えた山峰がいちばん似合っていなかったのも不満の理由だ。

 「あの人、どうにも苦手だな。掴みどころがなくて落ち着かない」

 スコープを覗きながらぶつぶつ洩らす長月の頭には、真っ黒な猫耳がついている。意外と似合っていて可愛いのだが、そんなことは口が裂けても言えない。

 「確かに。言ってることは間違ってないんだけど、なんかこうすっきりしないよね」

 イッセは頭上の白耳に手を伸ばした。結構いい人工毛を使っているのか、手触りが妙に気持ちいい。ただし癖になる前に手を離す。

 眼鏡越しに眼下を見下ろせば仲間が点在しているのがわかった。猫耳を介して山峰と高宮の位置を把握する。まだ到着していないのか、アーサーの信号は読み取れなかった。

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